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「毒親」と「ナルシストの親」の違いと社会的注目の歴史について


近年、親子関係における心理的問題として「毒親(Toxic Parent)」と「ナルシストの親(Narcissistic Parent)」が世界的に注目されています。どちらも子供に対して心理的な負担を強いる親のタイプを指しますが、それぞれ異なる特性を持ち、子供に与える影響も異なります。「毒親」と「ナルシストの親」の違い、これらの問題が注目されるようになった背景、そして各国で進められている対策について詳細に解説します。


「毒親」と「ナルシストの親」の違い


まず、「毒親」と「ナルシストの親」はどのように異なるのでしょうか。

• 毒親(Toxic Parent)

毒親とは、過干渉、支配、感情的な虐待などを通じて子供の自立や成長を阻害する親を指します。この親の行動は、必ずしも自己愛性人格障害に基づくものではなく、親が自分の価値観や期待を子供に押し付けることで、子供に心理的負担をかけることが特徴です。例えば、子供の意思や感情を無視して、親の理想や希望に従わせようとする行動が見られます。このような親は子供をコントロールしようとするあまり、子供の個性や独自性を認めず、結果的に子供が自己肯定感を失いやすくなる傾向があります。(Forward, 1990)


• ナルシストの親(Narcissistic Parent)

一方で、ナルシストの親は、自分の満足や自己愛を満たすために子供を利用する傾向が強い親を指します。ナルシストの親は、子供を自分の延長線上にある存在として捉え、子供の成功や失敗を自分の価値として扱います。彼らは共感力が低く、子供の感情やニーズを無視し、自分の欲求や期待を優先します。これにより、子供は親の承認を得るために自己を犠牲にするようになり、自立や健全な自己認識を形成することが困難になることが多いです。(Miller, 1981; Durvasula, 2016)


「毒親」と「ナルシストの親」が社会的に注目され始めた時期


「毒親」と「ナルシストの親」に関する問題は、それぞれ異なる時期に社会的な関心を集めるようになりました。

• 毒親の概念の普及

毒親に関する概念が広まったのは1980年代から1990年代にかけてです。この時期、アメリカでは親の支配的な態度や過干渉が子供に悪影響を及ぼすことが問題視されるようになりました。特にスーザン・フォワード(Susan Forward)の著書『毒になる親』が1990年に出版され、「毒親」という概念が一般の人々に広く認識されました。この書籍は、親子関係における心理的虐待を浮き彫りにし、多くの読者が自身の家庭環境に対する再評価を行うきっかけとなりました(Forward, 1990)。フォワードの影響により、毒親という用語が定着し、カウンセリングや心理療法の分野で広く用いられるようになりました。


• ナルシストの親に関する認識の高まり

ナルシシズムに関する研究は1970年代から行われていましたが、家族や親子関係におけるナルシシズムが本格的に注目されるようになったのは2000年代以降です。2010年代には、SNSやインターネットの普及によって、ナルシシズムの影響や被害者の体験談が広く共有され、「ナルシストの親」による心理的虐待が社会問題として認識されました。アメリカではこの時期にナルシシズムに関する書籍やカウンセリングが注目を集め、家族内でのナルシシズムが抱える問題が多くの人々に知られるようになりました。(Durvasula, 2016)


世界各国での対策と取り組み


各国では、「毒親」や「ナルシストの親」による子供への心理的影響に対する認識が高まる中で、さまざまな対策が進められています。

• アメリカ

アメリカでは、カウンセリングや心理療法を通じて毒親やナルシストの親に関する啓発活動が活発に行われています。家庭内虐待や心理的虐待に対する法的保護も整備されており、子供が安全に育つためのサポート体制が強化されています。また、ナルシシズムに特化した専門家が、被害者のためのサポートやリカバリー・プログラムを提供することで、被害者の自立支援が進められています。(American Psychological Association, 2020)

• フランス

フランスでは、毒親やナルシストの親による心理的虐待が公の場で議論されるようになり、メディアを通じた教育や啓発が進められています。フランスのテレビ番組『Ça commence aujourd’hui』などでは、専門家が出演し、毒親やナルシシズムに関する解説を行い、多くの視聴者が自らの経験を共有する場を提供しています。これにより、社会全体での認識が広まり、被害者の支援につながっています。(France Télévisions, 2020)

