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第71回:思い出し笑い「スーパースター林家木久扇!」(&ツルコ)


第71回:スーパースター林家木久扇!

*intoxicate vol.126(2017年2月発行)掲載

 自分で自分のことをスーパースターって言っちゃうご存じ林家木久扇のスーパースターなCDが登場です! 


 このところ、浅草演芸ホールの5月の上席(1日〜10日)の昼の部は、木久扇がトリを務めていて、その昨年(2016年)の高座6席を収録した2枚組。ゴールデンウィークの浅草で、「笑点」の人気者が主任ですから、お客様が毎年楽しみにご来場。その超満員御礼ぶりが、拍手と笑い声の大きさでよーくわかります。出囃子にのって登場してくるときの大拍手、そして爆笑。のっけから木久扇のサービス精神全開、お客さん大喜びで高座がスタート。ちょうどこの時期は、桂歌丸が「笑点」の司会を勇退、次の司会者はだれかが話題になっていて、連日マクラでそのことに触れてます。


 収録されているのは木久扇オリジナル落語の十八番で、子供の頃の映画館の思い出から数々の役者の物まねが楽しい《昭和芸能史》、立川談志とのエピソードを談志口調で語る《明るい選挙》のほか、《道具屋》《寿限無》《鮑のし》《湯屋番》といった古典落語が聴けるのが本作のうれしいところ。《寿限無》のマクラが、師匠・林家彦六のエピソードを語る「彦六伝」になっているのですが、“震えるおじいさん”の話に客席の子供が大笑いしていて、自分の師匠のことをずっと覚えていてほしいからとつくった噺が彦六を知らない世代にもこんなにウケてるのって素晴らしいと思いました。どの噺も、だれが聴いてもわかって同じように笑える。「だれが聴いても」って実はすごいことですよね。


 以前、まだ木久扇になる前の木久蔵だった頃に「キクラクゴ」というCDをつくらせていただくことになって、高座を何回か収録させてもらったとき、関東近郊の1000人規模の大きなホールにいっぱいのお客様が、木久蔵出てきたっていうだけでもう大喜び! というのを目の当たりにしたのですが、その寄席とも普段行っていた落語会とも違う雰囲気は初体験でした。もう客席みんなが笑顔なんです。いつもテレビで観ているキクちゃんが目の前にいて、「笑点」でおなじみの木久蔵ラーメン(会場ロビーでご本人がお弟子さんたちと売ってました!)や笑点メンバーの話をするともう笑いっぱなし。それはそれは楽しそうで、ああいいな、この雰囲気を伝えたいなと思ったことを覚えています。今回のCDを聴いて、そのときのことを思い出しました。「楽しんでもらいたい」気持ちがあふれていて、客席に伝わって、みんなで笑って、落語って面白いねーっていうシンプルな感じ。このCDにもそれがあって、聴いたあと「ああ面白かった!」と幸せな気持ちになりますよ。生
で体感したければ、ぜひ今年のGWは浅草へ!


 そんな木久扇門下の林家彦いちが、ものすごいことになってます。元々体育会系、アウトドアな噺家さんですが、なんとヒマラヤに行き地上5200メートルのエヴェレスト中腹で《反対俥》をやったんですって! 昨年公開され自身も出演している映画『エヴェレスト神々の山嶺』を撮影中の平山秀幸監督(『しゃべれどもしゃべれども』『やじきた道中 てれすこ』)を、原作者の夢枕獏と訪ねて行き、人力車を引いて全力疾走するこの噺を酸素が地上の半分しかないところで披露したそう。無謀すぎる…。さらにその上まで登って《初天神》をやり、エヴェレストへの奉納落語としたそうです。以前、春風亭昇太が六本木ヒルズ上階での落語会で、落語史上最高地点かもって言ってましたが、彦いちに大きく超されちゃいました。今回のCDはその酸素不足の高座ではなく、2015年春の出発前日の落語会での《反対俥》。障害物を飛び越えるくだりで座布団に座ったまま飛び上がるんですが、自身の跳躍最高値が出た、らしいです。そして、エヴェレスト後に手がけた噺、マッターホルンの山頂にうどんの出前をする《遥かなるたぬきうどん》(三遊亭円丈作)は実体験した人ならではのリアルさが! ライナーノーツでご本人が「僕の旅は座布団に戻ってくるためのものである」って書いてますが、名言!


CD『林家木久扇  ザ・スーパースター』
DISC1「道具屋」「昭和芸能史」「寿限無」
DISC2「鮑のし」「明るい選挙」「湯屋番」
林家木久扇
[ キントトレコード KNCZ-83001] 2CD

CD『毎日新聞落語会シリーズ 林家彦いち』
「反対俥」「遥かなるたぬきうどん」
林家彦いち
[ 来福レーベル MHCL-2656]

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