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地方公務員が考えるべきこと 第13回 新型コロナ対策の給付金をクーポン券で配布するかどうかに関して一言

 今週はタイトルに関連するニュースが毎日のように報じられた。そのほとんどが、新型コロナ対策としての子育て世帯への給付金10万円のうち、半分の5万円をクーポンで配布するのか、それとも10万円全額を現金で配布するのか、をめぐる自治体首長からの批判である。
 当初は、所得制限をするのかしないのかで大きな議論があった。バラマキと批判されないか、所得制限の金額が高いのではないか、世帯ではなく個人の所得で判断してよいのか、など、論点はさまざまあったが、最終的には児童手当と同様の対応ということになった。それにも問題はあると思うが、今回はクーポンをめぐる論点について一言述べたい。

 まず、クーポンの問題点として「何に使えるのかの判断が大変だ」との批判があった。子どものために使うとすれば、文房具や書籍などが該当するだろう。しかし、詳細を詰めようとすると必ずグレーゾーンが出てくる。消費税の軽減税率でも同じことがあった。
 しかし、現金の方が良いと自治体が考えるのならば、クーポン券の機能を期限だけにして、使い道は現金と同じように何でも使えるようにする、という方法もあるのではないか。児童手当でさえ現金であり、もちろん使途は自由である。今回は貯蓄に回ることを避けたい(クーポンにしても、もともと使うものに充てたのならば、浮いた現金を貯蓄に回すことが避けられない)のであり、児童手当でさえ制御できていない使い道を限定することにこだわる必要はないと思われる。
 それこそ、かつての地域振興券や昨年のGoToキャンペーンといった既存の枠組みを活用すれば、手間もそれなりに減らせるのではないか。もちろん現金の方が圧倒的に使い勝手が良いことは間違いないのだが、国がスピード感を優先して既存の枠組みを使い、クーポン券に強くこだわるのであれば、地方も既存の枠組みを使った対応をしても多目に見てもらいたいと思う。

 もちろん、私はクーポン券を決して支持しているわけではない。むしろ、新型コロナ対応をめぐって地方自治体がさまざまな工夫をこらして、国の不備を補ってきたことを高く評価している。今回は、半分クーポンか全額現金かをめぐって国の対応が煮え切らない間に、複数の地方自治体が全額現金を表明したことは大きな意味があると考えている。国は全額現金の道を実質的に閉ざそうという対応に見えるが、全額現金を選ぶ地方自治体が増えれば国も最終的には認めざるをえない状況になるのではないか。「地方の反乱」とも言える状況だが、基本的にはこうした地方の姿勢がさまざまな政策分野に広がってほしいと考える。国と無闇に激突する必要はないとしても、地方自治体が「自分たちに本当に必要なことは何か」を考え、それに合った国の支援を求めることはとても大切なことである。国が定めたガイドラインや補助要項に縛られるのではなく、縛り方を変えさせる地方自治体の姿勢を、大いに応援したい。
 しかし、一方で地方自治体の財源問題への切り込みは依然として弱い。今回の件をもう少し踏み込んで考えると、「そんなに地方自治体が現金を支給したいのなら、自主財源で独自にすれば良いではないか」という考えもあるはずだ。もちろん、自治体は自主財源で給付金の上乗せなどをしてきた。そのために、地方自治体は貯金(基金)を取り崩した。地方自治体の財政状況によるとはいえ、そういう時は地方自治体も支給対象や金額を慎重に検討したはずである。
 今回の子育て世帯への給付金は、国が財源を負担する。しかし、地方自治体は、この給付金にどこまで必要性を感じているだろうか。もし自主財源でしなければならないとしたら、同じことをするだろうか。おそらく、支給しないと判断する地方自治体も多いのではないだろうか。

 もちろん、国のように赤字国債を発行して給付金に充てることは、地方自治体では困難である。しかし、地方自治体の政策には「補助金がつくからやる」「補助金がつかなかったらしない(やめる)」というものが他にも散見される。「必要だから」という理由が最も重視されていないように見える
 「厳しい財政状況のなかで必要なものでも十分に行えない、だから補助金で判断するのが妥当だ」という考え方もあるだろう。しかし、自治体でも自主財源の拡充は不可能ではない。超過課税(地方税法で定められた税金の税率を独自に引き上げること)や法定外税(地方税法で定められていない税金を独自に設定すること)の仕組みがある。ただ、これらの収入増加は7000億円程度であり、国からの補助金15~16兆円と比べると20分の1以下に過ぎない。補助金の方が圧倒的に大きいのが現実だ。本当に必要(住民ニーズが強い)ならば、補助金がなくても自主財源を増やして充てる(住民に説明して理解を求める)ことも、より積極的に行うべきだろう。

 ※ふるさと納税がこれだけ広がるのは返礼品目当てと言われるが、逆に言えば税金の使い道が見えないためではないか。納税者が返礼品という目に見えるメリットを求めるのは、返礼品の魅力によるだけでなく税金の意義に対する理解が深まっていない現状を表している。税金は「取られるもの」という言葉が象徴的だ。この連載ではふるさと納税について何度か言及しているが(第2回第11回)、返礼品競争を批判するだけで、ふるさと納税の問題は語れない。

 今回は、新型コロナ対策としての子育て世帯への給付金について、いくつか私見を述べた。今後、さらに議論が進んでいくと思われるので引き続き動向は注視していきたいが、新型コロナの収束を願うとともに、こうした議論が表面的なところで収束しないことも同時に願っている。

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