銀座無双、今日も優雅に無敗です　〜空港編「香港行きの出張命令」4〜

【夜明けを賭けた一戦：語られる物語の真実】

チョウロンは、ジョージの冷静な視線を見つめたまま静かに口を開いた。

「……白洲さん、あなたは鋭い目を持っていますね。人の嘘を見抜き、隠された意図を暴く力がある。」

ジョージは紅茶を一口飲みながら、肩をすくめた。

「商売柄です。」

「では、その力を試させてもらいましょう。」

チョウロンの目が、どこか挑戦的に光った。

「ゲームをしましょう。
私が、これまでの旅で見た出来事を一つ話します。その話が**“真実”か“嘘”か**を、あなたが見抜くのです。」

ジョージは、少し考えてから頷いた。

「面白いですね。その話が嘘なら？」

「あなたが見破れば、私はハイジャックの計画を諦めます。」

「そして、もし私が見抜けなければ？」

チョウロンは、淡々と言った。

「その時は……あなたは黙って私を見送るのです。」

【ゲームの開始：第一話 “ブダペストの靴磨き”】

「では、始めましょう。」

チョウロンは椅子に深く座り直し、遠い目をして語り始めた。

「数年前、私はブダペストを訪れました。
街角で一人の老人に出会ったんです。靴磨きをしている、90歳近いおじいさんでした。」

ジョージは、無表情のまま耳を傾ける。

「彼はとても陽気な人で、私にこう言いました。
『この街で一番の靴磨きだ』と。」

チョウロンは、笑みを浮かべた。

「私は彼に、靴を磨いてもらいました。そして、終わった後にこう聞いたんです。
『なぜ、こんな年齢になっても靴磨きを続けているのか？』と。」

「……ほう。」

「すると、彼はこう答えました。
**『私はかつて、靴磨きの名人だったが、戦争で全てを失った。だから、この街で靴を磨き続けることで、生きている証を残したい』**と。」

チョウロンは話を終えると、ジョージに向かって言った。

「さて、白洲さん——
この話は真実だと思いますか？ それとも、作り話でしょうか？」

【ジョージの洞察】

ジョージはしばらく黙っていた。
そして、カップを置いて静かに口を開いた。

「ブダペスト……靴磨き……戦争……」

「どうです？」

ジョージは、チョウロンをじっと見つめた。

「嘘ですね。」

「ほう？」

「靴磨きの話は、本当でしょう。しかし、“戦争”を理由に持ち出したのが怪しい。」

チョウロンは笑みを消した。

ジョージは、さらりと言葉を重ねる。

「ブダペストの戦争被害については知っていますが、靴磨き職人がそのような話を公然とするのは稀です。
彼らは過去を語りません。“靴磨き”という誇りを守るからです。」

【チョウロンの敗北】

チョウロンは、静かに拍手をした。

「見事ですね……あなたの洞察力には驚きました。」

ジョージは、軽く頭を下げた。

「では、これでお約束通り——あなたはこの計画を諦めるのですね？」

チョウロンは、しばらくジョージを見つめた後、小さく頷いた。

「ええ……約束は守ります。」

ジョージは、淡々と言った。

「目的が正しくとも、手段を誤れば、必ず失敗する。あなたには、まだ“夜明け”を迎える方法があるはずです。」

チョウロンは立ち上がり、ジョージに手を差し出した。

「……夜明けは静かに訪れる。あなたの言葉を、信じることにします。」

ジョージはその手を握り、軽く微笑んだ。