【美術】デ・キリコ展に行ったら「めまい」で倒れかけた
ずっと行きたかった東京都美術館の「デ・キリコ展」へ。
日本には所蔵作品が「ほぼ無い」といっていいキリコの作品が世界中から上野に集結。この機会は絶対に逃したくなかった。次のキリコ展は10年後になってもおかしくないから。
(追記)東京の次は神戸に巡回するので、関西の人は無理に新幹線に乗る必要はなさそうです。
【東京会場】2024年4月27日[土]~8月29日[木]
東京都美術館
【神戸会場】2024年9月14日[土]~12月8日[日]
神戸市立博物館
足場の揺らぐ「めまい」
さて、ここから展覧会の感想。率直に言って、「めまい」のするような鑑賞体験でした。展示会場に足を踏み入れた瞬間から、不思議な世界に迷い込んだ気がしました。
それもそのはず。キリコ自ら「形而上絵画」と称した作品はシュルレアリスムの先駆けであり、現実と非現実の境界を曖昧にした作風です。
エッシャーの無限階段の絵にも先立つ、遠近感を微妙に無視した錯視のような作品もありました。堂々と塔がそびえ立っているのに、フォーヴィスム顔負けの強烈な色合いで平衡感覚を喪失するような不安定さを持っています。
このように、観る者に独特の空間体験を与える作品ばかりです。風邪を引いて寝込んでいるときに、足元が覚束なくなり、天井にひっくり返るような感覚ってありますよね。私も展示室であの状態になりました。といっても物理的にひっくり返ったわけではありませんが、キリコの「形而上絵画」はまさに、地に足のついた現実(形而下)の持続性や安定性が恋しくなるような作品ばかりだったんです。
マヌカンシリーズ
建物や静物の奇妙な配置と影の使い方によって、不気味さや違和感を同時に催させる絵画が続き、夢遊病者のように展示室を歩き回ったあとで繰り出されたのは「マヌカン」シリーズ。これはフランス語なので、日本語でよく知られる単語にすると「マネキン」です。
個人を特定できない奇怪なのっぺらぼうの人体模型が、室内風景やギリシア神話のワンシーンを飾っています。まがりなりにも日常の室内風景や壮大な神話の場面になるはずが、人の顔や有機的な造形(肉体)を持たないだけで、ここまで日常性や神聖さを剥奪されるというのは驚きでした。なんとマヌカンシリーズは21世紀でも我々の感性を揺さぶるのに成功しています。
古典回帰
展示室には、これらの作品だけでなく、デ・キリコが「古典回帰」した作品もあります。ルノワールが中期にイタリアに渡り、ルネサンスの厳格な構成を摂取したのはよく知られていますが、これは偉大なる画家あるあるなんでしょうか。
おわりに
シュルレアリスムの先駆けであり、キュビスムやイタリア静物画のモランディにも影響を与えた20世紀の現代美術の源泉は、それより前に類似の作風が見当たりません。人によって好き嫌いはあるでしょうが、一度見たら忘れられない独自のスタイルです。他の画家では味わえないキリコの不可思議な世界に触れることで、私の感性が一段と複雑化した気が致します。
今後も様々な美術展に足を運び、新たな感動を見つけ出したいと思います。