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何一つ思い出せない

どうやって唇を重ねたのか、
どうやって繋がったのか、思い出せない
ただただ鮮明に、満たされた感情だけが蘇る
でも、どうやったのか思い出せない

どんな匂いがして
どんな形状の口で
どんなタイミングで

夏休みの観察日記なら
確実に落第だろう
何も、何一つ思い出せない

酔い心地のまま
目を閉じる
感覚だけが妙に鮮明に蘇るのに
もはや相手が誰かがわからない
だけど明確に特定の人

この言語力は一体なんだろう
これは宇宙の掟なのかもしれない
具体的な事柄は綺麗に忘れて
ただただ感覚だけを魂に刻印する

ほら、子供は産まれる前の記憶があるとかいうじゃない?
だけどそれは誰にも言っちゃいけないんだって
神様と約束したんだって

言葉にできることは
本当はあまり意味がない
何歳でどんな学歴でどんな性格でどんな家族構成で
どんなプレゼントをくれて、どんなsexをして
そうやって言語化すればするほど
魂から遠ざかる

あなたのことを何一つ思い出せない
何一つ説明できない
だけど、目を閉じると、あの感覚だけが蘇る

体の奥からあったかい何かが露呈し
この世界との温度差に結露する

そして私は涙を流す
ただただ物理的に

グレンフェディックを入れたタンブラーから
「カラン」と
氷が溶ける音がした

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