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【挾間美帆】歴史あるデンマーク・ラジオ・ビッグ・バンド(DRBB)との新作を、Edition Recordsからリリース!

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©Agnete Schlichtkrull

歴史あるデンマーク・ラジオ・ビッグ・バンド(DRBB)との新作を、Edition Recordsからリリース!

Interview&text:佐藤英輔


 ニューヨークを拠点とする作編曲家である、挾間美帆の新作が出る。その『イマジナリー・ヴィジョンズ』はこれまで3枚発表している自己ラージ・アンサンブルのm_unitでのものではなく、デンマーク・ラジオ・ビッグ・バンド(DRBB)との録りおろし作。それは、2019年に歴史あるスカンジナヴィアの著名楽団の首席指揮者に就任した彼女の、同ビッグ・バンドとの最初の壮大な一里塚となるアルバムだ。このコロナ禍のおり、彼女はいかにデンマークの人々と通じ合った作業をすすめたのだろう。なお、そんな本作は英国の清新ジャズ/即興音楽レーベルのエディションからのリリースとなる。そんなところにも、挾間美帆に対するインターナショナルなさらなる評価を感じてしまう。

——コロナなんかものともせず、挾間さんは世界を飛び回っている。そう感じてしまいますが。
「そうですね。できることをできる範囲でやっています。『イマジナリー・ヴィジョンズ』は3月にデンマークに行って録音しました。ただ、(このおり)全員同じ部屋に入って録音することは建物のルール上でできなかったので、トランペットとトロンボーンは別の部屋に入り、私はモニターで見る形で録音しています。そして、ミックスとかマスタリングも全部リモートで繋いで作業をしました」

——3月に録ったとおっしゃいましたが、それは予定通りでしょうか。それとも、コロナ禍で予定が伸びた末の、3月の作業だったのでしょうか?
「もともとの予定です。2020年の10月に、デンマークでこの初演をすることが決まっていたんです。それに向けてちょうど(昨年NYの)ロックダウンの時に初演は叶わないかなと思いつつ音楽を書いていたんですが、結局初演ができたんです。そして、それを活かすためのレコーディングも予定され、1週間の予定を3月に設けました。クリスマスの直前、12月から2月いっぱいまでデンマークは完全にロックダウンしていたので、本当にギリギリでしたね。その1週間は奇しくも、ロックダウン後にメンバーみんなが初めて会うことができる1週間だったんです。本当に綱渡り状態でした」

——では、作曲と編曲は公演のためにまず作って、コンサートの後にアルバムにまとめたという感じですか?
「そうですね。ただ、さすがに全部新しい曲ではなく、もともとあった曲をDRBBに合わせて書き直したものもあり、そこに新たに曲をたした状態でレコーディングに入りました」

——ところで、昨年のロックダウン期はどんな感じで過ごしたのしたのでしょう?
「ロックダウンになってすべての演奏活動が中止になったものの、引き受けた作編曲仕事はあまりキャンセルになりませんでした。作曲の仕事というのはそのバジェットが決まった上での委嘱作品が多いですから、この影響が出てくるのは、これから先の話なんです。去年のバジェットがなくなったという影響を受けるのは2年後、3年後になりますね。だから、去年の段階で仕事は残っていて、なんだかんだ毎日書く仕事にとても追われていました」

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©Agnete Schlichtkrull

——クラシックの素養も持ち、管楽器とともにストリングスなど普通のビッグ・バンド編成にはない楽器も入れた中で自分の世界を作る。挟間さんの活動母体となるm_unitの表現にはそういう感想を持ちます。一方、デンマークのDRBBは管楽器奏者とリズム・セクションという従来のジャズのビッグ・バンドの編成に依ったものです。
「そうですね。もちろん、自分のオーケストラではないので、バンドに対するスタンスは全然違います。自分のm_unitは自分の玩具と言いますか、自分がメンバーを選んで自分の好きなようにいくらでも好き勝手やって良い。その点、DRBBの場合はデンマークの国営ラジオ局が持っているビッグ・バンドで私自身がミュージシャンを選んでいるわけではありませんし、これまで彼らが築いてきたビッグ・バンドとしての歴史を背負った上で、その先にメンバーたちと何ができるかという責務を考えますね」

——もともとは、2017年の東京ジャズのプログラムで一緒にやったのがDRBBとの最初の重なりとなるんですか。
「その通りです」

——挾間さんのマンハッタン音楽院時代の先生であるジム・マクニーリーも、かつてDRBBに関与していましたよね。
「DRBBではサド・ジョーンズ、ボブ・ブルックマイヤー、ジム・マクニーリーというニューヨークのジャズの系譜を知る作曲家たちが歴代音楽監督をしているので、なにかしらニューヨークに所縁がある人がそのポジションについてほしかったという気持ちが、彼らにはあったのではないかと思います。17年間もその座が空いていたのでなんとも言えませんが、だから私が呼ばれたのではないでしょうか。その流れは大切にしなければいけないと私自身、常々思っています」

