〈CINEMAロングレビュー〉ライアン・ジョンソン『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』:“ミステリーの女王”アガサ・クリスティーに捧げた渾身の一作(吉川明利)【2020.6 146】
■この記事は…
2020年6月20日発刊のintoxicate 146〈お茶の間レヴューCINEMA 〉掲載記事。ライアン・ジョンソンの2020年7月22日発売『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』をレビューした記事です。
intoxicate 146
“ミステリーの女王”アガサ・クリスティーに捧げた渾身の一作(吉川明利)
【Blu-ray & DVD】
ナイブズ・アウト /名探偵と刃の館の秘密
監督・脚本:ライアン・ジョンソン 音楽:ネイサン・ジョンソン
出演:ダニエル・クレイグ/クリス・エヴァンス/アナ・デ・アルマス/ジェイミー・リー・カーティス/マイケル・シャノン/ドン・ジョンソン/トニ・コレット/クリストファー・プラマー
[VAP VPBU-14037(DVD)VPXU-71818(BD)]
閉ざされた空間で起きる殺人事件、周りをイラつかせるように登場する名探偵、動機がありそうな容疑者全員が集められ、事件の真相が解明される。その名探偵の姿は、時にエルキュール・ポアロであり、時に金田一耕助でした。それらは1970年代に我々を魅了したミステリー映画のパターンであり、王道の展開といえるでしょう。そうした映画に原作を提供し、ミステリーの女王と呼ばれたアガサ・クリスティーに、ライアン・ジョンソン監督が捧げた、新しくも古典的な魅力に溢れる1作です。
タイトル登場前に映し出される、雰囲気ある館の映像と、事件の発端を簡潔に描くオープニングだけで、ミステリーファンのツボを押さえ、大いに期待感を煽ります。実は監督は過去に多くのファンを擁する某SF映画に参加して、理不尽とも言えるブーイングを浴びました。よってリベンジとも言える今作は、そんな無理をすることなく、自分の好きな古典的ミステリーに愛を込めた、自由な映画の感じが不思議なぐらい画面から伝わってくるのです。キャメラが部屋の内部を、やはり自由に動き回り、登場人物たちを画面に納めていることで、館自体の胡散臭さを醸し出しニヤリとさせてくれます。
ダニエル・クレイグは、ジェームズ・ボンドのイメージを覆す、ちょっと風変わりな名探偵ブノワ・ブランを気持ちよさそうに演じています。そして、クリストファー・プラマー演じる、殺された世界的ミステリー作家を取り巻く面々(その中に犯人が!)の役者たちも楽しげです。特に作家の長女役を演じるジェイミー・リー・カーティスと、その夫役のドン・ジョンソンは70~ 80年代に活躍したスターで、こうしたミステリーにピッタリの役柄、その余裕の表情は圧巻です。最近の実話の映画化ばかりのハリウッドにあって、このオリジナル脚本は貴重な財産です。名探偵ブノワ・ブランの次の事件が映画化されることを期待しましょう!
Knives Out© 2019 Lions Gate Films Inc. and M RC II Distribution Company LP.
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