採用を成功させるための組織づくりとは。
新卒・中途ともに、毎年数百人規模の採用を行っているソフトバンク。労働力人口が減少し、人材争奪戦が激化している中でも、エンジニアを中心に自社にフィットした人材の安定的な採用を続けています。どのような採用体制で、どのような取り組みを行っているのか。また、人事領域においてはどのようなキャリアプランがあるのか。長年指揮を執っておられるソフトバンク株式会社 執行役員 コーポレート統括 人事本部 本部長の源田泰之さんにお話を伺いました。
自社に合った人材の採用確度を高めるために、採用チャネルの多様化を推進
──2008年に営業から人事に移られたとお聞きしています。その当時を振り返って感じた人事採用での課題は何かありましたか?
人事部門全体を通して、1つ挙げるなら「できるだけ失敗しないように」といった空気感があったと思います。もちろん、社員の生活に関わるような給与や人事制度などは慎重に議論を進めていく必要があります。
しかし、今や採用チャネルは多岐にわたり、採用業務が複雑化する中では、ATS(採用管理ツール)など、さまざまなツールやテクノロジーを使って、業務の効率性を高める必要があります。そのための人事業務全体の改善や挑戦という発想をもっと大事にすべきだったと思います。
人事領域に異動し、最初は人材開発部長でした。その後採用部長や統括部長を兼務しましたが、最初の3年ぐらいは採用業務に本腰を入れて改革してきました。その時にトライ&エラーを繰り返しながらもテクノロジーの活用を積極的に行い、採用チャネルも広げていきました。
当時は転職エージェント比率が、全体の8〜9割を占めていたと思います。それを、他のチャネルを増やして、多様化を進めていきました。やはり売り手市場だと、どの採用チャネルで自社にフィットした人材に出会えるか分かりません。だからこそ、多様なチャネルを活用することが重要だと考え、シフトチェンジしていきました。
採用では、「社会人インターンシップ」や「タレントプール」の活用にも注力している
──現在、どのようなチャネルを活用して採用活動を行っているのでしょうか?
ダイレクトリクルーティング、リファラル採用、ホームページとイベントによる集客など、直接採用の割合を広げる事に注力しています。
転職エージェントの比率は全体の5割程度となり、これは世の中の大手企業よりは低いと思います。
あとは、まだまだ比率として低いですが、これから注力していくのが「社会人インターンシップ」による採用です。
副業・兼業のようなスタイルだと二重雇用になり、労働時間の管理などの問題が生じるため、ここに関しては、現在就業していない男女に限定しています。特に、出産、育児を経て、しばらく仕事を離れて、今は企業と雇用関係のない方などは「女性活躍」という文脈で、積極的に実施しています。
もう1つ、当社として注力しているのは「タレントプール」の活用です。ソフトバンクを退職された方や、ダイレクトリクルーティングを通じてアプローチしたものの、タイミングが合わずに、ご辞退された方々を、自社のデータベースに登録して、定期的にこちらからアプローチさせていただいています。
「プロモーション」「フロント」「バックヤード」の3課体制で採用業務に対応
──採用体制は、どうされているのでしょうか?
今の採用部は、組織を整え、「プロモーション」「フロント」「バックヤード」3課体制で取り組んでいます。
ダイレクトリクルーティングなどはノウハウやケーパビリティが必要なので、採用関連のキャリアが長いメンバーもいますが、全体としては3年程度でジョブローテーションする人が多いですね。
新卒採用の「フロント」にはリクルーターとして、学生と年齢が近しい若手の社員を中心に配置しています。また、新卒採用でも積極的にAIやテクノロジーを活用しており、新たな発想で新卒採用を推進できる人材も揃えています。
採用の「バックヤード」には、比較的キャリアのある人材がオペレーションを対応しており、安定的な業務遂行や効率化に取り組んでくれてます。
採用領域で活躍するなら「採用」業務だけでなく、HRBPや人材開発の経験も必要
──採用領域で活躍されている皆さんは、どんなキャリアプランを持っているのでしょうか。
当社はグループ会社が非常に多く、グループ会社の人事責任者の20〜30名はソフトバンクからの出向者です。当社で人事領域のキャリアを考えた時には、子会社の管理部門へ移る人が増えています。各社「採用」のニーズや重要度が高いため、採用業務の経験を持っていると非常に重宝されるので、 アサインされやすいというのはあります。
──採用の専門性を活かして、キャリアを続けていきたいという方は多いのでしょうか。
ジョブローテーションではなく、「採用が面白いので、そこの専門性を活かして、やっていきたい」というメンバーも一定数はいます。個人的には、非常にいいことだとは思っていますが、より良い採用をするために事業部門と連携したり、 事業部門で働いている人をより知ろうと思うと、採用業務だけに留まらず、HRBPなども経験し、人事領域での経験を広げていくことを薦めています。
例えば、「新卒採用」をもっと極めていきたい人がいるとします。そうなると、採用後のオンボーディングも密接な関係であり、非常に重要なテーマとなります。「採用」だけでなく「人材開発」についても、精通する必要が出てきます。「採用」しかやらないという人よりは、活躍の幅が広がってくると思います。
定量と定性で、社内のことをステークホルダーに分かりやすく伝えること
──採用の話に戻りますが、現状労働力人口の減少により、ある一定レベルの人材の獲得がさらに激しくなっています。そのあたりは御社にも影響はあるのでしょうか?
