四畳半の彼
部屋のあちこちに まるでナメクジが通ったみたいな
彼の生活の痕が ねばねば 糸をひいている
一度も干したことのない布団は 来たときから押し黙って
震える彼の唇を 待っているのかもしれない
この部屋の混沌を 豊かな地平線だと言うならば
四畳半に蠢く不可思議な二文字を 文明の開花だというならば
君臨する王様の陰は もうとっくに凍りついている
錆付いたやかんに写るひげ面の彼は
タバコを吸いながらコーヒーを飲みたいと言い
汚い台所で誰かの心臓を一口サイズに切っている
しわしわにくたびれて まるで三日月の表面みたい
なんて思いながら
天井まで詰まれた空のペットボトルは 寝ている彼を見下ろして
付けっぱなしのテレビと ひそひそ 会話している
早く逃亡を
死に際と暴発を
いつか四畳半に飲み込まれ 息絶えるかもしれない彼
詰まらない本ばかりを読み漁り 立ち位置も定まらないくせに
震える唇はむしゃむしゃと 血の滴る肉ばかりを食らう
充満する色あせたノイズが 平坦の恐怖と手をとり
不可思議な二文字ばかりが 上澄みの寄せ集めと開国を望んでいる
カビの生えた王冠に 混沌の陰がのぞいて
立派で美しい彼は 甘んじて享受する
もうちょっと頑張れよ、とか しょうがねえ応援してやる、とか どれもこれも励みになります、がんばるぞー。