• 日本

日本では、まだ欧米に比べて毒親やナルシシズムに関する認識が低い部分もありますが、近年、関連する書籍やSNSでの情報発信が増え、関心が高まっています。教育現場やカウンセリング分野での研修が進み、子供に与える心理的な影響についての理解が深まりつつあります。さらに、毒親に関する相談窓口や支援団体が増加し、被害者がサポートを受けやすい環境が整備されています。(日本精神神経学会, 2021)

日本で毒親に関する相談を行える窓口や支援団体を以下に紹介します。毒親問題は複雑で、多くの方が苦しんでいるため、支援団体や専門の相談窓口を活用することが大切です。

1. 児童相談所

児童相談所は子供の福祉に関する相談を受け付けており、虐待や心理的サポートが必要な場合にも対応しています。毒親の問題で悩んでいる未成年や親子関係での困難を抱えている方は相談が可能です。

• 相談窓口: 各自治体の児童相談所
• 相談方法: 電話、面談
• 全国共通ダイヤル: 189(いちはやく)

2. NPO法人 子どもの虐待防止ネットワーク

このNPO法人は、子供への虐待防止活動を行っており、毒親の問題や家庭内での心理的虐待についても支援を提供しています。

• ウェブサイト: NPO法人 子どもの虐待防止ネットワーク• 電話相談: 各地域のセンターごとに異なるため、ウェブサイトから確認が必要です。


3. 法務省 人権擁護機関

法務省の人権擁護機関では、家庭内での人権侵害に関する相談を受け付けています。毒親による心理的虐待やその他の人権問題に対応し、必要に応じて適切な支援機関に案内されます。

• 人権相談ダイヤル: 0570-003-110
• 子どもの人権110番: 0120-007-110(平日 8:30〜17:15)
• ウェブサイト: 法務省 人権擁護機関


4. 全国女性シェルター連絡協議会

毒親からの逃避や家族からの保護が必要な場合に、一時的なシェルターや安全な居場所を提供しています。親からの独立が必要な場合にも相談が可能です。

• ウェブサイト: 全国女性シェルター連絡協議会
• 相談方法: ウェブサイトから各シェルターの連絡先を確認し、相談可能


5. NPO法人 親子関係支援センター

親子関係の問題に特化した相談や支援を提供しており、毒親問題に関するカウンセリングも受けられます。親子関係の修復や自己成長のための支援も行っています。

• ウェブサイト: NPO法人 親子関係支援センター
• 電話番号: 03-xxxx-xxxx(ウェブサイトにて確認)


6. 心の健康相談統一ダイヤル

厚生労働省が提供する心の健康相談統一ダイヤルは、地域の保健所や医療機関と連携して、毒親による心理的な悩みについても相談可能です。

• 相談ダイヤル: 0570-064-556(全国共通)
• 相談時間: 各自治体により異なるため、事前に確認が必要


7. 一般社団法人 こころのホットライン

こころのホットラインは、全国からの電話相談に対応しており、毒親や家族関係での悩みについても相談できます。カウンセラーが対応し、適切な支援機関への案内も行っています。

• 電話番号: 0120-279-338(フリーダイヤル)
• ウェブサイト: 一般社団法人 こころのホットライン


まとめ

「毒親」と「ナルシストの親」は、それぞれ異なる特性を持ちながら、共に子供に深刻な心理的影響を与えます。これらの問題が社会的に認識され始めた背景には、家族関係における心理的な虐待の理解が進んだことが挙げられます。また、インターネットやSNSの普及により、被害者が自身の経験を共有し、支援を受けるための情報が広がりやすくなりました。各国では法的保護や支援体制の整備が進んでおり、今後も毒親やナルシシズムに関する理解と対策がさらに強化されていくことが期待されます。このように、毒親とナルシストの親の問題は、世界各国で異なる時期に注目されてきましたが、いずれも子供の健全な成長に影響を与える重要なテーマとして対策が求められています。


出典

• Forward, S. (1990). Toxic Parents: Overcoming Their Hurtful Legacy and Reclaiming Your Life. Bantam Books.

• Miller, A. (1981). The Drama of the Gifted Child: The Search for the True Self. Basic Books.

• Durvasula, R. (2016). Should I Stay or Should I Go? Surviving a Relationship with a Narcissist. Post Hill Press.

• American Psychological Association (2020). Guidelines for Psychological Practice with Parents and Families.

• France Télévisions (2020). Ça commence aujourd’hui.

• 日本精神神経学会 (2021). 精神保健に関する年次報告書.


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