小さなお店の数字で見るコロナ3(テイクアウト編)
前回までのこと
2020年の年始からしばらくは順風満帆だったとある小さなお店は、ある日突然現れたコロナウィルスによる世界的影響がとうとう国内に及び、自粛要請と緊急事態宣言の中で、あっという間に売上は通常の3割にまで落ち込んでしまいました。
平均3000円で平均1000人が来店していた、席数16席ほどの小さなお店の売上300万円は、このままでは今月はとうとう100万を割り込み、90万ほどになる見込みです。
さらに悪いことに、再三の自粛要請後の緊急事態宣言により、主要駅や主要な商業施設の大半がほぼ閉鎖状態となり街の様相はわずかな間に一変してしまいます。
昼の街にはマスクをつけ通勤のルートだけをまっしぐらに歩く人、公園には学校が休みなので子供たちも意外と多いものの、その反面夜の街はとても静かで、出歩く人影を見つけることさえ困難です。
自粛要請もますます厳しくなりますが、あくまでも「自粛」の「要請」ばかり。
一部の自治体では休業協力金などの名目で補償もあるようですが、自治体ごとにも差がありますし、お店ごとの事情にもよりますが、それで休業損失が全て賄えるとも思えません。
街中では飲食店の一部の業態が名指しされてクラスターを形成している、3密を避けなければならない、とまるで営業することや存在自体さえ許されないかのような言葉も聞こえ始めました。
さて、このとある地方の架空のお店は店名を「quaderno(クアデルノ)」といい、いわゆるカジュアルなイタリアンバルのようです。
数年前にオープンし、地域ではちょっと知られた小さな繁盛店でした。
これはそんなお店のオーナーが、コロナ禍の現状と向き合う現実を想定した実際に存在し得る架空のお話です。
※ テイクアウト編を書くにあたり、何を売るのかの具体性がないとイメージがつかみにくいと思われたので、業態はTwitterアンケートにより決定し、店名は「ノート」のイタリア語にあたる「クアデルノ」とすることにしました。
本記事のⅢ章以降、原則として視点をクアデルノの中の人としてオーナー視点で記述することにしております。
結果的に数字以外についてもオーナーが思考した軌跡を記述することになり、端的に事業構造から数字だけを洗い出したものとはなっておりません。
テイクアウトに限りませんが、お店ができることや方針は各事業者の状況によって異なりますので、クアデルノのオーナーはそのように考えたという想定であり、各種選択肢やその価格帯と具体的手法等も含め、全く異なるパターンの選択肢は無数に存在しますのでその旨ご承知おき下さい。
筆者の勤務先で実際に取った対応や現状での結果と、本記事でクアデルノオーナーが検討している数値や対応は、規模も業態も違いますので当然ですが相当異なります。
【 本記事は飲食業界ではない方や、数字構造に詳しくない方向けに書くことを目的としておりますので、本業の方や各種ご専門の方におかれましては何をいまさらなことを、という内容が相当に含まれておりますのでご留意下さい。】
記事内には当然筆者個人の見解も含まれますが、そうでない部分(筆者の考える客観的視点から想像される見解)も多分に含まれますので、特に筆者の胸中が必ずしも文中のオーナーの視点と同じというわけではありません。
あくまでも【とある架空の事業者の視点】になりますので、決して筆者が何らかの正解や方向性のようなものを意図するものではありませんし、具体的な解決策を提示するものでもありませんのでご注意下さい。
なお本記事中でクアデルノのオーナーが開業前に相談した架空の「社長」なる登場人物が故人という設定になっておりますが、その意図は「経営者は結局自分で意思決定をするしかない(いわゆる経営者の孤独)」を意図したものであり、その他の意図はございません。
いわば、この社長なる人物はクアデルノオーナー自身の対話者であり、彼の中のもう一人の自分のようなものとご理解下さい。
現実的にも、同業者やその他の関係者等からアドバイスが得られる場合はあるのですが、可能な選択肢の範囲も実情は事業者ごとに相当異なりますし、異なる見解や視点を提示するごとに登場人物をいたずらに増やすのもわかりにくくなるかと思います。
最終的には様々な検討の結果として経営者自身が選択するという意味において、諸々書き方を検討した結果、各所から俯瞰した筆者が多角的に見る小さなお店という目線の定まらない記述ではなく、上記のような記述法にさせていただきました。
またこちらも重要な注意事項ですが、各種販売行為に必要な営業許可等については地域管轄の保健所によっても、許可の種類、範囲等は販売物の実態の認定や地域による運用上の相違がありますので、(そこもある意味で問題ではあるのですが)全国一律のものではありませんし、当方も記載内容の責任を負いかねますので、もし何かを実施する場合には必ず各自で管轄保健所にご確認下さいますようお願いします。
<本記事は許可の取得や法令関係について解説するものではありません。>
いくつかの許可関係は筆者も過去に取得した経験もあり、一部についてはやりかたによってはこうすれば取れるという具体的な経験も多少有しておりますが、あくまでも個別具体の販売物や設備状況、保健所の地域や担当者によって異なる場合がありますので、許可の取得についての詳細は解説いたしませんし、上記の理由から登場人物もそこまで個別の許可に詳しくはないが許可関連の基本は一応知っているという前提で記述しています。
具体的に踏み込んだ情報のほうが役に立つのではと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、現状のような未曾有の事態において、むしろ個別詳細により成立条件が異なるものを架空の店の許可取得の実例としてあげることは、むしろ起こり得る現実的な不幸にも繋がりかねませんし、結果として記事中のオーナーが取り得る選択肢の幅も狭くなりますが、そのあたりはご理解を賜りたいとおもいます。
次項より本編に入りますが、遡って読まなくても内容がわかるように一部資料は再掲しておりますけれども、前回までの数値シミュレーションや経緯を確認される場合はこちらのノートをご参照下さい。
Ⅰ この状況で何をする?
