翻訳作業における訳文のチェック
翻訳の作業では訳文のチェックは欠かせません。ひとくちに訳文のチェックといっても内容のチェック、訳抜けのチェック、数字や単位のチェック、スペルミスのチェックなどがありますが、今回はスペルミスのチェックについて書きます。
まず、訳文をチェックする場合に、例えば、訳文の内容とスペルミスを同時にチェックすることは簡単なようで実は難しいです。また、難しいだけではなく危険です。ですから、スペルミスをチェックする場合は、訳文の内容などのその他のチェックは同時にせず、スペルミスのチェック作業だけを行うことが望ましいです。
というのも、訳文をチェックする際に訳文の内容(文章としておかしくないか)をチェックしようとすると、どうしても訳文の意味を考えながら文章を読んでしまうのですが、そうして文章の意味を考えながら読むと今後はスペルミスに意識が向かなくなるからです。
スペルミスをチェックする際は、「意味」ではなく「文字」そのものに意識を集中する必要があり、そのためには、機械的な作業に徹することが必要不可欠です。ですから、変な話ですが、スペルミスのチェックでは「文章を読まない」ようにします。
スペルミスのチェックの中でも日本語からタイ語への翻訳は特に神経を使います。というのも、タイ語は英語などと違って単語間のスペースがないからです(เพราะภาษาไทยไม่มีการเว้นวรรคระหว่างคำเหมือนกับภาษาอังกฤษหรือภาษาอื่น ๆ)。なお、ご存知のように、日本語の場合はひらがな、カタカナ、漢字を混ぜて文章を書くことが視覚的にスペースの役割を果たしており、タイ語のイメージは、「にほんごのばあいはひらなが、かたかな、かんじをまぜてぶんしょうをかくことがしかくてきにすぺーすのやくわりをはたしており」といった文章のスペルをチェックするようなものです。
では、具体的にはどうやってチェックするかと言うと、私の場合はワードの一括置換を使って特定の単語をハイライトすることで視覚的に単語間の区別がつきやすいようにしています。
具体的にはこんな感じです。
(ハイライトしていない文章)
(ハイライトした文章)
慣れないと目がチカチカするかもしれませんが、ハイライトするだけ単語と単語の切れ目が分かりやすくなるため、スペルミスを確認しやすくなります。また、単語と単語の切れ目を分かりやすくするだけではなく、同じ単語を一括置換するため、例えば、ある単語が1つの文章に10回出てくる場合、最初の単語のスペルが間違っていなければ、2つ目以降はスペルを確認する必要はありません。逆に、同じ単語でハイライトになっていなければその箇所はタイプミスをしていることが分かります。
また、ハイライトだけではなく、特定の言葉に下線を付けたり、特定の言葉を太字にすることでも視覚的に単語間の区別がつきやすくなりますが、これもハイライトと同じように一括置換を使って行うことができます。
タイ語というのは、一つの単語がたいてい子音と母音と声調記号で構成されているので(例:“เพื่อ”)、日本語や英語と比べて1単語1単語のスペルミスを確認するのが大変です。ですから、分量の多い翻訳では、目で文章を見ながら全ての単語のスペルチェックをするというのは時間と労力を要するだけでなく、スペルミスの見落としの危険性もとても高いです。そのため、面倒でも上記のように単語の一括置換をすることによって、スペルミスがないということを確認しますので、日本語からタイ語への翻訳ではスペルチェックにかなりの時間を要します。