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【中国語講座】異体字

僕は最近異体字に悩まされることが多いです。

異体字ってご存知でしょうか?日本語にも中国語にもありますね。標準の字体とは違っているけど、意味や発音が同じで通用する漢字のことです。

例えば日本語の異体字の例を出しますと:

群・・・標準の字体
羣・・・異体字

普段読み書きする言葉では使われない漢字ですが、地名や人名には異体字が時々出てきますね。ただ、注意したいのは、日本語の旧字体とか中国語の繁体字とはまた違うということです。あれはあれ、異体字は異体字なのですね。入り混じっている部分もあるようで、難しいのであまり深入りはしないでおきますね(笑)。

さて、僕がなぜ異体字に悩まされているかというと、日本の人名や地名に異体字が使われている場合、中国語でどう表記するかという点です。

僕はず~っと、つい最近まで、すべて簡体字で表記すべきであると思っていました。中華人民共和国の正式な文字である簡体字を使うべきであると。

実際、例えば勝又という苗字の人の「勝」という字は、簡体字の文書の中に出てきたらふつう簡体字で“胜”と表記しますよね。

簡体字だとこのように表記するのだから仕方ない、むしろその違いを楽しめればいい、と僕なんかは思っていて、自分の名前「伊藤祥雄」が簡体字でも字形が全く変わらないのをむしろ「つまらない」と思っております。

ところが、です。先日某局で「嶋」という字の入っている人名が、中国語の文章の中でそのまま“嶋”という字で書かれていたのです。え?これって「島」という字の異体字で、「島」と意味も発音も同じだから、中国語だと簡体字表記“岛”にしないといけないのでは?と思って、しかるべきところに報告したのですが、中国の異体字に入っているので、できるだけこのままにする、との答えだったのです。え~~~!いつのまにそんな配慮をするようになったの???(笑)

今まで僕が気にしなさすぎだったのでしょうか。それからというもの、たびたびそういうことが起こり、ちょっと疑心暗鬼です。この字はこのまま?それとも簡体字にする?と。

そこで、一度某局の中国語の部署の責任者の人に疑問をぶつけてみました。すると、人によっては「この字じゃない」と指摘してくる場合があるから、異体字はできるだけそのまま使うことにしている、とのことでした。

そうか、中国でも異体字として登録されている字の場合は、そのまま使うんだな、と僕は理解しました。

さて、そこでまた僕を悩ませたのが「塚」という字です。

この字は、最近ちょっと話題になっているようですが、「点ありのツカ」と「点無しのツカ」があるのですね。

点無しのツカ… (一般的な書き方)
点ありのツカ… 

日本の常用漢字では「点無しのツカ」、つまり普通の「塚」という字を使っていますよね?で、この字の簡体字は、「点ありのツカ」からツチヘンを取った形を書きます。ただ、「点ありのツカ」は中国語の異体字として登録されています。ちょっとややこしいと思うので、以下のようにまとめてみました:

(点無しのツカ)・・・日本の常用漢字
(点ありのツカ)・・・日本の異体字、中国の異体字
(点ありのツカからツチヘンを取ったもの)・・・中国の簡体字

で、日本の人名や地名に出てくる「塚」をどうするかですね。もともと「点ありのツカ」を使っている場合は、中国でも異体字として登録されている「点ありのツカ」を使うのは納得できます。

でも、「点無しのツカ」は日本の常用漢字で、簡体字でもなく中国の異体字でもないのだから、僕はこれは簡体字形(点ありのツカからツチヘンを取った形)を使って表記すべきであると思うのです。原則から行けば、そうなるはずです。

しかし、某局のニュースや番組では、「点ありのツカ」が採用されることが多いみたいです。元の表記が「点無しのツカ(塚)」であるにもかかわらず!です。

そこで、なぜか尋ねてみたら、「簡体字形は日本の『塚』という字と印象が違いすぎるので、印象が似ている形の『点ありのツカ』を使うほうがいいから」ということでした。

う~ん、すっきりしませんが、ケースバイケースで対応しているようですね。今後も悩みは尽きそうもありません(笑)。

通訳・翻訳家 伊藤祥雄
1968年生まれ 兵庫県出身
大阪外国語大学 外国語学部 中国語学科卒業、在学中に北京師範大学中文系留学、大阪大学大学院 文学研究科 博士前期課程修了
サイマルアカデミー中国語通訳者養成コース修了
通訳・翻訳業を行うかたわら、中国語講師、NHK国際放送局の中国語放送の番組作成、ナレーションを担当
「文法から学べる中国語」等、著書多数

2021年5月までの記事は弊社の「翻訳コラム」でお読みいただけます。