では冒頭の状態を再度おさらいします。
とある地方都市にある小さなお店「クアデルノ」の売上は通常の3割にまで落ち込んでしまいました。
平均3000円で平均1000人が来店していた、席数16席ほどの小さなお店の売上300万円は、このままでは今月はとうとう100万を割り込み、90万ほどになる見込みです。
現在の状態は最初の記事である(飲食編)で引用している公開されたPOSレジデータを参考にして、前回の⑥売上が7割減少(=以前の3割の売上)という前提で考えてみることにしましょう。
閉店後試算をしながらオーナーは頭を抱えます。
現状の資金は平常月の売上の1ヶ月分で300万円です。
以前の表でいうと、Bの⑥の状態です。
以前の図表はお店だけの数字なので載っていませんが、開店時の借入金1000万円は6年で返済の契約でまだ残りが1年あります。
月々の返済は利息と合わせおよそ14万円。
これは本来営業利益から払うお金ですが、すでに赤字の状態です。
実質赤字86万とプラスして14万円の借入金返済ですから、先月末の運転資金は300万円なので、このままでは毎月およそ100万円が消えていく計算になります。
(※ 過去の簡易的な資金繰りシミュレーションでは借入金返済は除外していますが、今回はオーナー視点でもあるため含めています。)
「このままでは3か月も持たないぞ、これから先月分の業者さんへの買掛金の払いだってあるんだ・・・・・・」
世の中の状況が状況なので、公庫の借入金返済はリスケ(返済猶予や支払条件の変更)を受け入れてもらえるかもしれませんが、それでも14万の借入金返済が多少の期間猶予されてその後も支払額が減るとしても、このままの状況が続くのであれば全く根本的な解決にはなりません。
業界のニュースを見ても、売上が10%を割り込むところも出てきているなど悲報ばかりで明るい情報はまず見当たらず暗澹たる気持ちになります。
とにかくただ何もせず収束を待つという選択肢は収束がいつになるかわからない以上、もはや現実的とは思えません。
もっと数字が悪い店や地域があるからまだマシかもしれないなどといっていられる状況でないことは、きっとオーナー本人が一番わかっていることでしょう。
周囲のお店は、自主的に営業を自粛し休業を決めたところ、商業施設自体が閉鎖され休業しているところ、テイクアウトや通販(EC)を始めたところ、自治体の自粛要請に従って時短営業をするところ、少数ですが通常営業を続けるところ、などなど様々ですが、人が往来するにぎやかな街の風景はすっかり変わってしまいました。
しかし、オーナー自身にも従業員にも、その家族を含め生活がある以上、何もしないというわけにはいかない状況です。
自分で決めて好きでやっている仕事とはいえ、趣味や酔狂ではなくお店に関わっている人全員にとって食べていく為の仕事でもあるのです。
Ⅱ 開業当初からの記憶をたどる
一体どうすればいいのか、簡単に結論は出そうにありません。
もちろん問題は売上が減少していることで、それが一番の原因であることには間違いないでしょう。
何とか売上を作らなければならないが・・・・・自宅で深夜に一人で悩んでいるとオーナーの奥さんが起きてきて彼に話しかけます。
彼女は努めて笑顔で口を開くと、お店をオープンしたころの話、そこから数年の苦労話と楽しかった思い出をとつとつと語り始めました。
きっとオーナーに気を遣ってくれているのでしょう。
よそのお店の経営者からは「コロナのせいで夫婦喧嘩ばかりだよ」という話を聞いていたオーナーにとっては、本当にありがたく、救われた思いでした。
