マネーフォワードのDPMが紐解く "DesignOps"
『DesignOps』や『Design Program Manager(以下略DPM)』という言葉を聞いたことはありますか?
「何それ?」
「聞いたことある」
「DesignOpsはデザインシステムをつくること」
「DPMはプロセス整備や調整する人」など
色々な回答があると思います。
DesignOpsはデザインシステムをつくること
DPMはデザインプロセス整備や調整する人
という理解は間違っていません。
ただし、DesignOpsやDPMにはもっと幅広い役割があります。
Google、Salesforce、Meta、Airbnbなど。
海外の様々な企業では、DesignOpsやDPMの活用が進んでいます。
その要因としては、企業の成長に伴い、プロダクトや組織の問題が複雑になることで、デザイン以外の業務が増加することにあります。
そのような問題を解決するため、DesignOpsやDPMを活用する企業が増えています。
私は2022年6月よりマネーフォワードでDPMを担当しています。
就任前後から、国内外のDesignOpsやDPMに関する情報収集を続けていますが、理解するのに時間が掛かりました。
その理由としては、DesignOpsやDPMの役割が幅広いことや、さまざまな企業や団体ごとに役割が異なることが挙げられます。
本記事では、DesignOpsとは何か?なぜ必要か?DPMとは何か?業務内容は何か?DPMを採用するタイミングはいつか?という内容について書いています。
私なりの解釈やマネーフォワードでの取り組みと合わせて、海外の企業や団体の説明もいくつか紹介します。多面的にDesignOpsやDPMについて捉えていただくことで、理解が深まると嬉しいです。
本記事の感想を紹介
本記事を公開後、色々な方から嬉しい声をいただきました🙌
1.4万文字あるので、最後まで読むのは大変だと思いますが、デザイン組織を進化させるために必要な情報が詰まっています。ぜひご覧ください!
本記事の要約
DesignOpsとは?
DesignOpsとは、デザイナーがデザイン業務に集中することを助けるため、デザイン業務以外の仕事を最適化することです。
なぜDesignOpsが必要なのか?
企業が成長し、デザイナーが増えることで、評価、育成、プロセス整備、調整など、デザイン業務以外の仕事が増加し、組織運営の難易度が高まります。この課題を解決するため、DesignOpsを活用します。
DPMとは?
DPMは、これまでに紹介したDesignOpsを推進するための職種です。
評価/育成、採用、広報、ナレッジマネジメント、ガイドライン整備など。
人財、仕組み、プロセス、文化などを最適化することで、組織のスケールアップを可能にするための役割です。
デザインマネージャーとDPMの役割分担は、デザインマネージャーは自組織のマネジメント業務を行い、DPMはデザイン以外の幅広い領域の業務を最適化する役割です。
具体的な業務内容
・ロードマップの策定
・デザインプロセス構築
・デザインツール管理
・プロジェクト管理
・デザイン組織文化の構築
・育成プログラム、評価の運営
・予算管理、事務処理、法務対応
など、多岐に渡ります。
DPMを採用するタイミング
以下のどちらかに当てはまる場合
1. 事業が成長しているデザイン組織
2. 業務負荷が慢性的に高いデザイン組織
DesignOpsとは?
DesignOpsとは、デザイナーがデザイン業務に集中することを助けるため、デザイン業務以外の仕事を最適化することです。
DesignOpsは、『デザイン オペレーション』の略で、『デザインプログラムマネジメント』と同じ意味です。
デザイン業務以外の一例としては、デザインプロセス整備、ナレッジマネジメントの推進、ステークホルダーとの連携、評価、育成などが挙げられます。(詳細は『具体的な業務内容』を参照してください)
私の場合、上記の定義で業務に取り組んでいますが、業務範囲が広いため、優先度をつけて業務にあたっています。
さまざまな企業や団体がDesignOpsの定義について書いていますので、ご紹介します。
まず、デザイン業界で一番有名だと思われる『DesignOpsHandbook』に書かれている内容からご紹介します。
2018年にInVisionが運営するDesignBetter.coからリリースされ、DesignOpsを推進する先進的な企業のノウハウが体系的にまとめられています。
次に、ウェブサイトのユーザビリティ研究の第一人者であるヤコブ・ニールセンとドナルド・ノーマンが設立したニールセン・ノーマン・グループの定義です。
コードベースのデザインツールを提供する『UXPin』の定義はこちらです。
SalesforceでSenior Director of Design Operationsを担当するレイチェル・ポスマンの記事には下記のように書かれていました。
最後に、VMwareDesignのDesignOps レッド・ドーランは『原則とプロセス』という表現をしています。
なぜDesignOpsが必要なのか?
