ウクライナ軍、ロシア領に向けて攻勢~”停戦交渉”前の立て直しを企図?F-16攻撃機も戦線に出現か
◆独ソ戦の”古戦場”クルスク州に向けてウクライナ軍が侵攻
日本では長崎被爆の日である今日、長崎市が平和式典にイスラエルを招待しなかったことで日本を除くG7諸国の大使が式典に不参加という事態が話題になっている。その裏で、ウクライナとロシアの戦争は先月下旬から以前よりも激化した状況を迎えている。
ロシア側はウクライナの首都キエフの軍事物資集積所(そこにはNATO諸国から供与されたミサイル、弾薬が集められていたという)やエネルギー供給施設、軍需生産施設に対する巡航ミサイルなどによる攻撃が集中的に発起され、迎撃ミサイルも多数打ちあげられたことから、その破片などによる住民地区での被害も拡大している(ロシア側は「住民施設、住宅は攻撃しない」と言明し、それは確かなのであるが、密集した都市部では打たれたミサイルを迎撃する地対空ミサイルにより、被害が民間に広がることは避けがたい。ロシアや米国が言うような「ピンポイント攻撃による犠牲を最小限にとどめた戦争」などというものは、住民が集住している地域に対しては現実的に通用する話ではないのだ)。
地上戦闘においても、ウクライナ東部ドンバス地区(ルガンスク、ドネツク両州=人民共和国を合わせた地域を指す。住民投票を経てロシア連邦に加入している)でジワジワとロシア軍側の攻撃前進が継続していることが、両陣営から確認されている。こうした中で、一部EU諸国(ハンガリー、オーストリア等)やBRICS諸国(インド、ブラジル等)から和平仲介の動きが顕在化し、11月実施の米大統領選で「ウクライナ支援停止」「戦争終結」を掲げた共和党トランプ陣営の勝利の可能性が強まる中、”終わり”の局面を少しでも態勢挽回して迎えたいとの企図が込められたであろうウクライナ側の攻勢的な動きが始まっている。
目立つのが、80余年前にナチス・ドイツ軍とソ連軍の劇的な衝突(今日に至るまで世界軍事史上最大規模の戦車、航空機及び双方が100万以上の兵力を集中させて激突させた1943年7月の大会戦)の”古戦場”であるロシア・クルスク州に向けたウクライナ地上部隊の越境侵攻だ。ロシア側は「侵攻意図は我が方の有効な反撃で阻止した」と発表しているが、戦闘はいまだ止まず、ウクライナ軍の侵攻方向の先にはクルスク原子力発電所が所在するだけに事態は重大である。
そして、このクルスク州に対する攻勢をめぐり、ロシア軍内に昨年の”プリゴジンの乱”(”戦場利権”を背景にした民間軍事会社ワグネルの反乱)以来燻っている内紛が引き起こされつつあるとの観測がEU諸国のメディアで報じられている。以下はドイツの有力紙「フランクフルター・アルゲマイネ」が8月8日付で配信した記事である。
また、ロシア・メディアではウクライナ軍の攻勢局面を反映したような米国製F-16攻撃機の戦線出現を報じる記事が発信されているので、そちらも続けて紹介する。
◆ウクライナ軍反撃でロシア軍内に対立露呈(「フランクフルター・アルゲマイネ」紙)
ウクライナの反撃はロシア軍内の対立を露呈させている。しかしドンバスの防衛側(ウクライナ側)にとって厳しい状況を変えることはできない。
<ウクライナ軍、ロシア領クルスク州へ攻勢~ドンバスでの不利な状況は改善せず>
ウクライナ軍が西部ロシアのクルスク州への進撃でロシア軍を苦境に立たせている一方で、自国の東部では依然として大きな圧力にさらされている。ドンバスでは、攻撃側(ロシア軍)がいくつかの地点でゆっくりではありますが着実に前進している。クルスク地域での出来事が、ロシア軍にとってより大きな戦場での優位性を放棄させることはないだろう。遅くとも、ロシア軍が激戦の続く東部戦線で再び重要な成果を挙げた時には、再びそちらに注目が集まることになるだろう。
もしクルスクでの作戦がウクライナ指導部による東部での困難をそらす試みであったなら、それは人員と装備の浪費に過ぎなかっただろう。進撃の3日目に至っても、キーウはその目標について曖昧な示唆にとどまっている。
<ウクライナ軍奇襲の成功でロシア軍、国防省内の「無能さ」非難の応酬>
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