(とにかく大切な家族と従業員を守らなければならないが・・・・・・)
彼女は話を続けます。
オープン当初も借金をして不安と自信の入り混じる中、運転資金とにらめっこしながら最初の半年までになんとか黒字になるまで必死だったこと。
近隣に競合するお店や大資本のお店ができて一時大変だったこと。
一見すると何も知らない周囲からすれば順風満帆に見えるかもしれないこのお店も、ここまで歩んできた道のりは決して平坦で安定した日々ばかりではありませんでした。
その時奥さんは思い出したかのように口にします。
「開業前に事業計画を相談したあの社長さんだったらどうするのかしら」
その社長さんは、クアデルノがオープンからしばらくして亡くなられてしまい、もう直接相談をすることはできないのですが、独立前に勤めていたお店の常連客で飲食事業にも取り組んでいた人でした。
料理とサービス、店長としてのお店の数字の管理はオーナーはすでに経験していましたが、経営や借金に関することは初めてのことでもあり希望と不安がいりまじっていた頃、どうも独立開業するらしいという話を聞いたその社長は彼を食事に誘い、数字や経営にまつわることについて様々な助言をしてくれたようです。
「あの社長さんならどうするか・・・・・」
彼は独立前に相談に乗ってくれていたその社長の言葉を思い出しながら再び考え始めます。
Ⅲ 事業継続に一番重要なのは資金とその循環
社長がまず最初に独立前の彼に「お店にとって大切なことは何か」を質問したとき、オーナーは目標としていた独立開業の中で、自分やお客さんにとって大切にしたいことや価値観をやや緊張しつつも希望にあふれて話しましたが、社長はニコニコしながらその話を楽しそうに彼が話し終わるまで聞き、最後に真面目な顔に戻ってこう言います。
「お店にとって大切なことは価値観としては色々あるよね。君が言ったように、まさにお客様が喜んでくれることであったり、その前提となる商品である料理や、内装外装調度品やグラスにカトラリーも含めた店内の雰囲気と接客、立地、価格帯、他にもたくさんあるわけだけだし、それは全てとても大切なことだ。でも夢を語っている君に私から伝えておきたい話がある。とても現実的な話で恐縮だけれども、単純に物理的な生命線という話をするなら、継続に不可欠なのは運転資金とその循環だよ。経営をするならそこから目を背けることはできなくなる。個人的な本音としては商売が成り立っているのなら価値観について考えている時のほうがよほど幸せではあるけどね。」
「だからお客さまには当然として、それと同時に数字とも向き合うことになるけれど、どちらにも正しく向き合わないと店が続けられなくなることがある。だから数字は現実として怖いし、しかしとても大切なものだと私は思っている。」
「もちろん経営には正解はなくて、実際には経営者の数だけ経営があると私は思っているから、あくまでこれは私見だという前提で聞いてもらう方がいいし、他の経営者の意見も参考にするべきなのかもしれない。その上で伝えたいことは・・・・・・」
社長は続けます。
Ⅳ 売上だけを追うなという先達の言葉
「私はこの問題で失敗するケースを飲食業に限らずよく見ているのでこれをまず伝えておきたいと思う。短絡的に売上だけを追ってはいけない。目先でもそうだし、長い視点ならなおさらだが、窮地の時こそ正に重要だよ。」
オーナーは質問します。
でも売上がないと続けられないわけですから、現実的な数字の話としてはそれが一番重要ではないのですか?