企業が成長・拡大することで、事業と組織の問題が複雑化します。
組織が拡大し、デザイナーが増えることで、単純にデザイン作業量が増えれば良いのですが、実際はそうではありません。デザイナーが増えることにより、評価、育成、プロセス整備、調整など、デザイン業務以外の仕事が増加し、組織運営の難易度が高まります。この課題を解決するため、DesignOpsを活用します。
マネーフォワードの場合も上記と同じように、事業と組織が拡大する中で、数年前よりDssignOps導入の検討を開始しました。
さまざまな団体や企業が『なぜDesignOpsが必要なのか?』について説明していますので、いくつかご紹介します。
Airbnb Director of DesignOpsのエイドリアン・クリーブは下記のように説明しています。
UX Pinも同じように組織規模拡大から課題が発生していると説明しています。
次に、ニールセン・ノーマン・グループは、成長し進化するデザインチームに必要だと書いています。
DPMとは?
DPMは、これまでに紹介したDesignOpsを推進するための職種です。
DPM = Design Program Manager(デザインプログラムマネージャー)の略です。Design PgMと表記することもあります。
デザインマネージャーとDPMの役割分担は、デザインマネージャーは自組織のマネジメント業務を行い、DPMはデザイン以外の幅広い領域の業務を最適化する役割になります。
デザインマネージャーの業務内容としては、他部門との調整、チームの進捗管理、デザイン品質向上、若手デザイナーのサポートなどが挙げられます。
DPMの業務内容としては、評価、育成、採用、広報、ガイドライン整備、ナレッジマネジメント、デザイン文化づくりなど。人財、仕組み、プロセス、文化などを最適化することで、組織のスケールアップを可能にするための役割です。
マネーフォワードの場合、『DPM』と『組織デザイナー』という2つの役割でDesignOpsの組織化を進めています。
『DPM』は、DesignOps全体を推進する役割。
『組織デザイナー(採用中)』は、具体的な施策を推進する役割という2つの役割分担でデザイン組織を進化させています。
ここからは、様々な企業のDPMの役割をご紹介します。
はじめに、LinkedInでDPMとして働くジョン・ダベンポートとサラ・マンゲリッチの説明です。
AdobeでデザインプログラムマネージャーをしていたアルニーはDPMを以下のように表現しています。
TrueLayerでHead of Experience Design Operationsを担当するパトリツィア・ベルティーニは、DesignOpsリードとデザインマネージャーの役割に関する記事を書いています。
具体的な業務内容
DesignOpsやDPMの具体的な業務内容を紹介します。
各社ごとに業務内容は異なりますが、一例を挙げると
・ロードマップの策定
・デザインプロセス構築
・デザインツール管理
・プロジェクト管理
・デザイン組織文化の構築
・育成プログラム、評価の運営
・予算管理、事務処理、法務対応
など、多岐に渡ります。
私がマネーフォワードで担当している業務は、
・中長期視点の施策検討
・デザイン組織全体に影響する横断課題への対応
・デザイン戦略室の予算策定・管理
・デザイン組織全体で活用するガイドライン整備
・ナレッジマネジメントの推進
・キャリアラダーのアップデート
・マネジメント人材育成
・デザインスキル研修
・デザイン文化醸成
など
長期視点と短期視点を繋ぎ、デザイン組織全体を最適化し、各デザイナーがより活躍しやすい環境づくりをCDOやデザインマネージャーと連携して進めています。
ここでも、様々な企業や団体の具体的な業務内容を見ていきましょう。
2016年からUberでDPMとしてUber RidesとUber Eatsのプロダクトに携わったマギーが所属するDesignOpsチームの役割は下記です。
UXPinは少し異なる切り口で役割を説明していました。
TrueLayerでHead of Experience Design Operationsを担当するパトリツィア・ベルティーニは『ビジネスオペレーション』『ワークフロー&デザインオペレーション』『文化』という3つの切り口で担当領域を整理していました。
少し話が逸れますが、日本企業で期待されるDesignOpsの役割は、デザインプロセス整備、デザインシステム整備、ステークホルダーとの調整業務を推進するイメージが強いように感じます。
DesignOpsの役割については、Salesforceが『TeamOps』と『ProductOps』という形で、役割を2つに分け、デザイン組織全体に対する支援とプロダクトへの支援のバランスを取っていたので紹介します。
この整理から考えると、私の役割は『TeamOps』に近く、日本国内で求められている役割は『ProductOps』に近いように感じます。
DPMを採用するタイミング
以下のどちらかに当てはまる場合、DPM採用を検討するタイミングかもしれません。
1. 事業が成長しているデザイン組織
2. 慢性的に業務負荷が高いデザイン組織
事業が成長しているデザイン組織については、『なぜDesignOpsが必要なのか?』で書いた通りです。
業務負荷が慢性的に高いデザイン組織については、ピープルマネジメント、仕組みや文化づくりに時間が使えないため、いつまでも業務環境が改善されず、デザイナーの離職リスクが高まります。
