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「セクシー田中さん」の事件

「セクシー田中さん」の原作者である漫画家の芦原妃名子さんが亡くなりました。この漫画のドラマ化、脚本家を巡ってトラブルがありました。

原作の小説や漫画などを脚本化、ドラマ化することを「翻案」といいます。翻案する権利は、以下の条文により原作者に認められています。

「著作権法27条 
著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する」
 
つまり、翻案権は原作者が持っているので、原作をドラマ化、脚本化するには原作者の許諾が必要です。
 
つぎに、原作の内容を改変してはならないという「同一性保持権」も、原作者は有しています(ただし、「やむを得ない改変」は認められます)。この権利は人格権であるため、譲渡することはできず、たとえ脚本化、ドラマ化を許諾しても、同一性保持権までは脚本家やテレビ局には譲渡されません。
したがって、脚本化、ドラマ化を許諾した場合、「原作者(著作者)は同一性保持権を行使しない」という条項を契約書に入れておくことがよく行われます。
 
しかし今回、原作とはかなりイメージの異なった脚本になってしまったそうです。そして第9、10話は異例にも原作者である芦原さん脚本を担当しました。
 
欧米に比べ、日本では原作者の権利がかなり軽視されているようです。つまり同一性保持権を気にせずに、かなり原作とは異なった脚本になることがあります。
たとえ日本は創作に対する権利意識が低いといっても、クリエーターは自分の作品は自分の子供のように思っており、今回の事件は知的財産、作品に対する権利意識の低さを象徴していると思われます。
 
ドラマ化による改変で思い出されるのが「スイートホーム」事件です。訴えたのは映画監督です。この監督は、映画化されたこの作品をあるプロダクションがテレビドラマ用にビデオ化した際に、映像の余分な部分を切り落とす「トリミング」が行われたり、CMを入れる場所を監督の同意を得ないで決定したことで、「同一性保持権」の侵害として監督から訴えられました。しかしこれは「やむを得ない改変」と裁判所で判断されました(東京高裁H10.7.13)。
監督はビデオ化に同意していたのですから、トリミングやCM挿入にも同意していたとみなされました。
しかし今回の芦原さんの事件は、これとは全く異なり、登場人物が別人のように描かれており、トリミングしたなどの技術的な問題ではありません。芦原さんが亡くなったことは、日本の著作権に対する権利意識の低さに対する警鐘であると思われます。 

弁理士、株式会社インターブックス顧問 奥田百子
東京都生まれ、翻訳家、執筆家、弁理士、株式会社インターブックス顧問
大学卒業の翌年、弁理士登録
2005〜2007年に工業所有権審議会臨時委員(弁理士試験委員)
「もう知らないではすまされない著作権」等、著書多数