「もちろん売上が重要ではないという話ではないよ。でも売上だけ見ていると間違えることがあるんだ。君も経営者を目指すのだから、まずは事業計画を自分なりに考えてみるといいだろう、わからないことがあったらいつでも連絡してくれてかまわないよ。そしてもうひとつの経営者の一番大事な仕事は意思決定だからね。これはきっと君も独立すればわかると思うよ。」
その相談の初日にはその言葉の意味がいまひとつわからなかったことをオーナー思い出しますが、同時に社長が言った事業計画と意思決定という言葉も思い出しました。
そうだった、まずはどうするかを決めるために計画を複数たてないとイメージだけで意思決定するのは危険かもしれない。店ごとに状況も出来ることも異なる。とはいえ選択肢は限られてくるだろうが、まずはシミュレーションしてみよう。
オーナーは改めてPCを立ち上げてみることにしました。
V 選択肢を考える
実際のところ、どのような選択肢があるのか再度整理することにしよう。
オーナーは選択肢について考え始めます。
そもそも休業や自粛をする場合にどうなるか(過去記事の⑦休業して雇用は維持)はすでにシミュレーションしたのだから、今はそれ以外について考えるわけだけれど、私にとって何が可能かどうかはともかく、まずリストアップしてみよう。
現在の売上の減少を補うことを考えるならば・・・・・・
1.今まで夜営業のみだったのでランチ営業を開始する
2.テイクアウト・デリバリーをはじめる
3.ネットで商品を販売する(通販・EC)
4.可能な場合は一部在庫の現金化をする
生命線である資金の確保を一般的に考えるならば・・・・・・
5.融資を申し込み資金調達をする
6.関連した助成金・補助金など利用できそうなものは使う
出血を抑える(経費を減らし資金流出を防ぐ)なら・・・・・・
7.家賃等の固定費の減免や猶予を相談してみる
8.在庫の発注ルールを見直してキャッシュフローの負担軽減をする
9.やむを得ず人件費の削減も考える
現実的かはわからないが、巷でいろいろ言われていることだと・・・・・・
10.レシピなど商品ではない情報をネットでマネタイズする
11.各種SNSなどの広告収入でマネタイズする(youtube等を含む)
12.前売り金券販売をリアルまたはネットで行う
13.クラウドファンディングで資金を集める
まだ他にも知らないやり方があるかもしれないが、さてどうしたものか・・・・・
順番に考えるとしても、まず私のような小さなお店は金銭的にも人的な意味でもコストを考えると同時に沢山のことはできないだろうし、元々そんな余裕もない。
今までも選択と集中をしてきた資本力も弱い小さな店だから、先行きのわからないリスキーな投資をこんな状況で安易に行うともっと危険なことになるかもしれない。
だからといって今のままの状態が何ヶ月か続くなら現在の運転資金からしても残された時間は少ない。
場当たり的なやり方ではむしろ生き残ることができる確率が下るかもしれないし、かといって背に腹はかえられないところもある・・・・・・
しかし、オーナーは再び社長の言葉を思い浮かべます。
「短絡的に売上だけを追ってはいけない。」
そういえばそれが数字の基本だった。窮地になると普段ならわかっていることさえ見えなくなるぞ、とオーナーは深呼吸して再び考え始めます。
Ⅵ 本当に重要なことは何か
オーナーは開業前に聞いた社長の言葉をさらに思い出します。
「開業後、理想はいきなり黒字だけども、想定と違う事態はよく起きる。重要なことは、もし赤字(出血)状態である場合に必要になる修正をどうするか。これはまた経営者ごとにも規模ごとにも莫大な数の具体的な手法があるだろうけれども、大きく分けて次の3つのパターンから様々な手法を組み合わせて対処することになるだろう。対処できなければ出血の量と速さによるけれどもいずれ資金が枯渇して事業はそこで終わってしまうからね。」
「そのような場合、基本的には資金流出を止める(止血)、粗利の原資となる前提の売上を作る(造血)、赤字から黒字になるまで耐える「期間と選択肢」を増やすための資金調達(輸血)、細かい手法はそれぞれ様々あるけれど、大まかにこの3パターンとその組み合わせで対処することになる。」
「特に赤字で出血している状態だと、時にあせって売上をつくろうとしがちだけれど、本当にそれが【粗利を生んで造血になっている】か、またその粗利が時間軸を含めて【本質的な解決になるのか】をよく考えることが重要だ。」
「もちろん存続が危ういほど赤字ならば必死になる人がほとんどだが、むしろそのような時こそ冷静に選択肢を見極めてから行動しないと売上の作り方によっては傷口を広げるし危険度は高まることが多いよ。もちろん状況によってはたとえその効果のほどがわかっていても、やむを得ないがやらざるを得ないこともあるのだけれども。」
「だから開業前に最初の資金計画はもちろん、開業後も資金計画は常に考えておかないといけないし、もし必要な時に金融機関から調達できる関係性も重要になることがある。この前も話したけれど、お店という箱と、お客さまやオーナーを含めたスタッフに商品や接客が織りなす信頼関係という存在は当然の前提としても、事業の物理的な継続に不可欠なのは運転資金とその循環だからね。」
