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【1分読書】『言葉の引力』

『言葉の引力』
 私が世界の言葉たちを知ったときにはもう遅かった。有難う、どこかへ、などと口にする人々は皆表情なくして突っ立っているだけだったのだ。
「有難う」
 口に出していってみる。その言葉がどこへ羽ばたこうが私は徹底して無責任であり続ける。その言葉の意味を熟知しているかどうかが問題なのだ。私は空に向かって言う。
「かわいい」
 空は何も言わない。表情なくして風を吹かせる。
 後ろで声がする。
「あの女の子、寂しいね」

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