ミッション・ビジョンの自分ごと化は難しい。そんな前提で取り組んだ「ミッション・ビジョン」と「自分自身の情熱」に向き合い、結びつける場のデザイン
こんにちは、カミナシHRの井上です。
最近、年次のAll Hands Meeting(いわゆる全社総会)のメインコンテンツとしてミッション・ビジョンに向き合う場を企画しました。
今回は、その際の企画プロセスや実施後の気づきについて振り返りも兼ねて綴ってみたいと思います。
自分自身、「MVV浸透って、具体的にどんなことをしていけばよいのかなぁ?」という暗中模索していた中で、1つのかたちになった感触もありました。
HRとして同じように文化醸成やMVV浸透に取り組まれている方の参考情報になればと思います。
ミッション・ビジョンの浸透において、何が重要なのだろうか
会の構成を考えていく上で、ミッション・ビジョン浸透において注力するべきポイントを考えてみることからはじめました。
結論としては、『カミナシのミッション・ビジョンを、メンバーが”自分ごと化”して考えることができている状態』としています。
なぜならこの「自分ごと化」が、特にカミナシにおいては簡単ではないものと考えたからです。
会社によっては、社員が原体験とミッション・ビジョンを重ね合わせやすい性質の事業・サービスもあると思います。自身がユーザーとなりやすいBtoC事業などは特にそういうケースも多いかもしれません。
一方で、カミナシのお客さまはノンデスクワーカーと呼ばれる「現場」で働く方々ですが、メンバーのほとんどはデスクワーカーとしての就業経験しかありません。つまり、原体験をもって自分ごと化することが特に難しいタイプの組織だと思います。
これをふまえると、カミナシのミッション・ビジョンを自分ごと化するには、会社のミッション・ビジョンと自分の人生とのつながりを能動的に思考し、自分の手で結びつけることが必要なのではないか、と考えました。
カミナシにとって難しい「自分ごと化」を目指す体験ステップ設計
今回の会では、『カミナシのミッション・ビジョンを、メンバーが自分ごと化して考えられる状態に”近づく”』という目的設定をしました。「近づく」としたのは、自分ごと化がこの場で完結することを無理に目指さず、自分ごと化が少しでも進み、会の終了後も継続的に考えていける”きっかけ”にできればという想いからです。
そしてこの目的を達成するために、体験設計を以下の3ステップとして考えました。
体験ステップ1:ミッション・ビジョンを改めて捉え直す
体験ステップ2:自分自身の人生観やキャリア観を深掘り、言語化する
体験ステップ3:捉え直したミッション・ビジョンと、自身とのつながりを言語化する
これに対して以下のようなコンテンツを当てはめていきます。
CEO諸岡によるミッション・ビジョンをテーマにしたセッション
COOとCTOによる「ミッション・ビジョンを自身と結びつけるとは」をテーマにしたパネルトーク
自身のことを言語化するワーク
ミッション・ビジョンと自身を結びつけるワーク
このようなコンテンツ構成にした意図も含め、詳細を以下でご紹介します。
コンテンツ① ミッション・ビジョンを捉え直すためのCEOセッション
カミナシメンバー誰もが、採用選考時や入社後の要所要所でミッション・ビジョンを目にする機会自体が多くあります。しかしながらミッション・ビジョンに対して深く思考を巡らしたり、「自分ごと」として考える時間を持つのは、日々それぞれの業務にコミットしているとなかなか難しいのが現状です。
そこで、全メンバーが一堂に会して同じ時間を過ごす All Hands という場を利用し、まずは改めてミッション・ビジョンについてインプットしながら思考をめぐらす時間を設けました。
社歴の長いメンバーにとっては「ミッション・ビジョンの理解や認識をリフレッシュする機会」として、社歴の浅いメンバーにとっては「ミッション・ビジョンへの理解をより深める機会」として機能していたと思います。
具体的なコンテンツとしては、CEO諸岡さんによるミッション・ビジョンのセッションを行いました。このセッションの構成で意識したのは「未来だけを語らない」「何回も言っていることも、飽きられるほど繰り返し語り直す」という2点です。