数字の基礎を教えてくれた先達の言葉を思い返しつつ、オーナーは決意します。
普段からも現場に出ながら経営者として何年も店をやってきた、開業前に比べれば数字も多少はわかるようになったし、これまでの経験も踏まえてどうするか慎重に、しかも早く意思決定しなければ。
オーナーは実際にエクセルを触りながら考えることにしました。
Ⅶ 具体的に数字とともに考える(V-1~4まで)
順番に考えていくとまず売上を増やすことから・・・・・・
しかし、その売上がきちんと事業継続に必要な粗利を生み出してくれるのかを考えなくてはならないな。
場当たり的に売上を作っても利益が出なければ下手をすれば赤字を広げてしまうことになる。
売上だけを目的にして粗利の出ないような極端な安売り(薄利)をすると特に危ないだろうし、そもそも元々原価も高い薄利多売型なのだからこれ以上の安売りはなおさら厳しいだろう。
単に売上だけではなく、その売上がどれだけ粗利を生み出すのかについて計算してみるとするか。
V-1.今まで夜営業のみだったのでランチ営業を開始する
やろうと思えば夜営業と同じ状態で昼からオープンすることもできるが、まずは王道のランチで考えてみよう。
うちの夜の単価は3000円だけれども、それと比べて昼は周辺のランチ相場を考えてもうちの場合は基本的に目安としては700円~1300円までだろう。
1500円を超えると、かなり来る人を選ぶランチになってしまいそうだし、そもそもうちはカジュアルなお店で、高級店ではないから突然2000円とか3000円以上の価格帯でランチをするのはちょっと無理があるよな。
今までの夜の営業のやり方のまま昼も営業するとなると、うちはイタリアンバルのメニューだからもともとパスタやピザはあるけれど、ドリンクは別だからランチ利用としては割高になってしまう。
すると基本的にはランチ利用ではなく昼呑みの人向けになってしまうが、そもそも夜でさえ呑む人が減っているわけだから、これもやらないよりはマシかもしれないがそれだけでは厳しいだろう。
夜営業よりランチ原価が高いお店も多いけれど、うちは元々高めでもあるし、原価率は夜と同じに抑えて40%で考えるてみるか。
食材の質を下げて原価を下げる方法もあるけれど、そうすると今までの夜のお客さんが来たらがっかりするだろうし、ランチで初めて来るお客さんにも満足してもらえるのだろうか。
満足してもらえないとお店もお客さんもお互いに不幸になってしまう。
やはりやる以上は満足してまた来てもらえるランチを考えなければ。
すると700円~1300円のランチで使える原価は40%で280円~520円だ。
700円はともかく、1000円超は一般には決して安いランチとはいえないが、やったとしても果たして出るだろうか。
しかも今時このあたりでランチを食べる人はリモート勤務ではないオフィスが近くにある会社員の人たちや、現場がこの付近で仕事にきている人たちがほとんどだから、短時間で提供できるランチでないといけないわけだ。
となるとなおさらゆっくり楽しむ価格帯のランチは厳しいかもしれんな。
パスタやピザはうちでも割と人気のメニューだから、そこに何かをセットにしてランチを作るなら何とか1000円以下でも出せるかもしれない。
税込1000円を切るなら、大体900円というところだろうな。
しかし、人気が出たとしても、営業時間から考えてラーメンのように回転の早い業態でもない普通のランチでの回転率は1.0~1.5回転が現実的で、多少長めのランチ営業にしても普通のやり方では2回転は難しいだろう。
席数16席だと、かなり忙しくて16~24人になるとして、とりあえず20人前で考えてみるか。
まずは700円~1300円で平均が1000円だった場合を考えると・・・・・
この通りになるなら一人分以上のレギュラースタッフの人件費は出るかもしれない。
とはいえ地方都市では平均1000円のランチは決して安いわけではないし、この通りになるのか、そもそも出歩いている人も減っているしな。
やるなら売れないとやる意味がないけれど、夜使っている商品は契約農家からの野菜や今の他の夜の食材をそのまま使うとなると、とても600円以下では無理だ。
そもそも元々あるような、500円のワンコインランチのお店とは正面からの価格競争では消耗戦にしかならないぞ。
とはいえ500円の場合で原価40%だと200円の原価だが、何を作るかはさておき、シミュレーションはするだけしてみるか。
しかし、これでは一人分のレギュラースタッフの人件費にもならないな。
仕事の量としては500円でも1000円でもそこまで替わるわけでもないし、倍売れば粗利は同じだが、40人をこのお店のランチで受け入れるのはランチタイムで2回転以上になるから、まず厳しいだろう。
いやそもそも3密がダメといわれているのに、満席での営業をすることにも問題があるんじゃないか?
