第6回 友人インタビュー「大型書店で働いていた話」1/全4回
(Fさん 2020年5月初旬)
インタビュアー田中の友人インタビューシリーズの第6回。
数年前まで首都圏の大型書店にお勤めだったFさんのお話です。書店のお仕事のあれこれを、Fさんの7年間の経験からお聞きしました。
※インタビュアー田中の発言の前には──が付いています。
付いていない発言はFさんの発言です。
※個人的な経験と記憶に基づいたお話です。事実、あるいは現状と異なる箇所があるかもしれません。
Fさんへのインタビューは4回に分けて掲載します。Fさんに根掘り葉掘り聞いた書店員さんのお話、どうぞお楽しみください!
「棚担当(たなたんとう)」
──お勤めの書店では、担当の“棚”=受け持ちの本のジャンルがあったんですよね。
僕は一番最初は法律担当で、法律関係とか法律系の資格本を扱う棚を受け持っていました。
その次に社会の棚の担当。社会の中でも細かく分かれていて、僕がやっていたのは社会、政治、行政、各国事情、メディア、国際政治、軍事等。働いた7年間は、担当で言えば大きく2つですね。
──担当の棚は、どういう理由で決まる?
たまたまですね。その従業員が入った時に人員が必要な棚の担当になります。僕は別に法律とか知らないですしね。何も知らぬまま担当になりました。
──その人が勉強していたことの専攻を見て、という感じでもない?
ないと思いますね。タイミングが合えばそういうこともありましたけど。だけど担当になれば、書籍のことに関してはそのうちわかっていくんで。もちろん、法律の詳しいことまではわかんないですけど、それは書店員であって専門家じゃないんで仕方ない部分です。
法律棚担当の時、「こういう訴訟をしたいんですけど、どうすればいいんですか」みたいな相談もあったりはしたんですけども(笑)、法律名や内容を聞いて、それはこの辺に置いてあります、とお伝えしました。けれど、最終的にはやっぱり、弁護士さんとか専門家に聞いてもらうのが一番ですよと言うしかないけど。
逆に、学問や研究に使われるような専門書とかはお客さんの方が詳しいんで、そこまで聞かれないです。
在庫と補充
──在庫はバックヤードに結構あるものですか?
結構あります。バックヤードだったり、棚下(棚の下の引き出し)だったり。書店によって収めてるところは違うとは思いますが。特に僕がいた書店のレベル(大型書店の本店クラス)だと、品揃えがステイタスでもあり、ある程度揃えておかなきゃいけないんで、売り場に出しきれないものも結構ありますね。
在庫って、持ってれば持ってるほどいいわけではなくて、棚卸しの時にそれはそれで困るので、僕のいた店は、売り上げが厳しくなってきたのもあって古い本や売れない本は切っていく方向でした。
──売れたら自動で発注される流れなのでしょうか?
はい、POSレジで自動発注システムができているので、大体そうです。全部が全部じゃないんですけどね。
──この本は常に何冊置いておこうとか、決まってるんですか?
基本的には、店頭に置いてある本は、在庫が2冊を切った時点で発注がかかるようにするとか、1冊切った時点で発注がかかるようにするみたいな感じで、発注のタイミングを設定することができます。
在庫の分はもちろんデータベースがあるので、調べてくださいって言われたら、この本は何冊ありますっていうのはすぐわかるようにはなってます。データ上はね(笑)。
万引きなんかで本がなくなったらデータも狂ってくるし、入荷してきた時に違う棚にさしてしまったりとか、お客さんが勝手に違う棚にさしたりしたら、在庫があると出ているのに見つけ出せない本も出てきたりするんです。
──データベースはありつつ、数の狂いも生じている可能性をわかっておかないといけないわけですね。
在庫があるかと聞かれたら、データを見ただけではお客さんに「絶対あります」という言い方はできない。例えば電話で問い合わせを受けたら、現物があるかどうかをまずは確認する、というのが重要です。
※POSレジ ネットワークにつながったレジ。データベース機能、通信機能がある。
取次さん
──全部が全部、自動発注じゃないというのは?
取次(とりつぎ)さんとかそういうややこしい話になります。出版取次会社ってわかります?
──聞いたことあります。
出版社と書店をつなぐ中間の問屋さんを取次さんと言います。さっきのPOSレジを通すと発注できる話ですが、大手の、自動発注システムを入れている取次さんから入ってくる出版社の本は自動で発注がかかるんですよ。
だけど取次を通さず独自で書店と取引をしているような小さい出版社さんの本は、自動発注がかからないんです。取次でも、小さい出版社を取りまとめているような取次さんだと、自動発注システムを入れていないところもありました。
本って基本的にISBNコード(本の裏表紙についているバーコードとナンバー)っていうのがついているから、POSレジを通してデータが見られるので、これは自動発注がかからない本だ、とわかったら自分で発注しなきゃいけない。なかなか完璧にはできないんですけどね。
そういう自動発注されない本は、スリップで発注を入れます。スリップ…なんていうの、サシとも言いますね、本に入ってる短冊状の紙あるじゃないですか、あれです。売った時にスリップを抜いて、ためておくわけです。
──ISBNは全ての本についてるんですか?
