プリゴジン後の民間軍事会社「ワグネル」
ウクライナ紛争で一つの仇花が花開き、そして周囲を揺さぶりながらその花を散らせた。ウクライナーロシア両陣営にとって、一種の決戦の場となったドネツク州バフムート(アルチョモフスク)の争奪戦で活躍したロシアの民間軍事会社「ワグネル」が、その創設者エフゲニー・プリゴジン氏(故人)の陣頭指揮のもと、ことしに入ってからロシア正規軍との間に”諍い”を起こし、6月23~24日にかけてはモスクワやロストフに向けて「反乱」を起こして進撃。ベラルーシのルカシェンコ大統領の仲裁でロシア政府は一連の行動の「刑事訴追」を免除し、「反乱」は終息したのだが、8月23日にロシア国内をプライベート・ジェットでプリゴジン氏が「ワグネル」幹部らと移動中、乗機が墜落して幹部や乗員もろとも死亡するというドラマチックなストーリーが世界の面前で展開されたのだ。
およそひと月ぶりに再開したYouTube番組「NEWS常一郎」では、第1特集で「プリゴジンの死と”ワグネル”」を取り上げた。そこでは、プリゴジンのこれまでの事績と一緒に墜死した「ワグネル」司令官=ドミトリー・ウトキンの人となり、さらにロシアでの民間軍事会社設立の経緯や「ワグネル」成立史を解説した。
(参考映像)「【令和5年9月2日土曜朝9時】プリゴジンとワグネル 木原事件」2023/9/2 NEWS常一郎 土曜朝9時
https://www.youtube.com/live/dPQYLbd8WfA?si=kITPV_gp7GIdxqKV
日本の報道では、「プリゴジンが自らの”殺害”を予見していた」とか、「プーチン氏の指令による反乱者の公開処刑だ」など、「ワグネル」の背景やプリゴジン氏とロシア国防省(同氏が名指しで批判したのは、ショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長だ)との確執の具体的内容には触れずに憶測ばかりの内容を垂れ流しにしている。実際は、これまで、ほとんど具体的な法的ルールが敷かれなかった民間軍事会社の統制について、ロシア下院で法律制定が進められ、5月にそれが成立したことに関連しての「反乱」だったというのが、どうも真相のようだ。
この統制の内容は、民間軍事会社が活動する場合には、国防省に協力しその統制下に置かれる旨に同意する契約を締結するというもので、5月以降、7月1日までに契約を義務付け、それに従わない場合は政府支出や支援は一切受けられないとするものだった。それまで、「プーチン氏の料理人」と言われるような側近関係を盾に国防省やその他の政府予算からウクライナ紛争参加に関わる支出を受けてきた「ワグネル」は、
これにより”思うままに予算を引っ張れない”ことにつながることが不服で、プリゴジンが「反乱」を起こす理由はここにあった、というのがロシア論壇や政界の一般的な見解だ。
「ロシア下院国防委員会のアンドレイ・カルタポロフ委員長によると、プリゴジン氏は国防省との契約締結を拒否した。そのため、今後は軍事作戦への参加を許さないとの方針が伝えられていたという」
「カルタポロフ委員長は、『ほかの軍事組織(民間軍事会社など)が国防省との契約に応じる中、「ワグネル」は応じなかった』『プリゴジン氏には、契約に応じないならウクライナでの特別軍事作戦に「ワグネル」が参加することは許されないし、資金支払、財政支援、物質的援助のいずれも行われないと説明された』と説明。…委員長は資金問題は決定的な要因とならないかもしれないが、プリゴジン氏には無関心でいられるはずもなく、『反乱の原因は、資金問題が第一。第二は、身の丈を超えた野心。第三は興奮状態だ』と述べた」
(参考)「ワグネルの反乱の要因は『身の丈しらずの野心』『資金問題』」2023/6/29 「ロシア新聞」(ロシア語報道)
https://www.gazeta.ru/army/2023/06/29/17210450.shtml
同じメディアでは、政治学者による分析でも同じことが述べられている。
「政治学者でプレハーノフ経済大学政治分析心理プロセス講座のアレクサンドル・ぺレンジエフ助教授は、ラジオ『ガヴァリット・マスクヴァ(こちらはモスクワです)』の番組で『プリゴジン氏の反乱の要因は「ワグネル」が国防省との契約で国の下請け会社になることを望まなかったことによるものだ』『6月14日の時点で、ロシア下院のカルタポロフ国防委員長は「民間軍事会社に関する法律が成立する」と述べ、国防省側からは「全ての民間軍事会社及びその職員は国防省との契約を締結すべし」との命令が出された。これが反乱の直前に起きた出来事であり、関係していると思う』と述べた」
(参考)「プリゴジン氏の反乱の原因は国防省との契約拒否~政治学者分析」2023/6/27 「ロシア新聞」(ロシア語報道)
https://www.gazeta.ru/politics/news/2023/06/27/20757632.shtml?updated
こうした論評は、他に示されるデータに照らしても合理的な説明となっている。
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