DPM採用には2つの課題があります。
1つ目はDPM人材が市場にいないため、採用の難易度が高いことです。
2つ目は業務のイメージがしにくいという点です。
それらを加味して、最初は社内の役割を調整する形でDesignOpsをスタートするのが現実的かもしれません。
例えば、
ピープルマネジメントに興味のないシニアデザイナーに『ProductOps』の役割を持ってもらう
チーム作りに興味があるデザイナーにデザイン文化醸成を担当してもらう
ワークショップデザインに興味がある方にトレーニングプログラムを担当してもらう
など、イメージしやすいと思います。最初は稼働時間の5〜10%を割り当てることから始め、効果があれば、少しずつ稼働割合を増やす形が良いのではないでしょうか。
また、採用を進める場合は、デザイナーだけでなく、人事やプロダクトマネージャーやエンジニアなど、他職種からの採用も検討することで可能性は広がると思います。
海外でも1人目のDPMをいつ、どのタイミングで採用するか書かれた記事がありますので、ご紹介します。
Facebook(現:Meta)でDPMチームを立ち上げたコートニーの記事から引用しました。
TrueLayerでHead of Experience Design Operationsを担当するパトリツィア・ベルティーニの記事には、5〜8人弱のデザイン組織の場合はフルタイムのDesignOps担当は不要だと書いています。(ただし、急成長している場合はDesignOpsを考える時期に来ている可能性があります)
海外でもDPM採用には苦労しているようで、説得する方法について書かれた内容がありました。
参考資料
もっとDesignOpsやDPMについて理解を深めたい方は以下の資料をご確認ください。
🌍 英語の資料
Org Design for Design Orgs ー Kristin Skinner and Peter Merholtz
Team Ops and Product Ops: The Perfect DesignOps Pair ー Rachel Posman and John Calhoun
DesignOps at Uber: Who Are DPMs and How Do They Create Impact? ー Maggie Dieringer
DesignOps – How to Improve Your Design Workflow and Operations ー UXPin
DesignOps at Airbnb How we manage effective design at scale ー Adrian Cleave
What does a design program manager do? Q&A with Sarah and John ー Shubhangi Salinkar
What’s a Design Program Manager and what the heck do we do? ー Alnie Figueroa
Why we need design leaders, designops leaders, DPMs, and design managers ー Patrizia Bertini
When is the right time to think about DesignOps? ー Patrizia Bertini
What’s a Design Program Manager and How Can My Team Get One? ー Courtney Kaplan
🇯🇵 日本語の資料
📢 2022/01/31(火) DesignOpsイベント開催
2023年1月31日(火)、DesignOpsのイベントを開催予定です!
詳細はTwitterで告知します🙌
さいごに
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
DesignOpsやDPMの歴史は浅く、まだ定義が定まっていません。
そのため、本記事では、私の解釈と合わせて、様々な企業や団体の説明を併記することで、多面的にDesignOpsやDPMについて捉えていただくことで、理解が深まるようにしました。
UXが海外で普及してから日本で普及したように、DesignOps、DPMもこれから日本で普及する可能性の高いデザイン領域だと考えています。なぜなら、スタートアップが成長し、事業規模や組織が拡大しているからです。
DesignOpsやDPMを活用することで、これまで一部のデザインマネージャーやデザイナーの努力でなんとか解決してきた問題を解消し、よりユーザーに価値を届けることができるデザイン組織の環境をデザインすることが、日本のデザイン業界を進化させるために必要です。
まだまだ事例が少ない領域ですので、今後もDesignOpsやDPM関連の情報を発信していきます。
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Satoru Kawaharaです。デザインシステムやFigmaについて書いてくれるのではないかと期待しています。明日もお楽しみに🙌
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