——今作の音を聞いて、m_unitとはまったく別の人たち/編成でビッグ・バンド表現をやるなら、私はこうするという意欲と創造性をぼくは目一杯感じてしまいました。
「2017年から一緒にやり、2019年から今のポジションにつき共に演奏活動してきているので、1人1人の奏者の長所とか、演奏のキャクターとか、そういうこともだいぶ見える段階で曲を書いていきました。それに合わせて書けたことは大きいです。また、それと並行して、サド・ジョーンズ、ボブ・ブルックマイヤー、ジム・マクニーリーという3人の音楽監督が彼らを率いてきた事実、そしてそこで一緒に演奏してきたメンバーがまだ在籍してきているということも重く受け止めています。教えを請うた教授が17年前にしていたポジションに自分が今ついているということも、大変光栄に思います。彼らの作品をDRBBと演奏する機会も多いんですけど、その過程で3人の音楽的要素を確認し、作曲のアイデアを得たりもしています」

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©Nicolas Koch Futtrup

——今の話を聞くと、自分のm_unitによる表現よりももう少し積み重ねられてきたジャズの核心に則ってDRBBとの協調はなされているのかとも思ってしまいますが。
「そうですね。DRBBという歴史、その延長線上に自分のオリジナリティというレールを引こうとしています。そして、その後からジャズの歴史の一部になっていればという思いです」

——DRBBの構成員って、何歳からなん歳ぐらいの方たちなのでしょう。
「一番若いのは27歳。サド・ジョーンズと演奏していたころのメンバーは、この前68歳になりましたね」

——全員、デンマーク人ですか。
「少し他のヨーロッパの方々も混ざっています。英国、オランダ、スウェーデン人ですね」

——基本はデンマーク人が多いんですね。彼らと接すると、ああこうなのかとか感じることはありますか。
「あります。基本的にマイペースなんですけど、賢いです。その賢いところが良いですね。頑固だったりネガティヴだったりとか、マイペースでもいろいろ種類があると思うんですが、デンマークのメンバーたちは賢いので、そのバランスがとても絶妙なんです。自分がこうしたいというマイペースな部分と、私に寄り添ってくれる部分のバランスを取ってくれています。だから、一緒に音楽をしていて、とても心地良いです。あとは、ものすごく優しい、心の温かい人たちです。youtubeに私が就任したした際に彼らが空港でやったフラッシュモブの動画があるんですが、それを見てもらえば分かると思います。そういうことを心を込めてやってくれる、すごく愛情あふれている人たちですね」

フラッシュモブの動画

——アルバムを聞くと、挟間さんのスコアを受け、こんなのをミホが出してきたぞという感じで、彼らが嬉々として演奏している様が伝わってきます。
「会社に雇われてずっとオーケストラをやっていると疲弊してきたりするんですが、彼らの場合はとても練習熱心ですし、一切そういうことがないんですよ。これはちょっとやりすぎたかなという、難しい曲がなきにしもあらずなんです。でも、驚いたのはその後にメンバー複数から、こういうふうに僕たちの尻を叩くものを書いてくれるのはいいこと、これからもチャレンジングなものをどんどん出して大丈夫だよというメールが来たんです。そういうことって今まであまり経験がなかったことで、貴重ですね。彼らは大きい組織にいるのに、新しいことに喜びながら、真摯に取り組もうとしていますね」

——そして、新作は英国のエディションからの発売なんですね。
「はい。エディション・レコーズの社長からインスタグラムに直接、メッセージが来たんです。それが、最初でした今風だなと印象的でした」

——ウチからから出さない? みたいな内容だったんですか。
「そうです。すごくタイミングがいいことに、このレコーディングをする直前の話だったんです。それでこれからこういうのを録るんですが出しませんかと返したら、とんとん拍子に話は進みました」

——そうだったんですか。今、エディションに注目している人も少なくないと思いますし、今度の『イマジナリー・ヴィジョンズ』でDRBBがもっと若い聞き手に知られるような気もしますし、いい所から出るなとぼくは思ってしまいました。
「ありがとうございます。親身になって、どういうふうに名前を広げていこうか、ブランディングしていこうかと、考えてくれる人がいるというのはとてもありがたいですね。今回のアプローチは自分にとっては新鮮な経験でしたし、とても嬉しいことです」


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Imaginary Visions
挾間美帆 、 Miho Hazama featuring Danish Radio Big Band
[Edition Records KKJ-163(UHQCD)EDNLP1182(LP)]


【掲載号】

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2021.10.10 #154

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