死んでいない者
死んでいない者 - 滝口悠生 2016年発刊
通夜に集まる故人の親族たちを描いた作品。
物語は集まった人々のエピソードに話がフォーカスする都度、その人物の内面に沿ったような視点に変化しながら進んでいく。誰かの話から誰かの話へ、自然な流れで移行していく視点と文体に身をまかせて読んでいるうちに故人を中心とした親族たちやその空間が見えざる何かで繋がったひとつの集合体であるかのような錯覚を覚える。視点はたゆたいながら、通夜の一夜という限定された時間の枠を溶かしていく。
死が主題にも見える本作だが、深い悲しみや激しい感情が描かれるわけではない。往生して亡くなった人とその親族。特に故人と深い関わりのなかったような若い親族からすればある種「少し特殊なだけの一日」を舞台に、実は普段から存在している「縁」のようなものを捉え表しているように思えた。"寛"が作品中、通夜の席に登場しなかった(させなかった)のは、故人に対して大きな感情をもっていたからではないだろうか。
ところでこの作品は、小岩BUSHBASHで行われたライブイベントの告知で知った。イベントごとに「課題図書」として何かしらの本を設定している企画のようだ。自分は予定が合わずに行けなかったが、すごく良いな、と思った。