今期初頭は、グループ会社を含めた社内での再配置を推進するため、積極的な採用活動を控えてました。しかし期中から中途採用を再開しており、今のところ当社はありがたいことに順調に採用できています。
──好調な要因は、どこだと分析されているのでしょうか?
2つの要因が考えられます。1つは、やはりチャネルを1つに固執せずに、いろいろな取り組みを継続的にやってきたこと。もう1つは、自社の状況を社員そしてエージェント、求職者の皆様に、包み隠さず、オープンに、頻度高く伝えて続けていることです。
自社の状況は、ホームページでもタイムリーに更新できるよう、自社で運用しております。情報の種類を定量と定性に分け、より分かりやすく伝わるようにコンテンツ運用することを心がけています。例えば、社内の情報は数字で分かりやすくまとめて、実際に働いている人たちとのインタビューなどはさまざまなキャリアの方を数多く掲載することを意識しています。またイベントなども定期的に実施し、求職者との接点を増やしてきました。やはり、「当たり前のことを当たり前」に、きっちりとやっていくことが大事だと考えています。
事業部門側との密な連携により、エンジニアなどの採用成功につなげている
──たしかに、ホームページを拝見すると、コンテンツがとても丁寧につくられていますね。
ありがとうございます。以前は、3年に1度採用ホームページをリニューアルしていました。それを辞めてCMSを導入して、自分たちで記事の更新や簡単なデザインの変更をできるようにしました。それに伴い、自社のニュースや働き方などのトピックス情報を定期的に発信して、リアルな状況を伝えるようにしています。写真も自分たちで撮影し、今では「広報」とも連動しています。
──中でも、多数ある職種のジョブディスクリプションが1職種1職種分かりやすく書かれていました。各部門と密にすり合わせながら、つくっているのでしょうか?
おっしゃっていただいた通りで、現場とのすり合わせですね。こだわっているのは、できるだけ詳細な情報を載せることです。そうすることで、求職者が仕事をイメージでき、自分のスキルとのマッチングを確認しやすくなるので、応募のハードルも下げられます。
まず、事業部門にジョブディスクリプションを作成してもらいますが、求職者にとっては「分かりにくい」情報の羅列になってしまっていることもあります。その場合は、「専門的な用語をもう少し噛み砕いて説明しませんか」「魅力については、もう少し具体的な表現しましょう」など、採用部門から事業部門の皆様にお声がけをさせていただいています。求職者にとって、きちんと伝わるように1職種1職種丁寧にすり合わせながら、一緒につくっていますね。
その際、応募者が増えることも大事なのですが、それ以上に応募いただいた人とのマッチング率が高いことが肝になってきます。そのため、過去に出していた求人のジョブディスクリプションがどうだったかも検証しながら、内容をアップデートしています。
──採用部門と事業部門との連携は、かなり意識して取り組まれていますね。
ジョブディスクリプションの作成だけでなく、採用イベントなども事業部門側と一緒につくっています。イベントの企画は採用部で考えるものの、事業部門側にもアイデアを出してもらい、よりブラッシュアップしています。イベント当日も事業部門の責任者などに登壇いただき、事業や職場環境の魅力について詳しく説明することで参加者の興味喚起を高めています。
実際、エンジニア職種などは採用の難易度が上がっていることを事業部門側もよく理解されているので、かなり密に連携をとって進めていますね。
人材の流動化が高まる今、自前でのタレントアクイジション機能が不可欠に
──採用業務は社内の人材で対応されていらっしゃるようですが、私たちのような外部の採用支援(RPOなど)を、今後活用する機会はありそうですか?
ありますよ。実は、今も一部は、RPOを活用しています。分かりやすい例でいえば、一気に人材を増やしたいケースです。
その際は、ダイレクトリクルーティングやリファラル採用だけでは難しく、短期間での採用が不可欠になってしまいます。そういう時に、RPOには採用の難易度がそこまで高くないポジションの採用などを依頼するケースが多いですね。やはり、私たち採用部のミッションとしては、いい人材をできるだけ速やかに採用することだと思うので、そこは柔軟に体制を組み変えて、対応しています。
それに採用領域は、人材がほしい時に、ほしいタイミングで動かなければなりません。その点RPOは必要な時にスピード感をもって対応してもらえるので、効率的で採用体制を組むことができます。
ただ忘れてはならないのは、採用ノウハウは自社で担保しておくことです。採用に関わる最適な方法を分かった上でオーダーしないと、いつまでも外部に頼ったままになってしまいます。
──InterRaceが掲げている、「企業が自前でタレントアクイジション体制を持つ」ことについては、いかがお考えですか?
当然だと思います。世の中これだけ労働人口が不足し、採用難易度も上がってきていて、エンジニア1つとっても、さまざまなスキルセットが求められます。 人材の流動性も高まる中で、企業が採用のノウハウを持たないのは、経営的観点からみてもリスクだと思いますので非常に共感できます。
まとめ
源田さんのお話には、自社に合った人材を速やかに採用するための、採用チャネルの考え方や、組織のあり方などが詰まっていたと思います。やはり、自社で採用ノウハウをナレッジとして持ちながらも、要員計画や採用体制などを鑑みて、必要なタイミングでの外部活用を検討していくことが、自社の採用成功につなげるポイントになるのではないでしょうか。
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