スキルマトリックスを活用した成長支援の取り組み
「どこよりも成長できるデザイン組織」
マネーフォワードのデザイン組織が掲げる目標のひとつです。
その実現のために、私たちは一人一人のデザイナーが個々の能力を最大限に発揮し、継続的に成長する環境を整えています。その一環として『スキルマトリックス』の整備に着手しました。
スキルマトリックスとは、業務で必要とされるスキルを一覧化したもので、スキルの習熟度を評価し、成長を可視化するためのツールです。
デザイン組織とスキルマトリックス
数年前、評価ツールとしてスキルマトリックスの活用を試みた際、いくつかの問題が生じました。
問題点は、ジュニアレベルを超えると、具体的な事業貢献も求められるようになるため、スキルマトリックスでの評価が難しくなること。さらに、各デザイナーのスキル習熟度の認識を揃えるのが難しいこと。最後に、スキルマトリックスのデータを評価に活用しなければいけないことです。
デザイナーの職種や役割が広がる中、評価育成制度の見直しは急務でした。
これらの問題を解決するため、MIMIGURIに伴奏していただき、評価育成制度の見直しを行いました。そして、同時に全社的なスキルマトリックスの運用を一時停止しました。
昨年から、DesignOps体制を整備する中で、改めてスキルマトリックスの価値を再認識し、その改良に取り組みました。現在、スキルマトリックスはデザイナーの成長を後押しする重要なツールとして活用を再開しています。
スキルマトリックスを運用するための公式
スキルマトリックスを運用するために 『スキル× 習熟度=結果』そして、運用体制。この4つの枠を改良することがポイントでした。
改良した点は下記の通りです。
スキル:『対象者が限定的』→『対象者を全員へ』
習熟度:『知る・できる・教える』→『再現・転用可能』
結果:『評価』→『成長支援』
運用体制:『マネジメントで対応』→『DesignOps + マネジメントで対応』
ひとつずつご紹介します。
スキル:『対象者が限定的』→『対象者を全員へ』
ジュニアからシニアへとステージが進むごとに、期待値や必要スキルは変わります。そのため、デザイナーがキャリアを積むにつれて、求められるスキルが変化します。
ジュニアデザイナーの主な期待値は、小〜中規模プロジェクトにおいてサポートを受けつつ業務を推進することです。そのために必要なスキルは、UIデザイン、リサーチ、与件整理、工程理解、コミュニケーションなど。
この段階では主に「テクニカルスキル」を中心にスキルを伸ばします。テクニカルスキルとは、業務遂行のために必要な専門知識や技術のことを指します。
ミドルデザイナーになると、他部署と協力しながら、幅広いデザインスキルを活用して問題を解決することが期待されます。そのために必要なスキルは、リーダーシップやファシリテーション、論理的思考、サービスデザインなど。
この段階では主に「ヒューマンスキル」の習得が重要になります。ヒューマンスキルとは、良好な人間関係を構築し、円滑にコミュニケーションを進めるための能力を指します。
シニアデザイナーとしては、全社視点の課題に対して付加価値を持続的に生み出す仕組みをデザインすることが求められます。そのために必要なスキルは、抽象化思考や批判的思考、交渉力、マネジメントなどです。
この段階では主に「コンセプチュアルスキルスキル」が求められます。コンセプチュアルスキルとは、本質を正しく理解し、可能性を高める能力を指します。
テクニカルスキルはさらに「専門スキル」と「汎用スキル」に分類されます。専門スキルには、デザインリサーチやUIデザインなどの専門職としてのスキルが含まれ、汎用スキルには、与件整理や工程理解など、職種を問わずに身につけるべきスキルが含まれます。
このスキル定義は、マネジメントやリーダーシップを目指す人だけでなく、スペシャリストを目指す場合にも当てはまります。なぜなら、スペシャリストとして高難易度のプロジェクトを推進するためには、ファシリテーションスキルや交渉力、論理的思考、抽象化思考なども重要になるからです。
これらの考え方を踏まえて、スキルマトリックスをステージごとに適応させることで、ジュニアデザイナーだけでなく、ミドル、シニアデザイナーに対しても有用なツールとして活用できるようになりました。
習熟度:『知る・できる・教える』→『再現・転用可能』
過去にスキルマトリックスを運用していた際は、下記の形で習熟度を計測していました。
できない
サポートがあればできる
ひとりでできる
教えられる
上記の項目で習熟度の計測が難しかった理由として、「環境」と「課題」の要因を考慮できていなかったことが挙げられます。
それを説明するために「ニューウェルの三角形」というモデルが参考になります。このモデルでは、個々のスキル向上を実現するためには「自分自身・環境・課題」の3つの要素とそれらの相互作用を考えることが重要であると説明しています。
