「捕虜交換」にみる思惑~トルコ、UAEを介したウクライナ、ロシアの取引の裏から見えるそれぞれの国内世論、ゼレンスキー、プーチン両氏を取り巻く状況
◆繰り返されたウクライナ紛争「捕虜交換」、国連事務総長は「継続を期待」
昨年末にかけて、トルコやアラブ首長国連邦などの仲介でロシア、ウクライナ間での軍事捕虜の交換がまとまった数で行われている。一部で「いよいよ本格的な和平交渉に入る前兆か」と楽観的に歓迎する向きがあるようだが、両国の指導者を取り巻く内部事情を見ると、どうもそうではないようだ。
しかしながら、「捕虜交換」交渉を通じてロシア、ウクライナ両国が交渉のルートを継続させることについてグテーレス国連事務総長はこれが和平交渉の端緒になることを期待しているようだ。
「国連報道官ステファニー・トレンブレイ氏は会見で、アントニオ・グテーレス国連事務総長はモスクワとキエフ間の捕虜交換を歓迎し、こうした取り組みが継続されることを期待していると述べた」
「国連事務総長は、『ウクライナとロシア連邦の間で、ウクライナ人230人とロシア人捕虜248人の交換を歓迎する』…さらに『双方の努力と、これらの実現に貢献した第三者であるUAEの支援を歓迎する』『この重要な一歩に続いて捕虜の追加交換やその他の緊張緩和努力が続くことを期待している』とトレンブレイ報道官は述べた」
(参考)「グテーレス国連事務総長、ロシアとウクライナが捕虜交換を継続することを期待」2024/1/4 リア・ノーボスチ通信(ロシア語報道)
https://ria.ru/20240104/plennye-1919746706.html
◆ロシアでは”枠外追加”の75人の捕虜帰還を強調
この記事には、上記の記載の後にロシア人権問題担当代表のコメントが紹介されている。これは、今回、ロシアに帰されるロシア軍捕虜248名中75名が”枠外の追加であることを強調したものだ。
「ロシアのタチヤーナ・モスカリコワ人権問題担当代表は、248名のうち75名は、今回の捕虜交換の枠外での帰国であると指摘。関係筋が明らかにしたところによれば、すでに当時交換されていた民族主義組織『アゾフ大隊』(指定テロ組織)の5名が、合意に背く形でトルコからウクライナに引き渡されたのち、ロシアの各機関による努力によって、今回の75名の解放が実現したという」
ちなみに上記で「合意に背く形でトルコからウクライナに引き渡された」とされているゼレンスキー大統領がトルコから連れ帰った5人の「アゾフ大隊」指揮官について、リア・ノーボスチ通信は追加解説をしている。
「7月、ウラジーミル・ゼレンスキー大統領はトルコを訪問し、『アゾフ大隊』(指定テロ組織)の指揮官数名を同伴してキエフに戻った。その指揮官らは、2022年5月にマリウポリでのアゾフスターリ工場をめぐる戦いの際に捕虜となり、同年9月、56名のロシア人捕虜と引き換えにウクライナ側に引き渡されていた。ただし、紛争終結まではトルコ領内にとどめおくという条件で合意していた」
(参考)「アゾフ大隊の5名の指揮官について」2023/1/3 リア・ノーボスチ通信(ロシア語報道)
https://ria.ru/20240103/peregovory-1919608820.html
ややこしいが、もともとマリウポリの鉄工所での戦いで籠城の末に捕らえられた5名の「アゾフ大隊」幹部はロシア捕虜56名と交換されてトルコに引き渡された。しかし、ゼレンスキー氏がトルコのエルドアン大統領に働きかけて「5人は戦争終結までトルコにとどめる」とのロシアとの約束を反故にしてしまった。結局この代償として、ウクライナ側は追加で75人のロシア捕虜を余計に引き渡すことを飲んだということだ。
◆UAEの介在によって最大規模の捕虜交換が成功…
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