席数を減らして営業するとすれば、もっと少ない数字を覚悟しなければならないぞ。
とすると、①の1000円のランチで20人という計画自体に無理があるし、それで30万の粗利を出すのは不可能ということになる。
①の半分で10人とすると人数も半分で粗利も半分だから、粗利は②と同じことになるのか。
これではやらないよりマシかもしれんが、気休めにすらならんな。
V-2.テイクアウト・デリバリーをはじめる
ではテイクアウトならどうだろう。これなら席数や店内での3密問題はクリアできそうだ。
衛生管理は接客時も含めて相当気をつけるにしても接触時間を考えればランチよりより感染リスクは下げられるかもしれんが、リスクゼロには当然ならないな。
やるならばこのような感染リスクへの対応をしていますと周知をして限りなくリスクをゼロに近づける最大限の努力をして、出来るだけ安心してきて頂ける様にするしかないだろう。
感染症の専門家ではないが食品調理衛生の知識はあるから、今回公的機関が出している営業のガイドラインに沿ってやるとしよう。
しかし何をテイクアウトするのか。その上当然箱代もかかるな。
ランチボックスのようなものをやるとしたら、作り置き弁当のような製造方法だと本来は飲食店営業許可ではなくて惣菜製造の許可が必要だったはずだ。
飲食店営業で可能なテイクアウトとなると、オーダーが入ってすぐ作って渡して、できるだけ早く食べてもらう必要があるぞ。
食中毒はこの業界で仕事をする以上は起こしてはいけないのは当然としても、店内飲食ではないからとにかくすぐに食べてもらえるよう注意喚起をしないと持ち帰り時間や、食べるまでの時間はわからないからな。
注文後に作るハンバーガーやホットサンドみたいなのはまだしも、非加熱で作りおくサンドイッチのようなものは厳しいかもしれない、細かく確認したいけれど保健所も最近は電話が繋がりにくいが明日また問い合わせしてみよう。
いつまで続くかわからんこの状況だし、現状でやれる範囲でやるべきか、ほんとに小額の設備投資で取れる許可は取ったほうがいいのか、今じゃないのか。
しかしテイクアウト可能なランチボックスを考えるとして、これは一体いくらにして、いくつ売ればいいんだろう。
もはや新規事業を始めるのと変わらないくらい未知数だ。
800~1200円とすればランチボックスとしては中々の値段だし、店内ランチも食べられる価格帯だ。
かといって500円でワンコインと考えるなら、元々あるテイクアウトの弁当専門店やコンビニのクオリティと本当に渡りあえるのか。
そもそも1500円前後かそれ以上のお弁当的なものは、うちの夜の単価を考えても、そもそも店として売り出せるのだろうか。
まずはランチボックスのテイクアウトを平均800円とすると、ランチでは20人を目標としたからそれより多い30個を売る前提で考えてみるか。
30個を毎日コンスタントに販売できればランチ①よりもよさそうだし、レギュラースタッフ2人分の人件費までには届かないけれど、赤字の補填には多少なりそうだ。
この倍の数が売れるなら相当赤字の損失も減らせるのだが、60人前となると現状のキッチンの製造からするとギリギリな上、オーダーが入ってから作るとなるとランチタイムだけでは無理だろう。
夕方以降もテイクアウト対応するならなんとかなるのだろうか。
こればかりはやってみないとわからないな。
500円でもっと数が出るパターンも50個で一応計算しておくとしよう。
やはり倍近く売っても、金額を下げるとほとんど売上も粗利もかわらないな。
そもそも作り置きではないから、相当素早く作れないと数も売れないし、あらかじめ完成させた作り置きは当然衛生に気をつけるとしても営業許可の問題があるから私にはできないし、そもそも完成品で作り置くということは売れなければ材料費はそのまま赤字になるということだ。
材料や半完成品のままならまだ保存や転用もできるが、完成品にしてしまうと売れなかった場合のロスに直結するからな。
できれば電話で予約してもらえればできたてをすぐお渡しできるから助かるけれど、果たしてどうなるか。
それともランチボックスではない別の何かなら1500円以上出しても満足と思ってもらえる商品があるのか、これは考えてみるとしよう。
普通に考えるとオードブルの盛り合わせあたりになるのだろうが、これならば2~3人前でも2000円以下でも作れるかもしれんな。
いずれにしても、ある程度の売上が立つならやる価値はあるかもしれないが、元々のお客さんやこれからお客さんになってくれるかもしれない人たちに出すのだから、店の看板にもかかわるし当然下手なものは出せない。
テイクアウトでもある程度クオリティが持続する商品か、再加熱可能なものを考えないとな。
とはいえ、現状の売上ではすでに80万以上赤字なのだからこれが計画通りにいったとしても赤字が50万くらいになるという意味では根本的な解決にはならんな。
ならばもっと何かに特化してこの2倍も3倍もテイクアウトで売り上げるというのは現実的なのだろうか。