基本的にはついています。自費出版本とか、博物館が作っている本とか、そういうのはISBNがついてない場合もあります。完全に直接やり取りしてるような本ですね。
それこそスリップさえも入っていないような本もあるんで、入荷した時に店員がスリップを作って、入れておく。売れたら回収して、発注する。
──売ったあと、発注するのはすぐやるんですか?
そうですね、売れたらその次の日にはやりますね。売れたということは買う人がいたということなんで、また売れる可能性がありますから。
集まったスリップを遅番の人が分類しておいたのを見て、次の日の朝に早番の人が発注をかけるっていうのが普通の流れ。いつ発注してもいいんで、自分がレジを打った時に自動発注がかからないような本だったらすぐに発注しておいてもいいですし。
店員の手で発注しなきゃいけない本は、もしそのスリップが行方不明になってたら、在庫がなくなっていることがわからなくなる可能性もあります。でも、そういった本を入れている小さい取次さんとか、出版社さんがそれぞれ来て、棚を見て、あの本がないです、売れたみたいです、って言ってくれることは結構多いんで、その場で発注したりもしてました。とは言え、漏れてしまって店頭からなくなっていく本も多いでしょうね。
ただ、一番多いのが、万引きでなくなってしまうパターン。
万引き、せどり、その対策
──万引きって結構あるんですか?
かなりですね。多分年に何百万とか、それ以上の損害は出てますよ、大型書店は。
──うわあ〜。漫画とか小説とか、そういう売り場の方が万引きが多いイメージですが、Fさんご担当の売り場でも……
ありますよ。専門書とか高額商品が置いてあるから。転売目的での万引きだと思います。いろんな対策をしていますよ。
──防犯カメラとか?
防犯カメラもあるし、売り場をチェックしているGメン的な人がいる。
──書店員さんとは別で雇っているんですね。
そう。警備の人というのがちゃんといます。そういう人たちって知識があるので、結構万引きを見つけます。店員でも勘が鋭くてよく見つける人もいて、見つけたら警備員さんに連絡とって任せる感じ。自分らで追いかけると危ないんで。
あと、「せどり」って、転売目的ではあるけど、お金を払って買う人たち、転売ヤーって言われてる人たちが、最近はよくウェブせどり的なことをしてる。例えば新刊だけど人気で、入荷数が少ない商品は、ネットで値が上がるんですよ。ネットで値が上がってるのを見て、大型書店とかにガーッと問い合わせして、通常価格で購入して、値が上がってるネットショップで売って、その差額で儲けるっていう。現代版せどり的な感じですね。
※せどり(競取り、糶取り)とは、『同業者の中間に立って品物を取り次ぎ、その手数料を取ること。また、それを業とする人(三省堂 大辞林より)』を指すが、一般的には古本用語を元にした「掘り出し物を第三者に販売して利ざやを稼ぐ」商行為を指す言葉。(Wikipediaより引用)
──自分で買って売る分には、犯罪ではないんですよね。
だからこっちも文句は言えない。例えば、希少な本だけど、大型書店だったので5冊在庫があると言ったら、5冊全部ください、って言うせどりの人がいる。けども、こっちもできればそういう人よりかは多くの人に普通に買ってもらいたいんで、売れ筋の希少な商品は「お一人様1冊まで」にしたりするけれども、基本的に売りませんっていう選択肢はないです。お客さんなんで、一応。誰かに高い値段で売りつける目的で買ってるにしても。
そうそう、いつだったか、書店のすぐ隣のビルに新古書店ができまして。
──あら。(笑)
※新古書店(しんこしょてん)とは、比較的近年に出版された本(新古本)を売買する日本の古書店の事。(Wikipediaより引用)
ちゃんとその新古書店の方とも話し合いをして、もし誰かが新しいきれいな本を何冊も売りに来たり、怪しいなと思ったら連絡をもらうという取り決めをして、それで万引きが発覚した件も何件かあります。本も返ってきました。
──書店で万引きをしたその足で新古書店に売りに行くということですね……。
聞き取り:インタビュアー田中
(2へつづく)
2/全4回「新刊本、何冊入れるか」「棚卸し」「出版の傾向でレイアウトを変える」「書店員に大事なこと」はこちら→
3/全4回「定番フェア・自由企画フェア」「書店員のPOPは伝わる」「うれしかったこと─良本発掘」「本は高くて買えない」→
4/全4回「気難しいお客様 接客のこと」「売り上げの減少、出版社の自転車操業」「書店における左右のバランス」「書店員の醍醐味─面白い本を紹介する」→
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大きい本屋さんに久しぶりに行きたくなりました。ISBNがついていない本、探してみたいです。
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