独身の団塊ジュニア世代は早期リタイアしているのか?
先日、以下の記事で「昨今の人手不足というのはウソじゃないのか」という疑念を提示し、その疑念が間違っているとは言えないことを統計データに基づいて確認しました。労働力調査統計によれば、日本全体で就業者数はこの15年間の間に400~500万人も増えているのですから。
ただその一方で、この記事にも書いたとおり、
という恐れも感じています。そう思った要因は以下の記事。
ただこの記事の内容はストーリーとして整合性があるだけで、データの裏付けがあるわけではありません。ストーリーの趣旨は
ということだと思いますが、事実なのは「1」と「2の前半」だけです。2の後半、カネを稼ぐ必要がないかどうかはその人のライフスタイル次第(趣味のカメラと旅行に毎年500万円使ってるかもしれない!)だし、3と4は将来の推測。現実ではない。・・・将来実現してしまう恐れはありますけど。
ただ人間というのはストーリーに惹かれる性質があるのです。事実でなくても納得感のあるストーリーはデータに基づく証拠よりも強く心を揺さぶります。で、私もこの記事のストーリー性にはしてやられた、というわけですね。
ならばデータでそのストーリーが正しそうなのか、ただの妄想なのか確認してみようじゃないか、というわけで前回記事と同様に労働力調査を見てみましょう。
このウェブサイトにある「労働力人口比率(年齢階層別)1968年~」をダウンロードしてきました。
労働力人口には、15歳以上で労働する意思のある人が含まれます。働いている人だけでなく、病気などで休職中だったり失業して職探し中の人も含まれますが、仕事をする気のない人は労働力人口に含まれません。FIRE、早期リタイアした人は労働力人口にカウントされなくなるので、そういう人が増加すれば労働力人口比率は下がるはずです。
この記事ではロストジェネレーション世代(就職氷河期世代)の動向に焦点を当てているので、35~44歳、45~54歳の2階層に着目します。
下のグラフは、過去15年間(2009年1月~2024年8月)の、男女別、年齢階層別の労働力人口比率の推移を示しています。
35~44歳男性(青色実線)
35~44歳女性(青色破線)
45~54歳男性(赤色実線)
45~54歳女性(赤色破線)
この15年間で、家の外で働く意志を持った女性が非常に増えたのは間違いありません。15年前には35~44歳で70%を割っていた労働力人口比率が80%を超えるところまで伸びています。45~54歳も同様に73%から80%を超えるところまで伸びています。結婚せずに働き続け、じゅうぶんな資産を蓄えて早期リタイアしたキャリアウーマンもいるかもしれませんが、それよりも外に働きに出る女性の方が圧倒的に多かったと言えます。仮に早期リタイアする女性が増えていたとしても、女性の労働力人口比率の推移からはそれを認める証拠は見つけられません。
一方の男性は、どちらの年齢階層でも96%前後で推移しています。大半の人が外で働いている、ということですね。女性ほど明確な傾向をグラフから視覚的に読み取ることはできないので、この推移を線形近似してみます。すると35~44歳では
労働力人口比率 = -0.0039 × ( 暦年 - 2009 ) + 96.641
45~54歳では、
労働力人口比率 = -0.0050 × ( 暦年 - 2009 ) + 96.049
となりました。
どちらもわずかとはいえマイナス。リタイアしているかどうかは不明ながら、働くつもりがなくなった人が毎年わずかずつ出ている模様。
もちろんこの年齢になると死亡率もわずかずつ上昇してくるので死亡という形で労働市場から退出するケースもあります。この統計は労働力人口比率なので、死亡という形でこの年齢階層の労働者数が減った場合は分母と分子の両方が減ります。男性の50歳での死亡率は0.243%なので、1,000人のうち2~3人が死亡することになります。1,000人のうち960人が労働している世界で労働者2人が死亡した場合、労働力人口比率は96%から958÷998=95.99%と0.01%減ります。なので0.01%程度の減少は、病死、事故死によるもので本人の意思(リタイアするぞ~!)ではないと考えてよいでしょう。
-0.0039も-0.0050も0.01よりじゅうぶん小さいので、明確にリタイアする意思を持って仕事をやめている人はまずいない、と考えてよさそうです。
もっとも、早期リタイアが増えたと明確に統計データに現れる頃にはもう手遅れでしょう。氷河期世代の苦境を捨て置いて少子化を決定的なものにしてしまったのと同じ。
ということで、要約すると、
統計データを見る限り、少なくとも現時点では、団塊ジュニア世代(40~55歳の年齢層)で、早期リタイアする人が過去より増えているということはない。
という結論になりました。とはいえ、この先退出が始まったり、始まったうえに加速したりする可能性は否定できません。そう思ってしまうあたり、私、まだ上に引用した記事のストーリーの力にやられてる証拠ですね。
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