「ダイレクトモデルによる付加価値創出」のビジネス ~ビジネスモデル分析紹介 株式会社ファクトリエ編~
私たち(新井田、上野、近藤、浜崎)は株式会社ファクトリエについて学部2年の秋から3年の春まで、半年間かけて研究を重ねてきました。株式会社ファクトリエとは国内で生産された商品のみ扱っている国産アパレルです。
そもそも、この企業を研究しようと考えた理由は、海外の台頭もあり国産アパレルはビジネスを成り立たせるのが難しいと思われる中で、国産アパレルとして急成長している秘密に迫りたいと考えたためです。
研究の結果、その理由はダイレクトモデルによって付加価値を創出するビジネスを展開しているからであるということがわかりました。どういうことなのか、これから紹介していきます!
目次
1.国産アパレルの現状
2.ファクトリエの打ち手①〜ダイレクトモデルによるコストカット〜
3.ファクトリエの打ち手②〜消費者のファン化による継続購入〜
4.まとめ
1.国産アパレルの現状
皆さんは自分の服についているタグを見たことがありますか?
恐らく今皆さんが手にする服のほとんどが「MADE IN CHINA」とか「MADE IN VIETNAM」と書かれているのではないでしょうか。「MADE IN JAPAN」と書かれたタグを目にすることは多くないと思います。
なぜ近年「MADE IN JAPAN」と書かれているタグを見かけることがないのでしょう。それは、ファストファッションの台頭によって、メーカーが安く早く作れる海外生産にシフトしたからです。日本より賃金の安い国で生産を行うことで人件費を大幅に抑え、最終的に国内生産に比べて半分以下にコストを削減できるのです。その結果、アパレル国産比率は2018年には2.4%まで減少し、事業所数も1/4以下に減ってしまいました。
そんな中、2012年に設立されたアパレルブランド「ファクトリエ」は、国内で生産された商品のみを扱っており、すべての商品に「MADE IN JAPAN」と書かれたタグが付いています。「世界に誇れるメイドインジャパンを届けたい」。そんな想いから誕生したファクトリエは、創業1年目は1500万円だった売上を設立から4年という短期間で約10億円とし、急成長を遂げています。
国産アパレルはビジネスとして成り立たせるのが難しいと言われているなか、ファクトリエはどうやって実績を伸ばすことができているのでしょうか。
その答えは一言でいうと、工場直販のダイレクトモデルを活かした消費者のファン化です。ファクトリエは①工場から直接商品を消費者に届けるダイレクトモデルによって、商品の低価格化と工場への原価設定権の移譲を可能にし、②工場の情報をあえてオープンにして消費者をファン化させることで継続購入を促しています。
井上達彦(2019)『ゼロからつくるビジネスモデル』東洋経済新報社
付録p.412~
2.ファクトリエの打ち手①〜ダイレクトモデルによるコストカット〜
ファクトリエは従来のバリューチェーンとは異なり、メーカーや商社などを「中抜き」して工場と直接提携して商品をつくり、それをそのまま消費者に届けるという「ダイレクトモデル」を採用しています。つまり、工場で作られた商品が直接消費者に届くのです。それにより今までメーカーや商社が商品を買い取るたびに受け取っていた利ざや、すなわち中間マージンをカットすることができます。またファクトリエは販売チャネルをECに限定することで、販売店舗の土地代や人件費などの削減を行っていたり、在庫を工場とファクトリエで分け合うことで自社が負担するリスクを抑えたりもしています。これらの中間マージン削減・コスト削減によって従来の流通構造では2万円で販売していたものがファクトリエでは1万円で販売することが可能になっているのです。
価格を下げているのに十分な利益を確保することができるという点がこのダイレクトモデルのメリットといえるでしょう。
さらにファクトリエは商品の原価設定権を工場に移譲しています。従来では、アパレルメーカーが小売価格から逆算して原価を決めていたため、工場側にしわ寄せがいっていました。しかしファクトリエのビジネスモデルでは、工場側が原価を決めることで適切な利益を得ることができます。それにより工場は、こだわり抜いた妥協のないものづくりが出来るのです。結果として消費者は、高いクオリティの商品をリーズナブルな価格で購入できます。
これらの仕組みによってファクトリエは自社だけでなく、工場・消費者というファクトリエが関わる全てのプレイヤーが満足できる「三方良し」の仕組みをつくることに成功しました。
3.ファクトリエによる打ち手②〜消費者のファン化による継続購入〜
ファクトリエはダイレクトモデルによって工場と消費者が直接繋がったことを活かして、自社のECサイトを用いて消費者に工場の情報をオープンにしています。また商品のタグに工場名を記載したり、届ける商品に工場員からの手紙を同封したり、さらに消費者に提携工場の製造過程を見学してもらうという工場ツアーを主催したりと積極的に工場と消費者のタッチポイントを増やしています。
これにより消費者は自分の着る服について、誰が・どこで・どんな想いで作られているかという裏側のストーリーを知ることができます。そのため消費者の中でこだわりが詰まった特別な一品を購入する感覚が育まれるのです。つまり消費者はファクトリエというブランドだけでなく、その先にある工場自体のファンとなり、継続的に購入するのです。
実際に、利用している方々にインタビューをしてみたところ、ストーリーに価値を感じ、継続的に購入している消費者の声がたくさんありました。
「この服の随所にファクトリエや工場の情報が伝わってきます。」
「服を作ってらっしゃる方のタグがあるなど、ストーリーがしっかり考えてあって良いと思います。」
「僕は半年前から購入しているのですが、妻は何年も前から買っていました。」
このようにファクトリエは洋服の裏にある工場を表舞台に立たせることで、今までのアパレルブランドにはできなかったファン化を実現しているのです。
4.まとめ
このようにファクトリエはダイレクトモデルによって自社の利益を確保するだけでなく、工場に原価設定権を移譲させ適切な利益を与えることでこだわりのもの作りを可能にしました。さらにダイレクトモデルの距離の近さを利用して商品にストーリーという付加価値を創出することでファン化を可能にしました。
工場は妥協のないものづくりを、消費者は愛着のある特別な一品をと、こだわり消費のサイクルをファクトリエは作り上げたのです。
こうして売上を伸ばしていくことが、提携工場数の増加と、商圏の拡大に繋がっています。
以下のスライドシェアにもパワーポイント形式でわかりやすく解説してい るため、そちらもご参照ください
https://www.slideshare.net/inoueseminar?utm_campaign=profiletracking&utm_medium=sssite&utm_source=ssslideview
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調査・作成 浜崎友里菜・新井田華子・上野高輝・近藤祐大
アドバイザー 橋本友美子・小口雄大
監修 井上達彦・天井千裕・坂井貴之