日露外務高官のやりとりの意味~”前例のない水準での関係悪化”の中、何が話し合われたのか?…ウクライナ戦争、北朝鮮、北方領土、漁業…
◆互いに「批判」するだけで終始したのか?~6月21日の日露外務高官会談
6月21日(金)、外務省の欧州局長がモスクワに出向き、ロシア外務省の第3アジア局長と会談した。日露の外務省の事務レベルの高官会談は2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻開始後、初めてのことだ。
この会談では、日本側から以下3点をロシア側に提起し、協議が行われたという。
● 北方領土墓参
● 北方四島周辺の日本漁船の安全操業の早期再開
● ロシアの対北朝鮮接近と軍事協力拡大の方向への懸念
この間、本noteでもお伝えしてきたが、ロシア側から示された認識でも、現在の日ロ関係は過去最悪の水準にあるとされ、「それは専らロシア側の措置によるものというより、日本側の対応(米英等に共同歩調をとっての対ロシア制裁に参加するなど)にうよるもの」と相手側からは決めつけられている。しかし、一方で数少ない日ロ間の経済活動上の調整については、たとえばサハリン-1/-2の油田、天然ガス開発と供給事業での共同継続や、北方四島周辺でのコンブ漁についての協議は続けられ、実際に日ロで合意した範囲で日本漁船の操業が行われるようになっている。
この度、実際に最も懸案となっているのは北方領土への元島民の墓参再開の問題だろう。今回の日ロ外務高官協議で、これらがどう扱われたのか、日ロの報道を比較して考察してみる。
本記事では日本とロシアの報道を比較して、この会談から分かる今後のことについて考えていく。
比較材料としては、以下の2点を使う
(1) 朝日新聞デジタル(https://news.yahoo.co.jp/articles/0e49c1761264b8f987145f111313e908e17f51d8)
(2) ロシア外務省公式HP(https://www.mid.ru/ru/foreign_policy/news/1958611/)
(1)は国内の主要メディアで、本記事の展開を分かりやすくまとめているので、取り扱うことにした。
この記事では、以下の点を本会談のトピックとして伝えている。
「中込氏は『ウクライナ侵略は明確な国際法違反である』として、侵略の即時停止を要求。…(6月)19日にロシアのプーチン大統領が訪問したばかりの北朝鮮との軍事協力の強化についても、日本側の懸念を伝えた」
「ロシア外務省は『岸田政権の敵対的な政策により両国の関係は前例のない水準まで悪化した』と日本を批判。北朝鮮との関係発展への批判は受け入れられないとし、ユーラシア大陸に新たな安全保障体制をつくるプーチン氏の考え方を伝えたという」
これだけ見ると、双方はお互いの相手に対する非難を伝え合っただけのようだが、そんなことのためにわざわざ日本の外務省高官がモスクワに行き、ロシア側もこれを受け入れて会談するということはないだろう。なにがしかの対応についての協議があったのではないか。
この記事の中で、目を引いたのは「ユーラシア大陸に新たな安全保障体制をつくるプーチン氏の考え方」だ。これは北朝鮮訪問に続いてベトナムも訪れ、安全保障上の協力関係強化を約したことに関するベースの考え方なのだ(ちなみにベトナムにとって最大の安全保障上の脅威は中国である)。
(2)はロシア外務省が直接出した声明(ロシア語版)なので、ロシア側が先日の日露会談のことをどのように捉えているかが詳しく分かるはずだ。⑴をふまえて読み込めば、日露外務省高官の会談が持つ意味を、もう少し立体的にとらえられるのではないか。
まず、ロシア外務省公式HPに掲載されている先日の日露会談についての声明の和訳を示す。読者が読みやすいように、小見出しは編者の判断で付した。
◆L・G・ヴォロビヨワ・アジア第三局長と日本外務省のM・ナカゴメ欧州局長との会談について(ロシア外務省公式HP 和訳)
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