“ファッションリベラルアーツ”という思考ツールの概説書
こんにちは、insomniaと申します。
当ブログ [ insomnia|ファッションリベラルアーツ ] では、『衣服を哲学し、自由を着る』をコンセプトに、ファッションをより自由に楽しむための教養を発信しています。衣服にまつわる哲学や社会学、歴史的背景などアカデミックな視点からファッションを探求するブログです。
今回は改めて『“ファッションリベラルアーツ”とはどのような思考ツールなのか?』を3つの視点からお伝えできればと思います。今まで当ブログをご覧いただいていた方は勿論、今回がはじめてという方でもご理解いただける内容となっています。
これを読むあなたの生活の中に“ファッションリベラルアーツ”という思考ツールを活用することで、人生が激変したりはしません。が、より創造的かつ自由な発想でファッションを楽しむことができるようになるはずです。
また、これからお話しする主な3つの視点は、わたしたちの衣服を取り巻く実状とこれからのファッションを考える上で、欠かせない視点になると断言します。まずはその導入として、そもそも「“ファッションリベラルアーツ”とは何か?」という定義から始めさせてください。
ファッションリベラルアーツの定義
「ファッションリベラルアーツ(Fashion Liberal Arts)」とは「ファッション」と一般教養を意味する「リベラルアーツ」を組み合わせた造語です。
「リベラルアーツ」が“自由になるための技術”と訳されることからもわかる通り、ファッションリベラルアーツは「あなたが本来もつ創造性を引き出し、自由にファッションを楽しむためのツール」です。
子供の頃は誰でも、無邪気な創造性と共に、自由にファッションを楽しんでいたはずです。
それを象徴するかのように、日本が世界に誇るファッションブランド“COMME des GARÇONS(コムデギャルソン)”はフランス語で【少年のように】を意味します。ファッションの真髄とは「少年のような心で楽しむこと」なのではないでしょうか。
そこで当ブログでは「大人になるにつれて、いつの間にかサビついてしまった創造性を、ファッションリベラルアーツによって元の形に磨いていこう」ということを主題としています。
ファッションにまつわる教養を通じて、創造的かつ自由にファッションを楽しむ思考を手に入れることはもちろん、延いては「あなたがより創造的かつ自由な発想で生きるため」のガイドラインになれればと思っています。
定義とその意義を確認したところで、ファッションリベラルアーツが主に関心を寄せる3つの視点をご紹介します。
Ⅰ. ファッションの再定義と哲学的思考の導入
Fashion(ファッション)という言葉は【つくること・なすこと】を意味するラテン語「Factio(ファクティオ)」に由来します。
ほとんどの場合「Fashion=流行」と訳されるますが、その本質的なニュアンスは【つくること・なすこと】なのです。
ファッションリベラルアーツでは「ファッション=自分らしさが“形づくる”もの」と再定義し、「ファッションが自分らしさをつくるのではなく、自分らしさがファッションをつくっている」という関係性で解釈しています。言葉遊びのように思えるかもしれませんが、自分らしさがファッションに先立っているという点は重要です。
このようにファッションリベラルアーツではしばしば「物事の根本原理にさかのぼって思考する哲学的思考」を用いることで、ファッションの本質を捉え直す営みに注目していきます。
ではさっそくですが、“ファッション”という言葉の本質に立ち返った上で、近年のファッションは「自分らしさ」にフォーカスした文化といえるでしょうか。わたしはこの点に懐疑的にならざるを得ません。
Ⅱ. ファッションのベクトルを自己に向ける
他律従属型ファッションをやめる
昨今のファッションはどうも個人から切り離された外部に依存する傾向が強いように思えます。
ファッションインフルエンサーによる再生数ありきの汎用なコンテンツ、閲覧数と検索履歴に応じたアルゴリズムによるレコメンド、骨格診断やパーソナルカラー診断といった曖昧な杓子定規……しまいには、服を着る私達自身が、面識のない不特定多数からの「いいね」に躍起になってしまいます。
このような状況を端的に表現した言葉が写真家[YUTARO SAITO]さんによる“プラスチック・ファッション”です。
以前、こちらの記事でも紹介していますが、“プラスチック・ファッション”という用語は次のように説明されます。
現在、多くのファッショントレンドは、“SNS”から発信されるようになり、その枠組みの中でプラスチック的に消費されています。
SNS普及以前は映画やドラマ、雑誌をはじめとする“オールドメディア”からトレンドが生まれたため、それらの情報を能動的に取得した個人が、独自の解釈をもとに「自己にベクトルを向けたファッション=ノット・プラスチック・ファッション」を形成していました。
わたし自身は「プラスチック・ファッション」に対して、完全に否定的ではありません。むしろ、SNSという新しいカルチャーの中で変貌を遂げるファッションの在り方に肯定的でありたいと思っています。
しかし、一方で「誰かがオススメしていたから」「いいねがもらえそうだから」という他者を基準としたファッションにだけ傾倒することはファッション本来の楽しさから乖離しているとも感じます。
このブログでは「他律従属型ファッションをやめる」=「脱・プラスチック・ファッション」のために、より主体的かつ個人的なファッションを肯定したいと思います。