1つ目に関しては、会社のミッション・ビジョンは過去から未来へと続くストーリーであり、未来という「点」だけでなく流れのあるストーリーとして捉えることが、結果としてミッション・ビジョンの理解や意味づけをメンバーが深く行えるのではないかと考えたからです。
一方で創業者のCEO諸岡さんにとってこれまでの歩み(=過去)は「自分自身が経験し、当たり前に知っていること」なので、自然にコンテンツをつくっていくとどうしても未来視点に話が寄るはずだと考え、あえて「未来だけを語らない」という認識合わせを行っています。
2つ目の「繰り返し語る」に関しては、定石として良く言われることではありますが、ミッション・ビジョンのような本当に大切なことは、メンバーから「また言ってるよ」と思われるくらいの頻度で語るくらいがちょうど良い、むしろここまでして初めて社内で認識され始めている、と捉えるのが良いと考えたからです。
こういった部分の意図や狙いを諸岡さんとブリーフィングしつつ当日のコンテンツを作り込んでいきました(諸岡さんが)
またセッションの終わりには、「感想タイム」という、今まさに聞いたことについて率直にメンバー同士で語り合う時間を設けています。
同じグループメンバー同士で、率直な感想をシェアしあい、自身で語ったり他者と意見・解釈の交換をする中で、結果としてミッション・ビジョンの咀嚼が進み、理解が深められるような時間にすることを狙って用意してみました。
コンテンツ② ミッション・ビジョンと自身との結びつきを探すサンプルケースとしての、役員パネルトーク
ここからは段々と自分自身との結びつきを考えていくプロセスに進んでいきます。
すぐに個人ワークに入っても良いところではありますが、今回はワークの手前にCOOとCTOによる「ミッション・ビジョンを自分と結びつける、とは?」というテーマでのパネルディスカッションを設けました。
設置の意図としては2つあり、1つ目が「ミッション・ビジョンと自分自身を結びつける」ということの難しさをふまえ、COOとCTO自身の整理をサンプルケースとして伝えて、その後に自身のことを考える上での思考の足場を作りたかったからです。
そして2つ目が、経営陣自身がまだ結びつけ方を模索していたり、正直に「まだここの部分は自分の中でも整理がしきれていないんだよね」というオーセンティックな自己開示を行うことが、メンバーにとっても「結びつきをクリアにイメージできていないこと」に対する不要な焦りや気後れを無くせるのではないか、という考えもありました。
詰まるところ、このパネルディスカッションは前段のCEOのセッションと、この後のワークの橋渡しをする役目をもったコンテンツとしての位置付けだったのですが、事後のアンケートなどをふまえると、実際にうまく機能していそうだったとも感じています。
コンテンツ③ ワークでは、まずは自分自身の人生の熱源を探究する
ここからはワークです。ここまででミッション・ビジョンに関するインプットや咀嚼の時間を取ったので、ここからはもう一つの側面である自分自身について探究する時間になります。
ワークの細かなフォーマットは文字数の都合で割愛しますが、自分自身の人生やビジネスキャリアにおけるモチベーションの源泉を深掘り、言語化することをいくつかのワークを通じて行いました。
自身で考えるだけでなく、グループメンバーに説明したり、聞き手からのフィードバックを得る過程を通じて、自分自身への理解がより深まる仕掛けを織り交ぜています。
副産物としてではありますが、他メンバーの価値観や、人による違いを知れたことに対するポジティブな意見が事後のアンケートでも多く上がりました。やってよかったです。
この段階までで、「ミッション・ビジョンへの理解」と「自身の人生・キャリアにおけるモチベーションの源泉への理解」が、人によっては生煮えながらもテーブルに並びました。いよいよ最終ステップです。
コンテンツ④ 締めくくりとして、ミッション・ビジョンと自身の人生を結びつきを見つける
ここまできて、最後は「会社のミッション・ビジョン」と「自分の人生」を結び付けるという会のテーマに真正面から取り組みます。裏を返すと、ここに至るまでのプロセスはこのテーマでの思考を進める上での足場をかけるプロセスとして用意していました。
