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世界の理性は核戦争を止められるのか? ”ロシアvs西欧のミサイル戦”=危険な局面に入ったウクライナ戦争~あまりに鈍感な世論


【画像① この度、ウクライナのドニプロ=ペトロシウクにある軍需生産施設に向けて発射されたのはロシアの最新型中距離弾道ミサイル「オレシニク」(ヘーゼルナッツの意)とされる。射程約5500kmで、飛行速度はマッハ10(12,250km/h)に達し、現状のミサイル防衛システムでは迎撃不可能。ロシア西部から英国を含む欧州全体を射程内に収めることが出来る。】





◆”ミサイル応酬”始まる


端的に言って、ウクライナとロシアとの間(西側諸国とロシアとの間、と言うべきか)の2024年2月24日以来の国家間戦争が、いよいよ核戦争へとエスカレートするか否かの瀬戸際に来ている。現局面で本当に危ない状況を示しているのは、11月5日の米大統領選でトランプ氏が次期大統領に決定した後になって、任期があとわずかなバイデン大統領がウクライナに対して米国製長射程ミサイルATACMSの使用を承認したことだ。地上発射式の戦術ミサイルだが、同ミサイルは射程300kmで現状でウクライナ東部国境地帯から発射すれば、モスクワ近郊までが有効射程に入る。ATACMSの弾頭は、


そして、この20日にはウクライナ軍が英国製巡航ミサイル「ストームシャドウ」が数発、ロシア領クルスク州の奥深くに向けて発射された。同ミサイルの射程は250km程だが、全重量1.3tと比較的大型で、通常弾頭もかなり威力がある。クラスター弾頭も使用が可能で、ATACMSに準ずる威力がある。


プーチン大統領は「これら西側製長射程兵器は、誘導にウクライナが保有しない衛星管制システムが必要でこれらの使用はNATOが直接参戦したことを意味する。またミサイル操作要員もNATO兵によるもので間違いがなく、これらでロシア本土を攻撃することは西側諸国が直接攻撃したという意味になる」と言明した。そして、これらがロシアの人口密集地に向けて大量発射されることを抑止することを期して、「核兵器使用基準の引き下げ」を承認したと伝えられている。


【画像② プーチン大統領は米英の長距離飛翔兵器のロシア領内への発射という事態を受けて、「核兵器使用の基準引き下げ」を承認したと発表した。そして、ドニプロ=ペトロシウクに向けて発射した「オレシニク」について「この度は実地の発射実験で成功した」とし、今後も発射することを示唆した。】





これら一連の流れに関連して、ロシア大統領府報道官のぺスコフ氏は、次のように述べた。


「核抑止力は、ロシアと同盟国への侵略なら報復が避けられないと理解させることを目的としている」


そして、この言明を裏打ちして見せるように、21日、ロシア側はカスピ海に注ぐボルガ川の河口部にあるアストラハン周辺の発射サイトから弾道ミサイル「オレシ二ク」(中距離用または大陸間弾道弾と言われる)をウクライナのドニプロ川湾曲部の都市ドニプロ=ペトロシウクの軍需工業地帯に向けて複数発、発射した。情報が錯綜しているが、少なくとも4発の着弾が確認されている(多弾頭式で、1発のミサイルから4発以上の弾頭が分離着弾した可能性もある)。


(参考映像)「ロシアが超高速弾道ミサイル『オレシニク』をドニプロに発射」2024/11/22 TIMES NOW

https://youtu.be/3T4ZNUjDhug?si=YC5Kko2FwcclbagF


今回の弾道ミサイルは通常弾頭を搭載したものだが、本来は核弾頭の運搬手段であることから、これは「核使用の一歩手前だ」との警告の意味が含まれていると見ていい。核抑止力は行使されない状況での軍事衝突、ひいては核使用を抑えることに本義がある。しかし、一線を踏み越えれば事態が核使用に向けてエスカレートしかねない危険性を常にはらんでおり、現在の状況は60年前の「キューバ危機」の事態に匹敵するかそれ以上だと言って間違いない。


こうした折、15日に在東京ロシア大使館ではかつての駐日大使でロシアきっての知日派と言われるアレクサンドル・パノフ氏が元外務省欧亜局長の東郷和彦氏と共にシンポジウムのパネラーとなり、講演した。筆者(篠原)も招かれたが、シンポには日露関係修復に奮闘している鈴木宗男参院議員のほか、森喜朗元首相ら自民党の元議員複数、それに安倍晋三首相秘書官を務めた今井尚哉内閣官房参与も参加し、それぞれ発言した。


【画像③ 11月15日、在東京ロシア大使館のホールで講演するアレクサンドル・パノフ元大使(右)と元外務省欧亜局長の東郷和彦氏。日露交流従事者や政治家、文化人など150人ほどが招待されたが、森喜朗元首相や自民党関係者、今井尚哉元安倍首相秘書官ら影響力あるキーパーソンもかなり含まれていた。】




パノフ氏は24年2月24日にロシアが「特別軍事作戦」としてウクライナ全土にわたる攻撃、侵攻を開始した直後、複数の学者と共に「ただちに停戦すべきだ」との声明を発表した。そのことにより、ロシア国家安全保障会議の学術顧問を解任されることになった。いわば”失脚”した元外交官だ。そうした人物がロシア大使館の正式行事で対日関係の最前線に現れたという点が注目すべきことだ


以上に関わる内容について、YouTube配信番組「NEWS常一郎」は24日朝に取り上げた。


(参考映像)「【24/11/23土あさ9時〜】迫る核戦争を回避出来るかロシア知日派が語るウクライナ戦争の背景と実相…未だバイデン追随の石破政権、トランプはどう動く…プーチン『核使用基準引き下げ』とは【NEWS常一郎】
」2024/11/23

https://www.youtube.com/live/5kKVWtl6L6w


また、パノフ元大使の主張(かなりロシアのこれまでの言い分から考えると、同国政府には辛口の内容)は、東郷氏と共著で出した『現代の「戦争と平和」』(K&Kプレス)に概略が記されているので、ぜひこの局面に関わることとしてご一読をお勧めしたい。


◆ロシアの現状での苦悩が伝わるパノフ氏の発言


ロシア大使館シンポでのパノフ氏の発言は、同氏の登場ということと併せてロシアのこれまでの主張・アピールとはかなりニュアンスのことなるメッセージ性を持つものだった。開戦当初、「直ちに停戦」と政府の進める方向を諫言しただけあって、戦争の経過などを含めて従来のロシア報道や政府発表よりも踏み込んだ内容であった。


(以下、有料版)

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