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健全な八つ当たり

一昨年の夏頃、理不尽で嫌なことがあった。他の人からしたら取るに足らないことだろうけど、私にとってはそうじゃなかった。例えるなら、道を歩いていて自転車を避けようとした人がぶつかってきて転んだ、みたいな感じ。考えたけど理由は分からなかった。でも嫌な気持ちになったので、どうしようか考えた。本を読もうと思った。嫌な気持ちになる本を。こうなったら、とことん嫌な気持ちになってみようじゃないかと思った。

私は本棚の前へ行き、約550冊近くの蔵書の中から、最終的に13作を選び、それらを1年近くかけて読んだ。ただ、続けて読むと流石に疲れるので、間に何かを挟みながらではあったけど。だから1年近くかかったんだと思う。記録を見ると、2021年8月に1作目を読み、2022年8月に13作目を読んでいた。


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古典から現代まで色々集めてみた。
約半数がロシア文学だったことに今初めて気が付いた



結論から言うと、どれも嫌な気持ちにさせてくれたし、とても良い読書体験だった。そして、やっぱり私にとってのストレス発散は読書に勝るものはないなと思った。

「SFすごい面白い、でもこれが現実じゃなくて良かった」「やっぱりディストピア小説好き!ソ連で発禁になったって時点で既にディストピア」「背中に刺さったりんごが死因なんて理不尽過ぎる」「遠野遥は、質のいい地獄を書くのが上手い」「人としての尊厳をボコボコにされた」「スメジャコむかつく」「ただひたすら気持ち悪くて不安になる」「モヤモヤするラストだけど、切なくて美しさすら感じる」「羆怖過ぎる、臨場感があり過ぎて怖過ぎる」「難解過ぎる、一番難解かも知れない、、、」「みんな一つになってしまったら、傷つくこともないけど、生きてる意味なくないか」「クズたちのグルーヴ感が凄過ぎる」「不謹慎だから笑っちゃいけないけど、その不謹慎さが笑えてきてしまう」

と、各々についてざっくりと言えば、こんな感じ。


嫌な気持ちになった時。お酒を飲んだり、好きなものを食べたり、八つ当たりをしてみたり。発散の方法は色々あると思う。ただ、八つ当たりをされる側としては、勘弁してくれと思うだろうけど。
お酒も弱く、暴食も出来ない私は健全に八つ当たりをした。長い八つ当たりだった。


どの作品も、主人公とか周りの人とかが嫌な目に遭う。寧ろ「嫌な目」という言葉では表せない程に、もっともっと酷い目に遭う。読んでいて決して良い気持ちにはならないと思う。でも私はこれらを読んでいる間、とても楽しかった。面白かった。何で嫌な気持ちになる本を読もうと思ったか、と言う理由すら忘れていた。それくらい没頭していた。この本たちを読んで良かったと思った。ありがとうと言いたかった。大きな声を出して泣けない私の、行き場のない気持ちを受け止めてくれてありがとうと思った。


本に興味のない人には、ただの文字の羅列に見えるんだろう。でも、本が大好きな人たちには、その羅列の向こうに確かな情熱を感じ、それに癒されて生きているのだと思う。


こんな風に、私はたまに"テーマ読み"みたいなことをする。今は、持ってる安部公房全部読む(計18作)と、一日一篇をやっている。安部公房は続けて読むと戻って来られなくなりそうだから、やっぱり間に何か挟みながらだけど。一日一篇は、ルシア・ベルリンの掃除婦のための手引き書を読んでいる。これも、とても素敵な本。読むと心がざわついてはくるけれど、すすすーっと真ん中の深いところにはいってくる。そろそろ終わるので、次は何にしようかなと考えている。

読みたい本が尽きない。自分でも欲張りだと思うけど、それはとても嬉しいこと。



最後に、私が今読んでいるルシア・ベルリンの本を紹介する。著者は波瀾万丈と言ってもいい人生を送った。だけど、その奥には強さと優しさがある。彼女の文章は、傷ついた心をそっと抱きしめてくれる。文庫も電子もあるので是非。

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