ミッション・ビジョンという「会社・お客さま主語のストーリー」と、自分の人生・キャリアという「自分主語のストーリー」との重なり合う部分を探りにいくプロセスです。
これは足場があったとしても人によって言語化に苦労するプロセスだろうなと考えていたので、ワーク開始の振り出し時には「完璧なアウトプットを求めなくて良いこと」、「時間を使い思考すること自体に価値や意義があること」に触れたうえで取り組んでいただきました。
All Handsを終えてみて
色々改善すべき点はありつつも、ありがたいことにポジティブなご意見をたくさんいただき、一安心しています。
ミッション・ビジョンについては、実際スタートアップをはじめとした多くの企業がミッション・ビジョン共感を採用観点にも入れ、組織運営で重視していると感じますし、そんな状態の中で「逆に、スタートアップにいるんだから、会社のミッションやビジョンに強く共感していて、自分ごと化もできていて普通でしょ」というような空気感が出てしまうこともあるんじゃないでしょうか。
ただ実際は、人がネクストキャリアを選ぶとき、ミッション以外にも、成長機会や、共に働く仲間といった色々な要素で環境を決めていて、人によって、また入社時期や職種によっても、「ミッション・ビジョンの自分ごと化」の度合いには濃淡があるはずと改めて感じました。
「ミッション・ビジョンを自分ごと化しているのが当たり前だよね!」という無言の圧力にも感じるスタンスでいるよりは、「人それぞれ自分ごと化の進度の違いもあるし、時間をかけて徐々に見出していこう」というスタンスのほうが、とてもナチュラルだよなぁと、今回の企画を通じて実感しています。
だからこそ、「自分ごと化」を含めたミッション・ビジョン(≒会社)とメンバー個人との関係性は、自然に育まれるのを待つのではなく、人為的にデザインされ働きかけていく必要があるし、それをしていく意義があると思っています。
関係性のデザインというと”組織開発”というワードを想起しますが、組織開発というと、メンバー同士の関係性に対する働きかけ、という説明の仕方もよくあると思います。
しかしながらメンバーと会社(ミッション・ビジョン)との関係性や、メンバー個人の認識に働きかけることも、組織開発と言えるのではないかと思いますし、そう捉えることができるのであれば、私達の運営している「All Hands Meeting」という「場」の存在は極めて組織開発的ではないかと感じた、そんな時間でした。
さいごに
最後までお読みいただきありがとうございます。ここまで色々と自分の手柄のように語ってきましたが、実際は登壇いただいた経営陣の私から投げたふわっとしたボールをグイッとカタチにしていただく底力であったり、相談・壁打ちをいただいたメンバーなど多くの皆様のおかげで当日が良い場となったと思っているので、この場を借りてお礼させてください。
またところどころ持論かのように語っている部分もありますが、このコンテンツが完成するまでの間にいくつもの参考書籍・コンテンツにお世話になっています。
その中でもおすすめ書籍・コンテンツを最後に紹介させてください。
まさに、理念の自分ごと化、についての記載もあり、多くのインプットと試行整理のお供として重宝しました。組織文化・理念浸透を扱う方にとってはおすすめです。
全社総会に対するスタンスについて自身のパラダイムチェンジがあったツイートです。
レポート及びウェビナー両方に非常にインスピレーションを受けましたが、会社中心のキャリア観から、個人の人生を中心としたキャリア観へのシフトが起きているという主張を中心とした色々な分析・情報整理を目の当たりにして、自分たちが感覚的にはわかっていたことをこうも匠に言語化することができるなんて・・・と驚嘆しました。
主催のMIMIGURI社が運営するメディアなど関連コンテンツが多く存在しているので、ご感心がある方はご一読をおすすめします。
※MIMIGURI Co-CEO安斎さんの関連ツイート。添付の図がコンパクトに上記キャリア観のシフトを説明しています。
さいごに、こんなMVV浸透・組織開発に取り組むカミナシHRでも、いくつかのポジションを募集していますので、気になる方はお気軽にコンタクトいただければと思います。