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『LOVED』マーティ・ケーガン氏のまえがき全文公開

この記事では、2023年7月に発売された『LOVED 市場を形づくり製品を定着に導くプロダクトマーケティング』に掲載された、マーティ・ケーガン氏の「本書によせて」を、無料公開いたします。
なぜプロダクトマーケティングが重要なのかについて、説明した内容になっています。ぜひ多くの方にご覧いただき、本書を手に取って読んでいただければ幸いです。

本書によせて

マーティ・ケーガン
2021年11月

 私は、自著『INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント』で、すべてのプロダクトにおいて、唯一かつ最も重要なコンセプトは、プロダクト・マーケット・フィットのコンセプトであると主張した。
 スタートアップにとって、プロダクト・マーケット・フィット、特にプロダクトのGo-to-Market戦略を含めた達成は、まさに唯一の重要事項 と言える。
 しかし、プロダクト・マーケット・フィットに至ることで得られる報酬は成長であり、成長には挑戦が伴う。
 さらに、企業が成長するにつれ、多くの場合、新たな市場のニーズに対応するためにプロダクトを進化させ、大抵の場合はすぐに新プロダクトの開発にも着手する。したがって、プロダクト・マーケット・フィットとグロースという重要なコンセプトは、テクノロジー企業の生涯を通して、プロダクト活動の中心にあり続けるのだ。
 『INSPIRED』では、価値、ユーザビリティ、実現可能性、そして事業実現性を備えたプロダクトのディスカバリーに用いるテクニックを紹介した。そして、そのためにはプロダクトマネジメント、プロダクトデザイン、そしてエンジニアリングの間でいかに緊密なコラボレーションが必要であるかを論じた。
 成功を収めるためのソリューションのディスカバリーは必要かもしれないが、それだけでは十分ではない。
 これまで私たちは、どこにも辿り着けないプロダクトの事例を数え切れないほど見てきた。

・プロダクトが真の顧客ニーズに応えていない
・そのようなニーズを持つ顧客が十分に存在しない
・顧客は存在するが、プロダクトの存在が十分に知られていない
・たとえ顧客がプロダクトを見つけられたとしても、そのプロダクトが自分たちのニーズとどのようにマッチしているのかわからない

 こうした運命を避けるために、プロダクト・マーケット・フィットには、その名が示すとおり、プロダクトとは別の側面がある。市場(マーケット)という側面だ。
 成功を収めるプロダクトとは、特定の市場における強力なソリューションのことを指す。
 そして、プロダクトマネジャーとともにプロダクト・マーケット・ フィットを達成し、そのプロダクトを市場に導くパートナーが、プロダクトマーケティングマネジャー(本書ではプロダクトマーケターと呼ぶ)だ。
 プロダクトマネジャーが、主にプロダクト・マーケット・フィットの プロダクト側に注力するのに対し、プロダクトマーケターはGo-to-Market戦略などの、市場側に主に注力する。
 しかし、プロダクトの追求と市場の追求が独立した活動だと考えてはならない。それらは並行して行われ、非常に緊密に絡み合っている。
 だからこそ、プロダクト・マーケット・フィットを成し遂げるためには、プロダクトマネジャーとプロダクトマーケターのパートナーシップが非常に重要になる。
 私はこのパートナーシップを、プロダクトマネジャーがプロダクトマーケターと協力し、プロダクト・マーケット・フィットの現在地を把握するイメージで捉えている。
 そして、いざプロダクト・マーケット・フィットを達成し焦点がグロースに移ると、次はプロダクトとプロダクトマーケティングのコラボレーションがグロースの鍵となる。
 プロダクトマーケティングの役割自体は、これまでも長年にわたって存在してきた。しかしテクノロジープロダクトやテクノロジーサービスにおいては、革新のスピードが速く、非常に過密な競争環境にあるため、プロダクトマーケティングが特に難しく、これまで以上に重要視されている。
 強力な技術力を持つプロダクト企業において、プロダクトマーケターは、プロダクトの最終的な成功に不可欠な、とても基本的な問いに答える助けとなる。

・ターゲット顧客にリーチするための最適な方法は何なのか
・顧客がいつ、どのようにプロダクトの存在を知ることができるのか
・顧客がプロダクトの捉え方を理解できるように、プロダクトをどのようにポジショニングするのか
・顧客の潜在的なニーズに響くように、価値をどのようにメッセージングするのか
・顧客はどのようにプロダクトを評価できるのか
・誰が、どのように購買の意思決定を行うのか
・最後に、もし取り組みがうまく行き、顧客がプロダクトを気に入ってくれた時に、その顧客はプロダクトを気に入っていることを、友人や同僚にどのように伝えることができるのか

 経験豊富なプロダクトリーダーの多くは、正しくGo-to-Marketを行うことは、成功するプロダクトのディスカバリーと同じくらい難しいと言うはずだ。
 なお事実として、私たちシリコンバレープロダクトグループ(SVPG) がこれまで執筆した本や記事は、主にプロダクト・マーケット・フィットのプロダクト側に焦点を当ててきたと自覚している。
 これは、私たちがプロダクトに偏重している現れだ。プロダクトマーケティングが弱くても成功できたプロダクトの事例はあるが、いくら優れたプロダクトマーケティングがあっても、悪いプロダクトを補いきることはできない。
 しかし、競争が激化する今日の現実においては、成功するためには強いプロダクトと強いプロダクトマーケティング、その両方が必要なのだ。
 だからこそ、この新刊をみなさんに紹介できることに喜びを感じている。
 本書の著者のマルティナは、Microsoft社やNetscape Communications社をはじめとするトップクラスのテック企業で、プロダクトマーケティングだけでなく、プロダクトマネジメントやコーポレートマーケティングを長年にわたって経験し、素晴らしいキャリアを積んできた。彼女は、この本を書くのに比類なく適した人物だ。
 マルティナは、この業界で最も優れたテクノロジーとマーケティングのリーダー達のもとで働き、またコーチングを受けてきた。長年にわたってSVPGのパートナー、ベンチャーキャピタリスト、そしてカリフォルニア大学バークレー校の講師として活躍し、文字通り何百もの企業や無数のプロダクトマーケターにプロダクトマーケティングという重要なトピックについてアドバイスやコーチング、教育を行っている。
 特にアーリーステージのスタートアップでは、プロダクトマネジャーがプロダクトマーケティングの役割も果たさなければならない場合があるだろう。また、マーケティング組織の他のメンバーがその役割を果たさなければならない場合もある。
 本書を読むあなたが、プロダクト側、マーケティング側のどちらに出自があるにせよ、プロダクトマーケティングへの揺るぎない理解があれば、成功する可能性はさらに高まるだろう。
 SVPGシリーズの書籍は、トップクラスのプロダクト企業でのベストプラクティスの共有を目的としており、本書は長い間満たせていなかったニーズに応える重要な追加要素となる。
 私たちは、これはほんの始まりに過ぎないと考えている。プロダクトチームとプロダクトマーケティングが効果的かつ成功裏にコラボレーションするためのベストプラクティスやテクニックを、今後もさらに紹介していく予定だ。

マーティ・ケーガン
Marty Cagan


ヒューレットパッカードやeBayなど、名だたるシリコンバレー企業で活躍し、製品やサービスの開発に色々な立場で携わってきた。その後、ユーザを魅了し、大きな成功を遂げる製品を作ろうとする人々を支援するため、シリコンバレープロダクトグループ(SVPG)を立ち上げ、コンサルティング活動を精力的に展開している。

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