乾坤一擲のクルスク侵攻と「ウクライナ支援」の限界=ドイツの武器供給は停止へ~ゼレンスキー政権によるロシア領土侵攻は何をもたらすか
◆ゼレンスキー大統領、ロシア西部クルスク州攻撃に言及~「国境付近からのロシア軍攻撃防止の”緩衝地帯”作りが目的」
8月6日以来、ウクライナ国境に接するロシア西部クルスク州に対するウクライナ軍の越境攻撃作戦が展開され、対空兵器のカバーの下でウクライナ機械化部隊が国境線から60~70kmまで侵攻する事態となっている。ウクライナ南部及び南東部4州(へルソン、ザポリージャ、ドネツク、ルガンスク)の確保とここからの攻勢に主力を投入しているロシア連邦軍は不意を突かれた形になり、多くの住民地区がウクライナ側に押さえられた。
ゼレンスキー大統領は、この攻勢について18日夜のビデオ演説で初めて言及した。
「ゼレンスキー氏は優先事項として『ロシアの戦力を可能な限り破壊し、最大限の反転攻勢を実施する』と述べ、『侵略者の領土に緩衝地帯を作る。クルスク地方での作戦も含まれる』と強調した」
(参考)「ゼレンスキー大統領、ロシア西部クルスク州への越境攻撃は『緩衝地帯を作るため』」2024/6/19 読売新聞オンライン
https://www.yomiuri.co.jp/world/20240819-OYT1T50012/
ロシア側は報復でウクライナの首都キエフの軍事関連施設と思われる目標(実際は都市の居住区などに混在し密集した地域にある)へのミサイル攻撃を強化し、ドネツク州やザポリージャ州の前面での攻勢を強めている。あわせてクルスク州でも増援兵力を投入しつつ反撃に努めているが、今日時点で防衛線をしっかり立て直したという兆候はまだ見られない。
「ウクライナ軍は、国境を接するロシア西部クルスク州での越境攻撃を続け、これまでに80以上の集落を掌握し、支配地域を拡大していると主張しています。一方、ロシア側は、住民を避難させる地域を拡大するなど対応に追われています」
「ウクライナ軍のシルスキー総司令官は、15日、ロシア西部のクルスク州に越境攻撃を開始してから10日間で、国境から35キロの地点まで進軍し、1150平方キロメートルにわたる地域と82の集落を掌握したとして、支配地域を拡大していると主張しました。…ただ、ウクライナ軍が過去24時間で前進した距離は最大1.5キロとしていて、アメリカのシンクタンク、『戦争研究所』(※引用者注=民主党系)は、ロシア軍が援軍を送り込む中で、ウクライナ軍の前進速度が落ちていると指摘しています」
(参考)「ウクライナ軍 クルスク州に進軍 ロシア側は対応に追われる」2024/8/16 NHK NEWS WEB
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240816/k10014550371000.html
この状況にロシア側は完全に面子をつぶされた形になっている。クルスクは、81年前の1943年夏、独ソ両軍が双方とも100万以上の兵力と当時それぞれの陣営が擁していた機甲部隊や航空兵力の半数を投入して激突した地で、激闘の末、ドイツ側が独ソ開戦から3度目となる攻撃作戦を阻止され、その後の戦局をソ連側優勢に決定づけた歴史的な大会戦の古戦場だ。
ドイツ軍の大攻勢をこの地で予測し、数カ月にわたり綿密に隠蔽した防御陣地を縦深200キロにわたり何重にも重ねて構築し、兵力も密に集中させたソ連軍側の準備が功を奏してのことだったが、この度のウクライナ軍によるクルスク州侵攻では、ゲラシモフ参謀総長が率いるロシア連邦軍は全く不意を突かれてしまった。”栄光の戦場”で一敗地まみれたのである。
もっとも、広大な平原に引かれた国境線をめぐって軍を対峙させながらも、ウクライナ、ロシア両軍共に第二次世界大戦のような数百万規模の大軍を投入できる状況ではなく、あちこちが穴だらけなのはいたし方ないだろう。現在のロシア軍の全兵力は43年のクルスク防衛線でソ連軍がこの狭い地域に集中させた100数十万を下回る程度しかないのだ。それでウクライナ地域4州の確保と攻勢、広大な他地域の防衛も担わせている。
◆「キエフのネオナチ政権の崩壊が確実に近づいている」~パトルシェフ大統領補佐官
しかし、プーチン大統領をはじめロシア政府首脳部は、ロシア側の現在の戦略的優勢についてはゆるぎない確信を持っているようだ。この度、海軍再編を含めたロシアの海洋戦略の策定のために大統領令で新設された海洋評議会の議長に任命されたパトルシェフ大統領補佐官は、「イズベスチャ」紙のインタビューの中でウクライナ軍のクルスク州侵入について次のようにコメントしている。
「(問)先週、ウクライナ軍はロシア領内、クルスク州に侵入しました。西側はそのキエフ側の計画を知らなかったとしていますが、現在ウクライナ軍の計画は西側諸国の軍隊や諜報機関によって操られている可能性はありますか?
(パトルシェフ)ウクライナのトップに犯罪者を据えて軍事政権を発足させ、武器と軍事顧問を注ぎ込み、最新の諜報データを提供し、ネオナチたちの行動を制御しているのは、まさに西側なのです。クルスク州の作戦も、NATOと西側の諜報機関が参加して作成されたものです。このような犯罪的行為は、キエフのネオナチ政権の崩壊が確実に近づいてきたという予感が生み出したものです。…クルスク州侵攻というウクライナの犯罪行為に、アメリカ政府は関与していないと主張していますが、それは事実ではありません。アメリカは言っていることとやっていることがいつも一致していません。アメリカの関与とその直接の支援がなければ、ウクライナがロシア領内に入るというリスクを冒すことなどなかったはずです」
(参考)「地政学的状況、さらなる措置が必要~パトルシェフ氏へのインタビュー」2024/8/16 ワレンチン・ロギノフ、マクシム・ソロポフ
「イズベスチャ」紙(ロシア語報道)
https://iz.ru/1742941/valentin-loginov-maksim-solopov/geopoliticheskaia-situatciia-trebuet-priniatiia-dopolnitelnykh-mer
◆クルスク州への攻勢に外国義勇兵参加を示唆
パトルシェフ氏は「クルスク州の作戦も、NATOと西側の諜報機関が参加して作成された」と述べ、西側の後押しあっての侵攻作戦だと主張しているが、他からも「外国人参加」についての示唆が出ている。
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