「ご冥福」を祈ることすらできない人々に代わって、「ご冥福」を祈られるには一切値しない「詩人」の死を記念する
「谷川俊太郎が死んだ」というのは正しくない。私が去年の夏の時点であらかじめ殺しておいたのだから。
私があの、詩人と呼ばれるには一切値しない売文士をどのように思っているかについては、我が音楽プロジェクト Parvāne の未公表楽曲『御大切』の詞の一部として述べられているし、昨年の夏に作曲されたこの曲は今月末のライブで初演される。昨日の昼に Parvāne メンバー全員で『御大切』をリハーサルし、歴代レパートリー最難関と思われたこの曲さえも流暢に演奏できるようになった流れは、まさに歴史の必然以外の何物でもない。
谷川俊太郎は、いわゆる「戦後日本」の国語に宿りうるはずだった可能性の芽を惰弱な情緒と卑屈なユーモアで刈り取り、どの時空にも孕まれ・常に分娩を待っている未聞の言語に対し侮辱の限りを尽くした。「一切の尊敬に値せず、冥福とやらを祈る余地すらない輩」というカテゴリは、ソーシャルメディア上による(やはり)言語の侮辱的使用(←他者を侮辱するために言語を使うことではない。一切の鍛錬も慎みも無いままに言語を濫用することが結果的に言語そのものへの侮辱的態度になる、という一般的事実を謂っている)によって急速に数を増やしているだろうが、私にとって「言語侮辱罪」の死刑囚として谷川俊太郎と池澤夏樹以上に相応しい者など存在しない。
すべては、「死」のイマジネーションに関する絶望的な貧困を原因として持つのだ。今回の個体の絶命に際して、自らが属する「宗教」的共同性の典拠すらろくに説明できない輩ども(←本当に凄まじいことだ、「人が死んだのだからお坊さんを呼ばなきゃ」と自動的に思考する者たちの大半が、自ら属する「日本仏教」の宗派の経典を暗誦することすらできないとは)が軽率に「ご冥福」への祈りをスパムアカウントの自動生成投稿よろしく垂れ流している醜状は、すべて私がここまで述べた「未聞の言語=新たな国語の可能性への侮辱」を原因として持つ。当の言語侮辱者そのものである谷川俊太郎への「弔辞」としてそのような言が述べられること自体が完全なマッチポンプであり、その共同性に属する者らの所為に懶惰意外の意味をも付与せんとする、つまりは「詩人」の死を白粉として自身の醜業をもついでに粉飾するための詐術なのである。
未聞の言語を分娩し、日本語の可能性を新たに胚胎させることを文学的務め(←音楽的務めではない。はっきり書くが、音楽のために果たすべき義務の規模と・それによって出来する可能性の巨きさに比べれば、文学など水たまりで溺れ死ぬミジンコの哀歌程度に卑小で滑稽なものでしかない。そして「言語を侮辱している文学者」どもに共通して見られる最大の特徴は、「音楽を愛するふりをしながら音楽を侮辱している」ことなのである)とする私にとっては、「生」と「死」のイマジネーションの再活性化こそが必須の義務であり続ける。我が音楽プロジェクト Parvāne は、「2023年夏にあらかじめ下されていた谷川俊太郎への死刑判決」こと『御大切』を、今月29日のライブにて初演する。「死」のイマジネーションを賦活させるために、今更ハイデガーやブランショなどを教師ヅラで引用する必要などない。自らの筆耕によって、同じ土地を新たに繰り返し耕すべきなのだ、文字通りに。それは自らの死体を耕作地とし、そこに鍬を打ち付け続けることでかつて人体だったモノがいつのまにか畑となり、結果として外から飛んできた種や苗を受け容れ・新たな実りをもたらす、そのような未来の繁栄を前提とし、そのためだけに存在する。
我々は以上の真実を音楽として伝える。 Parvāne, ペルシア語で「蛾」の名を戴く我々は、生と死の、無垢と経験の、戦闘と和平の楽団である。死んでいるということ。いま死んでいるということ。それはかわくのどが無いこと。木もれ陽が視えないこと。何ひとつメロディは思い出せないがリズムだけは感じること。それはウィリアム・ホールデン。それはアーネスト・ボーグナイン。それは文字にしただけで何か謂ったつもりになっているヘボ詩人。あるいは谷川俊太郎くらいしか読んだことがないくせに日本語の詩を語りたがる無センス人。すべての中途半端な生者たちから嬲りものにされること。過去が現在の者たちによって思い通りにされていること。それら侮辱されたすべての墓たちを救うため、甘ったれた善意を悉く砕くこと。
あらゆる貧困な「生」と「死」のイマジネーションに飽いた人々よ、 Parvāne の演奏が行われるフロアに来るがいい。大事なことは何度繰り返したっていい。我々 Parvāne は、そこに居るであろう人々全員の生を祝福し、と同時に殺し、次の瞬間にはもう生まれ変わらせてやる。過去のダンスと未踏のダンスの両方を、平然と同時に救うために。
◎11月29日(金) public space四次元
open19:00/start19:30
charge¥2,000(+1drink order:¥600)
【CAST】 石の犬 / KUOLEVA / recollapt / Parvāne (19:30-20:00)