金がない話
私には金がないから、病院に行けない。金がないから、友達にも会えない。この街で覚えた小銭稼ぎはからだを売るより簡単だった。乳房と股座が私の金達を吸い取って、どこか遠くへ放ってしまう。だから、私に金は残らない。なけなしのタバコだけが、この部屋とともにある。
金がないから、私は親に優しくできない。金がないから、私は彼に優しくできない。世界いち優しいよ、の言葉はノートに閉じ込めて、仕方が無いから小銭を稼ぐのに。
金がないから、私は泣いている。金がないと、東京に居続けることは難しい。この家だって本当は、なけなしのお金達が私を呼ぶから来ただけで、元はと言えばネズミの住処だったはず。本もパソコンも、テレビも洋服も、私のものか至極あやしい。
金があれば、父と母に優しくできた。六十をこえた父の小さな背中に涙を塗りたくることもせず、六十を手前にした母の、シワが増えた小さな手に髪の毛を握らせることもなかった。兄が私に感じていた劣等を、東京で舐めるバカな私だ。鉄塔の元で新たな集合体を試みる兄は、現在の我が家にとってひとつの大きな希望である。
千鳥格子の十七歳は、まだJRの車内にいるだろうか。鉛色の重いからだを煤だらけのホームに滑り込ませているだろうか。二号車目の端の席で、数学の参考書を読んでいるだろうか。財布なんか持たず、父と母の暖かな檻のなかで、真っ直ぐに夕日をみていた私。
もうちょっと頑張れよ、とか しょうがねえ応援してやる、とか どれもこれも励みになります、がんばるぞー。