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唯一無二の創作もんじゃで月島にイノベーションを起こす。


株式会社delta 代表取締役社長 中村謙作氏

浅草生まれ。小学5年生の時に引っ越した月島で、郷土料理『もんじゃ焼き』に魅了された。高校一年から大学5年生まで地元のもんじゃ専門店でアルバイトをし、商品企画や業務オペレーションの設計・構築、新店舗のオープンにも携わる。大学卒業後、大手IT企業に就職。数年後、大学時代の友人2人と月島もんじゃ「こぼれや」を開業。


もんじゃ焼きの魅力にとりつかれた少年。

浅草で生まれ育った生粋の江戸っ子である中村氏は、小学5年生の時に母方の実家のあった月島へ引っ越すことになった。月島から浅草への電車通学は、小学生の彼にとって貴重な体験となった。毎日がまさに冒険の連続。行動範囲の広がりは、彼の好奇心を大いに刺激した。

今では観光地として賑わいをみせる月島だが、中村氏が引っ越したころはまだ外食チェーンも進出しておらず、駄菓子屋や問屋が軒を並べていた。もんじゃの香ばしい匂いを嗅ぎながら昔ながらの下町で育った中村氏は、自然ともんじゃ焼きに愛着を抱くようになる。

都立三田高校へ入学すると、さっそく地元の有名もんじゃ焼き店でアルバイトを始めた。とにかく仕事が面白くて仕方がない。アルバイトに明け暮れて学校にはほとんど行かず、親に苦労をかけたこともあった。しかし両親は彼を縛ることもなく、好きにさせてくれたそうだ。

未・卒業旅行で得た生涯の友。

もんじゃ三昧の高校時代から一浪を経て立教大学理学部物理学科に入学した中村氏は、引き続き同じもんじゃ焼き店で働いた。学生とはいえ、そのころにはすでにベテランの域に達し、別店の新規立ち上げにも携わるなど、ますますもんじゃの魅力にはまっていく。

「バイトは面白かったですね。とにかく新しいことにチャレンジするのが面白かった。新店舗の売り上げがどこまで伸びるのかとか、集客なんかがね。これまで店が作ったオペレーションの中で働いていたのに、自分が作る側になった時、これは面白いと思ったんです」。

アルバイトに夢中になりすぎて留年してしまった中村氏。卒業式間近のある日、大学の研究室へ顔を出してみると、皆「卒業旅行には行かない」というではないか。自分は卒業できないけれど、でもなんだかもったいない。そこで「せっかくだし、一緒に行こうよ」と声をかけ、仲間4人でグアム島に行くことにした。

「そのうちの1人は損害保険会社に就職して、その後外資系コンサルに転職しました。もう1人は親が事業家で、彼はその跡継ぎってこともあって、若い時から企業マインドを持っていたんです。学生時代も僕のバイト先に飲みに来ては、『もんじゃって儲かるの?』とか『いつかいっしょにやれたらいいね』なんて話をしていたんですよ」。

その時の2人がdeltaの創業メンバーになろうとは、誰が想像しえただろう。まったく、人生とは何がきっかけになるか分からない。

辛さを乗り越え、大手IT関連企業へ。

「そもそも大学に受かることがステイタスだと思っていたんです。だから将来どうしたいというのがなかった」。

と、中村氏は当時を振り返る。大学5年生になってももんじゃ焼き店のアルバイトは続いていたが、SNSで元同級生たちの活躍や充実ぶりを見るたびに、モヤモヤした気持ちが募っていった。2度目の留年が確定し、6年生になった時にはすっかり希望を失ってしまった。

-いったいどうやって立ち直ったんですか?

との問いに、「友達によるメンタルサポートと、坂本龍馬」と即答する中村氏。NHKの大河ドラマ「龍馬伝」を見て、幕末の時代を駆け抜けた坂本龍馬の生き方に心を揺さぶられたのだそうだ。

「自分のことだけを考えて、自分のことだけで勝手に失望したり、落ち込むなんてもったいないと思ったんです。大義を持って生きている人もいるのに、これはダサいなと」。

「あと損保に就職した友達が週に1回か、2週に1回くらいうちに来てくれて、近くの喫茶店に連れてってくれて。僕はお金がなかったので、彼がアイスコーヒーとデザートを毎回奢ってくれたんです」。

中村氏の言葉には、いつも仲間への信頼と感謝の気持ちがあふれている。

彼が卒業を迎えた2010年当時は、リーマン・ショックとそれに伴う金融危機が祟り、第二の就職氷河期ともいえる厳しい時代。学生にはいばらの道であったが、企業にとっては優秀な人材をじっくり選んで採用できるチャンスでもあったのだろう。トライアウト採用を行っていたある大手IT企業に応募した中村氏は、25歳で卒業するその日に内定を勝ち取ることができた。自分の企画を受け入れてくれた事業部長には、感謝してもしきれない。法人向け営業担当として、中村氏は仕事に邁進した。

