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ユニークローカルメディア「凜」―RIN 創刊号 全文(Web記事版)

たったひとりの編集長が、計15人の書き手や語り手によるテキストを編みあげたインディペンデントマガジン(同人誌?ZINE?原稿集?)のWeb記事版が配信開始。
創刊号では、「資本主義経済と地方創生」から「自由律俳句」までを環状線のように接続し、ぼくたちの常識を問い直してくれるような面白い実践や視点を取り上げました。


モノが増えていくのに抵抗のある方や、紙ですでにお持ちの方もこの機会にぜひお買い求めください。

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〇寄稿者・出演者
岩本 晃典/佐竹 宏平/おかふじりんたろう/藏田 章子/山本 健二(宇部マニアックス)/マツマル リホ/ヤスナガ ハヅキ/田口 愛/上原 賢祐/米澤 渉/じょん/パスカ/匿名参加2名

〇特設サイト
https://uniquelocal.net/magazine1

〇紙の雑誌はこちら





はじまり


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ユニークローカルメディア「凜」―RINは、ユニークローカルという独自のコンセプトを携えて、政治から植物までジャンルを横断するメディアです。


「ユニークローカル」
このコンセプトについて

ユニーク、それは独特であること、普通では無い様子を表します。
ローカル、ここでは東京に対する「地方」のような特定の物理空間を表す意味ではなくて、リモートの対義語として、ネットワークから切断された場所という意味で使っています。パソコンのローカルディスクみたいなイメージです。
それぞれの現場で、業界の慣習から逸脱したりぼくたちの常識を問い直してくれるような面白い実践や視点を「ユニークローカル」と勝手に呼ぶことにしました。
グローバル化やインターネットによって世界が均質化していく中で、このメディアでは特定の場所に囚われず、各地、各現場のユニークローカルにスポットを当てます。

このメディアに触発されて、柔軟な思考を持ち合わせるユニークでローカルな人がたくさん増え、世界がもっと面白くなることを願っています。


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────創刊によせて────


世界観の突き合わせ

雑誌を制作するにあたって、読者のあなたに「面白かった」と思ってもらえれば、それは作り手のぼくにとって最も喜ばしいことだ。雑誌に限らず、多くの文化産業の作り手にとって「面白かった」という言葉は、最大級の賞賛だろう。ぼくを含めそれらの作り手は、欲を言えば世界中の人々から「面白かった」と言われたい。けれども、残念なことにそれはなかなか難しい。
雑誌という情報の集合体を例に考えてみると、ロックバンドが好きな人は「これから注目の若手バンド特集」に対して、面白い!と思うかもしれないが、音楽に全く興味のない人にとっては、それは途端に「どうでもいい情報」となってしまい見向きもされない。また、ロックバンドシーンの本当にコアなファンにとっては、その特集で紹介されているバンドを既に知っているかもしれず、その場合も「こんなこと知ってるよ、つまんねーな」と評価され、面白い情報にはなり得ない。
結局のところ、受け手(評価する側)がこれまで経験したことや考えたことといった人生の文脈の延長線上に、ポンと情報が置かれてしまう以上、その情報が面白いかどうかは受け手のこれまでの人生の文脈によって決定される。


では、そんな情報というものが、現代においてどのような環境に置かれているかと言えば、アテンションエコノミーと呼ばれるような、殺伐とした状況に追い込まれている。SEO対策では、まずどの検索ワードを狙うか、YouTubeの動画ではどんなタイトルでどんなサムネイルにするかが重要になっており、「いかにネットユーザーのアテンションを集めるか」というゲームが、色々なところで開催されている。ネット空間以外でも、センスの悪い本屋に行けば、露骨に煽りっぽい下品なタイトルの自己啓発本や、イデオロギーを刺激するほとんどデマと言ってもいい過激なタイトルの本が、どーんと目立つ棚に置かれている。中身を追及することよりも、マーケティングを重視したそれらがのさばる状況に辟易としているのは、きっとぼくだけじゃないだろう。

