「働きがい」を獲得する転職。企業選びでおさえるべき〈5つのポイント〉とは?
転職先を選択する際、「最近の会社の評判」「事業やサービス・商品のレビュー」「年収をはじめとする雇用条件」などのいわゆる“スペック”を重視しがちですが、「働きがいを持って働ける職場かどうか」を軽視してしまうと、早期に再転職を余儀なくされるリスクが高まります。
では、転職活動においては、いったいどのようなポイントをチェックすればよいのでしょうか。
組織活性化企業として昔から今に至るまで、必ず名前の挙がる企業が僕の古巣でもあるリクルート。
そのリクルートの創業期から現在に至るまでの組織活性化の骨格を築き上げたのが、創業メンバーであった大沢武志氏です。
大沢氏は江副氏のもとで専務取締役も務め、リクルート創業以来30年にわたり活躍した後、組織人事関連のグループ会社も設立しました(2012年没)。適性検査「SPI」の開発者といえば、大沢氏の偉大さがイメージできるでしょうか。
僕自身は大沢氏とは直接仕事を一緒にする機会はありませんでしたが、新卒入社で配属された人事部門で、またその後異動した広報室で、大沢氏が社内に残した数々の情報や資料を目にし、業務にも活用しながら「リクルート流の組織活性化、人材戦略、組織戦略」について学ぶ機会が多くありました。
リクルート事件の余波も収まらない1993年、リクルートがどのような心理学理論をベースに企業・組織をつくってきたかについて棚おろしを試みようと大沢氏が著した本が『心理学的経営』です。同書は2019年にPHP研究所からオンデマンドプリントで復刊され、人材関連の専門家やリクルート流の組織・経営に興味のある経営者の間で話題となりました。
そんな大沢氏が取り入れた理論の1つに、ハックマンとオルダムの「職務特性モデル」(Job-Characteristics-Model)のなかの「職務設計の中核的5次元」があります。これによれば私たちは、次の5つのポイントを満たされると、大きな「やりがい」や「働きがい」を感じるといいます。
大沢氏はこの「職務設計の中核的5次元」に基づいて、私たちが「やりがい」「働きがい」(内発的動機)を高める要因は、「職務拡大」(仕事の幅を広げ、職務内容の多様性を高める)と「職務充実」(仕事自体のまとまりや、仕事の有意義性を高める)を実現することにあると述べています。
さらに、優秀な社員を仕事に駆り立てる3つの条件として、「自己有能性」(挫折経験を乗り越えるなども交えて、仕事を通じて自分の効力感を体験できること)、「自己決定性」(自分の仕事について自分で考え、計画し、自分でチェックする)、「社会的承認性」(職場の仲間や上司との人間関係)の3つを挙げています。
ここまでみてきたポイントから、転職先の企業を選択するにあたって、どんなことを重視すべきかが明らかになります。
「職務拡大」「職務充実」「自己有能性」「自己決定性」「社会的承認性」については、面接を通じ、求職者のほうから積極的に面接者をレビューすべきポイントです。
これらが満たされている企業では、面接時に面接官が積極的に自身のやりがいやテーマ感、自社がどのような働き方や組織運営・人事制度を運用しているかなどについて話すものです。
面接で十分に情報が得られていないと感じるようなら、遠慮せずに質疑の時間などに面接者にどんどんヒアリングし、確認してみましょう。そうした質問に明快に答えられない人が多いとすれば、あいにくあまり望ましい転職先とはいえないかもしれません。
最後に1つ、「落とし穴」についてもお話しておきます。
実は、5つの職務次元のどれを高めても効果なしというケースがあるのです。それは、当人の職務能力やスキルが著しく低い場合や当人の成長欲求が弱い場合、当人が環境条件(業務内容や雇用条件)に大きな不満を持っている場合です。
今回みたような「やりがい」や「働きがい」のチェックを行う前に、そもそもこの3要件のどれかが欠落していないかどうかを、確認してみるとよいでしょう。
転職先の企業に5つの次元を満たせる環境があるのかどうか、求職者が注視しているのと同じように、企業側の経営者や事業責任者、人事責任者も、その人がリーダーとして5つの次元を満たすチームづくり・チーム運営に取り組んでくれそうな人か否かを見定めています。
このことを認識しているかどうかで、転職活動の結果は大きく変わることでしょう。