念願のもんじゃ屋を開業。

数年後、親の事業を継いだ友人が「あの時の話だけど、どう?やらない?」と声をかけてきたことをきっかけに、中村氏はもんじゃ焼き店を作ると決意した。2015年10月、卒業旅行以来親交を深めてきた件の友人2人とともに、10坪22席という小さな店をオープン。それが現・月島もんじゃ『こぼれや 本店』だ。

創業メンバー3人に加え、現場を任せる人材として、地元のもんじゃ焼き店経験者である同級生にも参加してもらった。長年のアルバイトで、もんじゃ焼きのノウハウはある。居ぬきで店舗を借りたため、初期投資を抑えることができたのも幸いだった。

変革のタイミング『リニューアルプロジェクト』。

厳しい経営状態が続いていた2016年のある日、『こぼれや』の面々にとって忘れがたい出来事があった。店に来てくれた大学時代の友人から、「ブランディングが全くなっていない」と“ボロカス”に言われたのだ。

有名化粧品メーカーのブランドマネージャーという立ち位置からの意見は貴重だ。その友人に教えを乞い、改めてブランディングの重要さを知ることになった。

こうして誕生したのが“唯一無二の創作もんじゃ”だ。高級志向に大きく舵を切った3人は、『こぼれや』のコンセプトに合わせてロゴや内装も刷新した。主要ターゲットを観光客からサラリーマン層へとシフトし、新たな月島ファンを作るべく皆で戦略を練りあげていった。

「我々が老舗店や大衆店と同じことをやっても目立たないし、お客様に入ってもらえません。とにかく目立つことが大事。100店舗の中でどこを選ぼうかとなった時、市場の中で1%でも気にしてくれる人がいたら勝てると思いました」。

株式会社deltaの内部では、この時期を『リニューアルプロジェクト』と呼んでいる。

“唯一無二の創作もんじゃ”というブランド戦略は大当たりし、インターネットを駆使した集客も軌道に乗った。2018年4月に2号店をオープン、現在は月島のもんじゃストリートに4店舗を構える。

3人の絆が世の中を変えていく。

起業当初は経営が厳しく、3人がバラバラになりかけたこともあった。『リニューアルプロジェクト』で業績は回復したものの、2020年にはコロナという未曽有の試練も経験した。前職では営業部長の肩書きを持ち、43都道府県を飛び回るなど第一線で活躍していた中村氏。すでに安定した暮らしが約束されていたにもかかわらず、どうして『こぼれや』を選んだのだろう?

「やっぱり“仲の良さ”ですかね。自分たちですべてできるのは面白いです。従業員のことを含め、自分たちでなんでも意思決定できる。もしかしたら、世の中を変えることだってできるかもしれない」。

delta(デルタ)は物理記号で“三角形”を表す。中村氏ら3人が立教大学理学部物理学科であったこと、3人で会社を起業したこと。3人が親友になるきっかけとなった卒業旅行で利用した航空会社がデルタ航空だったこと。仲間との絆をいつも第一に考えてきた中村氏にとって、これほど社名にふさわしいものはない。

株式会社deltaはミッションに『Save The JAPANFOOD』を、ビジョンに『世界中で鉄板を囲むコミュニティ』を掲げている。前職でIT法人営業責任者として活躍していた中村氏は、仕事で43都道府県を訪問。地方食や地元ならではの食材に興味を抱くと同時に、地方が衰退していくことに危機感を覚え、地方の生産者に寄り添ったフードビジネスを展開していきたいと思ったのがきっかけだ。同時に自身が育ってきた月島も、経営者の高齢化やDXへの遅れなど同様の課題を抱えており、この町の文化を維持・発展させることにも強い使命感を抱いている。

また鉄板を囲んで粉もの料理を仲良く食す、体験を共有するという日本ならではの“鉄板文化”を、世界に展開したいとも考えているそうだ。まだまだ観光食の域を出ない“もんじゃ文化”とその魅力を日本国内へもっと伝えていくと共に、将来の海外進出も視野にいれている。世界中の人々が家族や友人と一緒に鉄板を囲み、自分たちで焼くことを楽しみながらアツアツのもんじゃ焼きに舌鼓を打つ。中村氏にはそんな光景がはっきりと見えているに違いない。

24/08/20
株式会社delta 代表取締役社長 中村謙作氏

飲食の戦士たちより

主な業態

こぼれや

下町の歴史を大切に、新たな舞台を追い求めます。“下町割烹もんじゃ”を心から味わっていただくため、既存の概念にとらわれず、日々研鑽を積んでまいります。それが“こぼれや”の心です。
すべてのお客様に心からの驚きと感動をお届けします。
最高峰のもんじゃをぜひ。

https://tsukishima-monja-koboreya.com/

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