そこに設備投資をすれば製造はできるかもしれないが、やったことがないことをするのだから、事前に当然売れる工夫はするとしても、実際売れるかどうかはやってみなければわからない。
そのリスクをどうとるかはかなりシビアだな。
やるとすればやはり資金の余裕を考えても小規模に始めないと怖い。
そしてデリバリーだが、有名なUberEatsは登録の待ちがすごいらしいぞ。
首都圏では半年待ちという噂もきいたが、地方でも1ヶ月以上かかるという話もきく。
手数料で3割以上もっていかれるとすると、相当数を売るか、値段をあげるかしないと厳しそうだ。
原価率40%に手数料35%をのせて原価率75%で試算してみるか。
当たり前だが手数料が大きいから単価が1000円に増えても③の800円で30人前のテイクアウトと比較して、粗利はだいたい半分になるな。
そんな安直な計算はあてにならないけど、有名な業者だから少し数が売れると想定して50人前ならどうか。
50人前で、①のランチ20人とほぼ同じ粗利になるのだな。
売上の割りにはやはり粗利が残らないのは手数料を考えると当然か。
しかし、デリバリーを頼む人はまた感覚が違うのだろうけど、これにデリバリー代金などもかかるのだから、お客さんからすれば、1000円のものは、実際1300円くらい払うことになるわけだ。
出店している競合する飲食店のメニューにもよるけれどどのくらい売れるのかのパターンも比較する必要がありそうではあるな。
デリバリーのピザなんかを考えると、2000円超のデリバリーも普通なのかもしれない。
先に金額で考えるなら、配送料を抜いて1800円でやってみるとしよう。
ただの計算でしかないし、このくらい売れたらどうかとも考えるが、通常営業とほぼ同じくらいの仕入れ額になりそうだ。
粗利も金額だけ見れば意外とあるなと思うが、72000円×25日で180万の売上に対して残る額と考えると数字的にはかなり厳しいな。
仕入と入金のサイクルによっては運転資金をかなり圧迫するだろう。
初期登録で10万円の登録料がかかるのが、やり方によっては半額らしいが、無料になるという話もあるようだ。
最近聞いた話ではUberEatsの代理店を名乗る業者から登録しませんかの営業電話が多いらしいが、代理店ならすぐ登録できるのか、そもそも代理店って何だ、どこから手数料を取っているのだろう。
それはいいとして、自社デリバリーはうちの場合は近所ならできるかもしれないが、いずれにしても厳しいだろうな。
人を信用しないわけではないけれど始めて配達してもらう個人の人に料理を預けること自体に不安がないわけでもない。
Uberに登録して自店の分だけ配達するという方法もあるようだが。
これなら配送料も自店に入るというのは話としては面白いがスタッフの数や仕事量も考えると現実的なのだろうか。
しかしテイクアウトにしてもデリバリーにしても今までやってきた通常営業並みにフル回転で料理をしてもここまで粗利に差がつくのか、なかなか厳しいぞ。
しかも店内のように最高の状態で提供できるわけでもないからな。
元々出前専門の業態の事業者は特化したノウハウを持っているわけでもあるし、それらの事業者とも競合するわけだ。
ピザやパスタをデリバリーするにしても、デリバリー専門のピザやその店のテイクアウトは包装資材や保温のノウハウからしても段違いだが、それより満足してもらえるものを提供できるのだろうか。
店内であれば負けない自信はあるのだが・・・・・・何か方法はあるだろうか。
基本的にはテイクアウト系統はやることにはなりそうだが。
V-3.ネットで商品を販売する(通販・EC)
うちはこれはすぐには無理だ。通販に必要な製造許可がない。
店頭販売ではないから表示シールなんかも表記法を満たしてアレルギー項目表示もしなければならないし、表示シールを作る機械もない。
賞味期限や消費期限の算出は分析機関に投げる費用も時間も厳しい。
元々必要な許可をもっているならやれないこともないだろうが今すぐはできない、元々やりたいことだったわけでもなかったが、どうせなら取っておけばよかったな、いやでもそれは結果論だから今さら仕方が無い。
一応PCとプリンターでラベルは作れるにしても、許可はすぐ下りるとは限らないし、この状況だからそもそも保健所は超多忙で、同じような問い合わせは殺到しているだろう、だから電話も繋がりにくい。
当たり前だが、違法状態とわかっていてやるわけにはいかん。
しかしやはり収束の時期も読めんし、なるだけ早く許可を取るべきなのかどうか。
許可取得の費用よりも、そのために設備投資が必要になるかもしれないがその費用が大きくなると現状の資金では厳しいかもしれん。
とは言ってもネットでモノ売ったことがないんだが、そんなに簡単に継続して売れるほど甘い世界ではないんじゃないのか、不安だ。
そんなにネットで売るのが簡単で儲かるならとっくにみんなやっているだろう。
有名な楽天などではなくて、新しくできた通販サービスでSNSで拡散されたりでうまくいっている事例もあるみたいだけど、その勢いもいつまで続くのかはわからない。
