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【1分読書】『阿保』

『阿呆』
 笑いがこみ上げる。
「おじいさん、テレビ、笑えるな」
 こうしてぼけたフリでもしてないと落語も涙に変わってしまう。おじいさんが好きなテレビを見る。こうして元気なふりをしていると、本当に笑う恋人が隣りにいてくれるようだ。私は阿呆のふりをする。おじいさんはおじいさんになるほんの少し前に旅たった。
「まだ早いよ」
 二十年程前に言った私の言葉は永遠に消えることが無い。今でも強く悲しむ。おじいさん、早すぎるわ。
「おじいさん。これどうやるの」
 私はいない人にテレビのチャンネルの切り替え方など聞く。私は今日も阿呆で居る。そうしたら隣にいてくれる気がして。

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