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昨今の人手不足に関する一考察
人手不足だ賃上げだと騒がしい今日この頃ですが。
ホントに人手不足なんだろうか、と思うのです。
コロナ禍で無理やり経済活動を止めたことで、手当付きの休業や在宅勤務などを経験した労働者が、従来の働き方にNOをつきつけ、今まで無茶をごり押ししていた経営者たち(一般的に労働者よりも声が大きい人たち)がごり押しができなくなって、わあわあ騒いでいるだけなんじゃないかと疑っています。
現状認識としては。
コロナ禍という経済の急激な落ち込みはだいぶ昔に収束し。
株式市場は人工知能とそれを動かすのに必要な高性能半導体とソフトウェア界隈にバブルの兆候があるものの、衣食住を始めとする日々の営みに関しては、円安、物価高に苦しめられて好景気とは言い難く。企業の側でどんどん人を雇いたいというような状況ではないと思うのです。
したがって。
もし本当に人手不足なら、人口自体が減っているか、労働参加率が下がっているかするはず。ホントにそうなのか、統計データを確認してみましょう。
米国に雇用統計があるように、日本にも労働力調査という統計があります。ここからダウンロードできます。
中身を見る前に、用語の確認をしておきましょう。
日本の労働力調査では、15歳以上の働く意志のある人全員が労働力人口にカウントされます。現在働いている人だけでなく、職についているけど病気や怪我で休業している人や働いていないけど職探ししている人も労働力人口に含まれます。下の絵がわかりやすい。
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用語を押さえたところでデータを確認してみましょう。
上のウェブサイトから「就業者(年齢階級別)1968年~」のEXCELをダウンロードしてきました。このデータですね。
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1968年からの毎月の就業者数データがあるという、非常に息の長い統計データですが、直近15年くらいを見ればじゅうぶんでしょう。
平成21年(2009年)からの就業者数の推移をグラフにすると以下のようになりました。就業者のうち男性を青色、女性を赤色で示しています。
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男性の就業者数は3,700万人前後で比較的安定的に推移しています。それでも2010年くらいの3,650万人からコロナ前の2020年初めくらいまでの間に3,750万人前後と、非常になだらかながら漸増しています。
一方、女性の就業者数は15年かけて2,600万人から3,000万人超へと男性よりも明確に着実に増えてきています。
そうなのです、就業者は増えているのです。特に女性の増加が大きい。なのに、人手不足なの?
さっきも言ったとおり、今そんなに景気が良さそうでもないのに?
年齢階層別に就業者の比率の推移も確認しておきましょう。
10歳ごとに区分けした労働人口の比率を示したのが下の折れ線グラフです。
少子高齢化が進んでいる日本、34歳以下の就業者(水色)の比率が減少しているのは素直に人口動態の変化を反映したものでしょう。
35~44歳の比率が減って45~54歳の比率が増えているのも人口動態で説明がつきます。人口のボリュームゾーンの団塊ジュニア世代が、この10年で40歳前後から50歳前後に移行していることを反映してます。
65歳以上の高齢就業者(赤線)の比率が増加しているのは高齢者の人数自体が多いことに加えて、まだ元気だから働くとか、働きたくないけどおカネが必要だから働かざるを得ないとか、さまざまな事情がありそうです。
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これは邪推かもしれませんけど。
経営者側は年寄りは雇いたくない、若い人がほしい。
でも若い人はそもそも絶対数が減り続けている。
その少ない若者をなんとか雇っても、昔のように無茶な働き方を要求するとあっさり辞める。
そこに加えて今から10~20年前の若者は団塊ジュニア世代。絶対数も多いし、就職氷河期という職に就くだけでもタイヘンな時代に世に出た故にちょっと無茶な要求をしても職を失うよりはと頑張っちゃう人たちが多かった。この世代も既に40~50代。若さに任せて無茶ができるような年齢でもないし、年齢を重ねればどうしても冷めた目を持つようになるもの。正当な対価もなしにやりがいだの自身の成長だのという言葉だけで無茶につきあう義理もないと割り切れば、無茶ができる体力が残っていたとしても無茶につきあってはくれないでしょう。
そんな状況だからしぶしぶ高齢者を雇うものの、高齢である故に長時間働けなかったり、元気ではあっても既にじゅうぶんな資産形成をしているために短時間しか働く意志がなかったり。
単純に「達成できる仕事の総量=労働者数×平均労働時間」と仮定すると、労働者数は微増傾向、平均労働時間は激減傾向、結果として達成できる仕事の総量(経営者にとってはこれがだいじ)が減ってしまって、「人が足りない!」とわあわあ騒いでいるのではないかと思うのです。
私としては、この邪推が当たっていればとりあえず良し。
経営側(人を雇う側)にとっての交易条件が悪化しただけのようなもので、日本の社会としての健全性は保たれている。
私が恐れているのは、本来働き盛りであるはずの40~55歳くらいの年齢層で、労働市場からの退出が静かにゆっくり進んでしまっているのではないか、ということ。この年齢層は社会に出た時が就職氷河期にあたり経済的に不遇であったがゆえにミニマリスト(必要最低限の消費しかしない)だったり、未婚で子どもがいないゆえにおカネを稼ぐ必要性がなかったりして、早々に働く必要性がなくなる人がそれなりにいそうな気がするのです。FIRE(Financial Independent, Retire Early)が静かなブームとなっている折も折、働くのをやめる人が増えすぎると社会の維持に支障をきたします(ものすごく簡単に言えば、誰も米を作らなくなったら、食べるものがなくなっちゃう!)。
次の記事で「40~55歳くらいの年齢層で、労働市場からの退出が静かにゆっくり進んでしまっている」兆候があるのかを確かめたいと思います。
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