最初は確かに時節柄話題になるかもしれないけれど、それならうまくいくかもと思った全国の同業者がどんどん参入すればあっという間に競合してレッドオーシャン化することは目に見えている。
今は新しい通販サービスなら参入業者が少ないから質もある程度担保できているのかもしれないが、今後はどうなるのか、まさか試食して商品の品質をチェックして掲載するか判断するみたいなことはキュレーションサイトでもなければできないだろうし。
ネットにもお店は星の数ほどあるが、現実の飲食店と似たようなもので経験もコネクションもなしだとバクチにすらならん気もするぞ。
だがやるとするならネットでもリアルでも、お店の存在を知ってもらわないとはじまらないわけだが、さてどうしたものか。
この価格帯でやっているお店の料理としては店の商品に多少自信がないわけではないけれど、全国的な有名店というわけではないし、別に私個人が料理人としての知名度が高いわけでもない。
今からSNSをはじめるとすると、今まで来ていたお客さんにまず知ってもらうことからなんだろうが、店頭で告知しようにも、そもそもお店に人が来ていないしな。
とりあえずECをするかはさておき、今は直接お客さんとの交流ができないのだからまずSNSには力を入れるとしよう。
すぐに効果があるとは限らないことだが費用はかからないからな。
しかしまあネットで利益を出して食えるレベルの商売を継続するということは、こいつはテイクウアウトどころではない新規事業だぞ。
V-4.可能な場合は一部在庫の現金化をする
店の食材やお酒を売るとして、どうやって売るかと、売り方によってはまたまた許可が必要だな。
酒の販売は色々法律があるからともかくとして、食材は現状のストック分だけだし、ランチかテイクアウトかデリバリーかはわからんが、加工して売るほうがまだ数字的にもマシだろう。
倉庫や冷蔵庫にある在庫がそのまま帳簿上の値段以上で簡単に売れるわけではないし、棚卸在庫は資産ってことになってるけど、食材に換金性なんかほぼ無いしな。
酒販免許も持っていて市場で値段のつく酒類在庫を大量に持っている店なら、在庫をそれなりに換金もできるかもしれないが、ほとんどのお店には関係のない話だ。
そういえばテイクアウトでのアルコール販売の許可が緩和されるという話もあるが、うちの場合はどうなのだろうか。
缶ビールより高い生ビールやグラスワインにカクテルは店内で飲んでもらえるから価値があることはお客さんもわかっているしな。
応援してくれるお客さんはそこもわかった上で買ってくれるかもしれないが、よほどプレミア感のある銘柄酒とかでないと、こちらとしては積極的には売り辛いし、四の五の言ってられない状況でもやりたくない部分は否めない。
そういえば妻には内緒で申し訳ないけど、個人でこっそり家に隠しているウイスキーが2本だけプレミア価格になっているな。
本当は店で常連さんに格安でこっそり飲ませておこうと寝かしていたボトルだし、本当は自分も少し飲みたかったがこの状況では仕方が無い。
ネットオークション出品を反復継続するわけではないし、あくまで個人でその1~2本だけならオークションで売ってもたいした問題もないだろうが、とはいえ数万円を2本現金に換えても何も根本的な解決にはならんぞ。
しかし、これはやるだけやるか。焼け石に水だが10万くらいにはなるだろう。背に腹はかえられないぞ。
とにかくいつまでこの状況が続くのかわからないし、緊急事態宣言も延長になることは目に見えているし、すぐに売上が戻るとは考えにくい。
どちらにせよ現状で何もやらないというわけにもいかないのだから、各プランをさらに手法も含め細かく検討して、やりながら修正するしかないな。
どのパターンにせよ、予想以上に相当の売上がなければ、これだけでは黒字にならないことはわかったのだから、存続の生命線を考えるなら運転資金だが・・・・・・
ⅦのV-5以降について
本来は本記事で完結させる予定でしたが、すでに1万6千字を超過していることもあり、この続きも資金調達の先までは書いてはおりますが、それ以降の話も含めると下手をすれば数万字となりそうな雰囲気もあり、現状のままですと公開の目処が立ちませんので、大変申し訳ありませんが、V-5以降の記事は次回以降に分けて記述することにしました。
V-5以降は「小さな飲食店の数字でみるコロナ4(資金調達編)」にて記述予定です。
このようなケースに限らず、資金調達については様々なご見解が各事業者ごとにおありのこととは思います。
現状様々な融資制度が発表されておりますが、各金融機関ともにただならぬ決済の量に一生懸命ご対応されていると聞き及びます。
現在GW中(注・記事公開は5/7になりました)ではありますが、筆者の地域にある日本政策金融公庫のビルの明かりは今日も灯ったままです。
医療の場、事業支援の場も含め、様々な現場で多くの方々が必死の努力をして下さっていることにも感謝の意を表して、今回はここまでとさせて頂きたく思います。
基本的に記事や配布物は全て無料の方針です。 もしご支援を賜った場合は飲食業をはじめとする今回のコロナ禍で甚大な影響を受けた業種に還元し記事作成に資するよう使わせて頂きます。