コーディネートのコンセプトメイキング
SNSで再生産され続ける無機質なファッションに陥らないために重要な視点となるのが、“コーディネートのコンセプトメイキング”です。
“コーディネートのコンセプトメイキング”とは、その名の通り、自分のコーディネートにコンセプトを設けるということです。
コンセプトというと、例えばスターバックスコーヒーの「第3の場所(サードプレイス)」というフレーズが有名です。
スタバのコンセプトの背景には、現代人の生活における「第1の場所が家」であり、「第2の場所が職場(学校)」であり、そのどちらにも属することのないストレスフリーな場所でありたいという意味で、自らを「第3の場所(サードプレイス)」と位置付けています。実際にスターバックスコーヒーの立地や店内レイアウト、BGM、接客に至るまで、その全ては「第3の場所(サードプレイス)」というコンセプトに基づいて設計されているのです。その結果、ドトールやタリーズ、エクセルシオール カフェとは全く異なる価値を提供し、日々客足が絶えません。
洋服(コーディネート)も同じです。ファッションに対する1つのコンセプトを設定し、それに基づいたコーディネートや服選びを行うことで、他の人には表現できない“固有のスタイリング”を完成させることができるのです。
“コーディネートのコンセプトメイキング”の第一人者といえるのが、noteでも情報発信をされる [あきや あさみ] さんです。
あきや さんの記事では、スタイリングや服選びにおけるコンセプトについて以下のようにまとめられています。
想像による「こんな雰囲気になってみたい」を一度言語化することで、トレンドやいいね数等に流されすぎず「自分らしさ」の中でファッションを楽しむことができるようになります。
誰かの服装を参考にするのは、全く問題ありませんが、参考にする服装を選ぶにしても「自分らしさ」が中心になければ、ただの“没個性的”な服装の焼き回し=「プラスチック・ファッション」が出来上がるだけです。
まずは簡単にでも、ファッションを通して、自分のなりたい姿や醸し出したい雰囲気を言語化してみることからはじめてみましょう。
中身は何でも結構ですし、気分によって変化を遂げても問題ありません。外部の指標に依存しすぎずに、自分の感性と言葉でまとめられているかどうかということが重要です。
Ⅲ. ファッションへのアート視点の導入
創造性を武器にして自由にファッションを楽しむツール「ファッションリベラルアーツ(Fashion Liberal Arts)」を語る上で要となるのがファッションへの“アート視点の導入”です。なんといっても「ファッションリベラルアーツ」なのですから。
我々が身にまとうあらゆる衣服は“デザイン領域”の服と“アート領域”の服の2つに解釈が可能です。
ここでいう“デザイン”と“アート”という言葉は「問題解決のための手段がデザイン」であり、「問題提起のための対象がアート」だとご認識ください。
例えば、ユニクロが販売する服は典型的な“デザイン領域”の服です。わかりやすいものでは、ハイブリッドダウンパーカやエアリズムTシャツは気候面での問題を解決するための手段として着用されています。謂わば、機能が全面的に消費されているものが“デザイン領域”の服の特徴です。
一方、以下の写真の服はどうでしょう。
左の特徴的なアウターは、通気性を良くするために透け感のあるシアー素材を使用しているわけではありません。
右の思わず二度見してしまうパンツは、暖を取るために草が生えているわけではありません。
どちらの服も観る者の“創造性”を掻き立て、社会に対する何らかの問題提起をするための、まさにアート的な表現なのです。機能性からは全く切り離された世界、それが“アート領域”の服といえるかもしれません。
このように考えると、ファッションを“アート領域”の視点で観つめ直すことで、創造性を養うことができます。
「なぜアウターがシアー素材で表現されているのか?」
「なぜパンツに草が生えているのか?」
ブランドやデザイナー側に明確な答えがある場合もあれば、ない場合もあります。ただ、そのどちらの場合でも「自分で考えた解釈」を導き出せれば、それで十分です。というよりも、それがまさしくアートを鑑賞するという姿勢です。
AIがあらゆる答えを知っている時代に、答えを出せる能力が創造性の高さには結びつきません。むしろ、AI には出せない独自の解釈にこそ、固有の価値があり、それこそがあなた個人を“形作る”ファッションの第一歩です。
ファッションにアート視点を導入することで、「服=おしゃれのための手段」という表面性を超えた奥行きに気がつくでしょう。
試しに以下の記事で登場する「ハトとカエルのクラッチバッグ」を“アート視点”で解釈する体験を行なってみてください。ファッションにおける“解釈”の重要性をご理解いただけると思います。
人生がちょっとだけ豊かになる思考ツール
前段でもお伝えしたとおり、ファッションリベラルアーツには、人生を激変させるような魔力はありません。
しかしながら、やれ“個性の尊重”だのいう割に何かと没個性的で、“価値観の多様化”という割に何かといいねが支配的になった現代社会の中で、個人的かつ個性的な創造性を尊重し、人生がちょっとだけ豊かになる思考ツールであることをお約束します。
みなさんとはまた、次の記事でお会いできることを楽しみにしています。
「ファッションくらい、もっと自由でもいいんじゃない?」
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