自分自身とは、個々のスキルやマインドセットを指します。
環境とは、スキルの発揮を促進もしくは阻害する環境的要因を指します。
課題とは、取り組むべき問題の種類や難易度を指します。
この三角形モデルに基づいて考えると、同じスキルでも課題や環境によって発揮できるレベルは変わります。簡単な課題や支援的な環境ではスキルが十分に発揮できるかもしれませんが、難易度の高い課題や困難な環境ではスキルが活かせないこともあります。したがって、習熟度の評価にはこれらの要素を考慮に入れる必要があります。
これらを踏まえて、習熟度の評価指標として「知識」「経験」「再現性・応用・転用」の3つの軸を採用しました。
知識:スキルの理論的な理解度
経験:そのスキルを用いた実践的な経験
再現性:同様の結果を繰り返し出せる
応用:より複雑で高度な課題解決に活用できる
転用:全く別の領域でスキルを活用できる
結果:『評価』→『成長支援』
スキルとパフォーマンスの関連性について考える際、吉田行宏氏が提唱する「アイスバーグモデル」の考え方が参考になりました。このモデルによれば、水面上に見える「成果」は、水面下にある「スキル」、「振る舞い・習慣・行動」、「意識・想い・人生哲学」の3つの要素に影響を受けているという考え方です。
スキルは、この氷山モデルの一部を構成する要素です。単にスキルを身につけただけでは、パフォーマンスや成果が自動的に上がるわけではありません。スキルを身につけ、それを活用して行動を変え、期待以上の成果を生み出すことで、より難易度の高い業務に対応できるようになります。これが結果として、自身の成長や昇進、昇給に繋がります。
つまり、スキルの有無ではなく、それをどう活用して成果につなげていくかが大切なのです。この考え方をチーム全体に共有し、視覚化することで共通認識を形成しました。こうした共通認識があることで、各個人が自身のスキルを適切に活用し、最大限のパフォーマンスを発揮するための土台を築くことができます。
また、以前はスキルを評価に直接的に活用しようとしましたが、現在はその方針を改め、スキルは直接的な評価には用いず、成長支援のツールへと進化させました。
運用体制:『マネジメントで対応』→『DesignOps + マネジメントで対応』
スキルマトリックスの開発そのものも一つの課題ですが、それを実際の運用に移すことも大きな課題の一つです。スキルマトリックスは定期的に見直しを行い、更新を続けなければなりません。これには時間と専門知識が必要です。
マネーフォワードでは、DesignOpsチームを設け、スキルマトリックスを含む様々なツールや制度の整備・運用を行っています。これにより、スキルマトリックスの更新やその他の業務がスムーズに進行するようになりました。
しかし、全社規模に影響を与えるような施策を実施する場合、DesignOpsチームだけで進めるのではなく、各デザインチームとの連携が不可欠です。各チームのデザイナーやマネージャーがツールを理解し、適切に活用することで、事業成果と個人の成長を両立させることが可能になります。
そのため、スキルマトリックスの改良をする際、すべてのデザインマネージャーと1on1を実施しました。1on1では、スキルマトリックス導入に伴う懸念や改善点について話し合い、コミュニケーションのズレを防ぎました。また、全デザイナーが集まる場でツールを紹介し、スキルマトリックスの背後にある考え方や理念についても理解してもらう機会を設けました。
デザイナーがキャリアを通じて成長するためには、上司や同僚からの支援、適切なフィードバックと評価、そして育成を重視した組織文化などが大切です。スキルマトリックスの導入と活用は、これら全体の一部を支える役割を果たします。
今後の取り組み
現在社内では、シニアデザイナー向けに経営人材育成プログラム、ミドルデザイナーにはマネジメント研修、そしてジュニアデザイナーにはデザイン研修などを提供しています。
スキルマトリックスを活用することで、各ステージごとに必要なスキルを特定し、これらの成長支援施策の精度を向上させたり、別の施策検討に活用できます。
また、デザイナー自身やその上司が、各ステージで求められるスキルを理解し明確にしたことで、各種研修や教育プログラムをより有効に活用することが可能になります。
これからもスキルマトリックスを活用し、デザイナー一人一人が自身のキャリアパスに必要なスキルを磨き、自己成長を促進できる環境を提供していきたいと考えています。
登壇資料
さいごに
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。この記事が、社員の成長支援策を検討する全てのマネージャーのお役に立てると嬉しいです。
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