近所に好みの飯屋がなければ、自分が台所に立つしかないように、世の中にぼく好みの情報がないならば、自分で作るしかない。というわけで、この雑誌は編集長のおかふじりんたろうが1人で企画・編集・制作した。元々ユニークローカルメディア「凜」―RINは、インターネット空間に軸足を置き、メールマガジンやYouTubeやポッドキャストなど、誰に頼まれるわけでもなく勝手にコンテンツを配信しているメディアで、今回晴れて紙媒体にも足を伸ばしてみたわけだが、開始当初からずっと、運営はぼく1人で行われている。
だからこの雑誌の面白さは、ぼくのこれまでの人生の文脈によって決定されているし、現代の情報環境についてもずっと自覚していたつもりなので、どうせなら振り切ってやろうと、かなり初期の頃から意識的に「おかふじりんたろう本位な体制」で運営してきた。原稿や取材をお願いするときも「ぼくがこんな感じのやつ読みたいんで、ぜひ!」とか、「ぼくが聞きたいこと聞くんで、あんまり読者の層とか考えずに話してください!」みたいなことを口酸っぱく何度も言ってきた。マーケティング的なことは一切考えず、ひたらすらぼくの中での「面白い」を突き詰めたつもりだ。

画家のヘンリー・ダーガーは、数十年に渡ってどこに発表するわけでもなく、自分のために絵と物語を描き続け、晩年に1万5000ページにも及ぶ超大作が発見される狂気じみた作家なわけだが、彼の作品に心を打たれる人は数多くいる。なんとも不思議なもので、彼の作品のような自分自身の為のアウトプットであっても、ある種の普遍性を獲得することが、この世界では往々にしてある。
先述の通り、この雑誌は編集長の個人的な欲望によって制作されているため、全てのページをワクワク楽しんで読める読者は、ほとんどいないと思う。なにより扱っているジャンルがしっちゃかめっちゃかだ。しかし、ユニークローカルというコンセプトに基づきながら、現代でなかなか見ることのできなくなってしまった個人的な衝動によって作られたこの雑誌を読むことで、あなが「うん、面白い!」と唸る可能性は、決してゼロではない。
むしろ、ヘンリー・ダーガーよろしく、受け手と距離を取り、ひどく自分勝手であまりにも個人的な制作物だからこそ浮き彫りにできることもあるだろう。「いままでどんな物事を見聞きし、どんなことを考えながら生きてきたのか」といったあなたの人生の文脈と、この雑誌の世界の切り取り方を、ぜひページをめくって照らし合わせてほしい。それらが適度に重なり合えば面白いだろうし、全く重なり合わなかったとしても、あなた自身の世界観を相対的に確認する北極星として役に立つはずだ。

編集長 おかふじりんたろう




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資本主義ではないオルタナティブな社会を考えてみよう。
──『人新世の資本論』を視野に入れながら。 
岩本 晃典 
佐竹 宏平 
おかふじりんたろう


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おかふじ まずこの鼎談のいきさつをぼくの方からお話します。
元々佐竹さんには、『離陸から着陸へ』というタイトルで、資本主義や都市化にどう向き合うのかというメールマガジンの連載を、ぼくのメディアで書いて頂いていました。すると、ちょうど同じ頃に斎藤幸平さんの『人新生の資本論』が出版界で話題になり始めていました。で、どちらも資本主義に対してどう向き合うのかということが主題として書かれていますし、SDGsやESGといったワードが社会にも広がりつつある中で、いまは既存の資本主義への疑問が投げかけられている時代なのではないかと思います。
というわけで、ひとまず『人新生の資本論』を読んだうえで、本について応答したり、そこから脱線したりしながら、オルタナティブな社会について考えるトークが自由にできたらなと思い、連載の著者の佐竹さん、それから地域社会学が専門の岩本さんに声をかけさせて頂きました。さっそくですが、岩本さんは読んでみてどうでした?

岩本 ぼくは学部時代から広井先生(*1)の書籍を読んでいたり、「いまの経済思想をちょっとナナメに見ていこう」というところから、学問の世界に入ったんですよね。だから、ぼく自身もいまの資本主義には懐疑的な部分があります。
シューマッハーっていう研究者の『スモール イズ ビューティフル』(*2)がぼくのバイブルだったりするので、『人新生の資本論』で紹介されていたコモンズの理論、システムの側から変えていくことによって豊かな社会が作れるんじゃないかという主張、豊かさとはなにかというテーマなど、かなり刺激されました。

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