大建中湯(2)

こんにちは。土日は一歩も自宅から出ない医療従事者の鑑のいのたろうです。
本日は昨日に引き続き大建中湯について勉強していきましょう。

大建中湯は漢方の中でも構成生薬が少なめで僕が構成生薬を暗唱できる唯一の漢方です。組成は1日量15g中に日局カンキョウ5g、日局ニンジン3g、日局サンショウ2gの割合の混合生薬の乾燥エキス1.25gと日局コウイ10gを含有しています。若干理解しにくい表記となりましたが、カンキョウ:ニンジン:コウイが5:3:2で含有している乾燥エキスが1.25gということですね。味は甘いけどピリ辛です。

用量については前回記事の通りで1回2包1日6包であり、臨床ではその半量での処方もよく見かけます。

僕は漢方に詳しくないので証とかは一切わかりませんが、処方名の由来としては、寒冷(血流障害)を伴う消化管の機能低下と腹痛に用いる処方であり、中とは消化管のことを指し、この働きを改善することを建中といっています。同じく消化管の機能低下に用いる小建中湯に対比して大建中湯と言われるそうです。
小建中湯も大建中湯と対比させて名づけられいるらしく、大と小が何を意味しているのか僕にはわかりませんね。

添付文書の効能効果では「腹が冷えて痛み、腹部膨満感のあるもの」となっています。腹壁が軟弱で蠕動不穏がよい指標となるようです。

難しいですね、、、

臨床では、術後の腸管癒着の改善、通過障害の改善、結腸手術患者のQOL改善、胃全摘出患者の胃排泄速度の改善、胃全摘・空腸嚢挿入術を受けた患者に対する作用や癒着性イレウスに対して使用されたりしています。

大建中湯は漢方の中で最もエビデンスのあるものの1つであり、現在アメリカでも臨床試験が行われています。アメリカのFDAはその成分がどこにどのように効いているのかを明らかにしないと承認してくれないようで、漢方の流通は難しい国であると僕は思っています。そのアメリカで臨床試験を行っているのだから大建中湯はすごいと思います。

日本においても臨床試験はいくつか行われており、「大腸癌術後の消化管機能異常に対する大建中湯の臨床試験」では、主要評価項目の「術後排便回数や便性状」で、プラセボ群に対して有意差を認める結果を得られています。
また別のデータでは在院日数の短縮・医療費削減を示すデータもあります。
大建中湯は周術期管理に適した漢方であると考えられますね。

そこで本日は大建中湯の薬効・薬理について勉強しようと思います。
導入部分が長くなりましたね(笑)

僕も最近は知識をアップデートしていないので学生時代の時に勉強した内容となりますが、大建中湯には大きく分けて以下の3つの作用があります。

①腸管運動亢進作用
②腸管血流増加作用
③抗炎症作用

ざっくりと解説していきます。が、その前に大建中湯に含まれる主要な成分、HAS(ヒドロキシ-α-サンショール)、6S(6-ショウガオール)、6G(6-ジンゲロール)を頭にいれてください。

まず①からいきます。

腸管運動亢進作用には3つの機序が絡んできます。モチリン分泌促進作用、KCNK9チャネル阻害作用、TRPチャネルを介した作用です。
モチリンについてはマクロライド系薬の記事でも軽く触れた気がしますが、腸管上皮にあるモチリン細胞から分泌され、平滑筋にあるモチリン受容体に直接作用することで腸管運動を亢進し、腸管の蠕動運動促進・活性化に働きます。そのモチリンの分泌を促進します。
KCNK9チャネル阻害作用については、腸管運動を制御している腸管神経とカハール介在細胞をKCNK9チャネル阻害による細胞内K+の放出抑制を介してそれらの反応性を増強させ、平滑筋収縮と腸管運動亢進をもたらします。
TRPチャネルについては、消化管運動を賦活化する腸管粘膜上皮細胞の副交感神経節後線維状に位置するTRPV1を直接的に活性化し、神経終末からサブスタンスPを放出促進することでアセチルコリンが分泌され平滑筋が収縮促進し、腸管運動が亢進します。それ以外にも腸管上皮クロム親和性細胞を介したセロトニンによる作用もあります。
サブスタンスPでピンとこない人はNK1受容体とかその辺を復習してみてください。

医薬品の作用機序では見かけないチャネルが多いのでわかりにくいですよね。でもこれからの新薬でこれらを介した機序の薬は出てくると思うので、勉強して損はないと思いますよ!!

続いて、②の腸管血流増加作用いきます。

ここではTRPV1とTRPA1が出てきます。
TRPV1チャネル活性化によりカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)分泌を促進します。CGRPは腸管の微小血管に存在するCGRP受容体に結合して血管拡張・血流増加をもたらします。
また、TRPA1チャネル活性化により腸管上皮細胞からアドレノメデュリン(ADM)分泌を促進し、腸管微小管血管に存在するADM受容体に結合し、血管拡張・血流増加をもたらします。

最後に③の抗炎症作用です。

TRPA1チャネルが活性化することでADM分泌が促進され、炎症性サイトカインが抑制される。また、カンキョウに含まれる成分がCOX-2を選択的に阻害しPGE2産生を阻害し炎症を抑制します。

たぶん、いつもの記事と違って難しめなので最後まで読んでくれた方は少ないと思いますが、大建中湯は基礎研究・臨床研究が多いので時間があるときに読んでみてください。

TRPチャネルについて勉強したい人はこれでも読んでください。

難しい話をたくさんしましたが、新人薬剤師的ポイントとしては大建中湯とαグルコシダーゼ阻害薬の相互作用があります。大建中湯に含まれるコウイには二糖類が含まれているので上記の2剤併用によりコウイが吸収されずに未消化の糖質が腸内細菌より分解され、腹部膨満感などが悪化する可能性があるので注意しましょう。

終わり