多言語を取り扱う翻訳会社について考える
以前書いたことがありますが、私の翻訳の仕事は大半がエージェント(翻訳会社)経由で、直請けの仕事はごくわずかです。そして、私が仕事を引き受ける翻訳会社のほぼ全てが多言語を取り扱う会社です。
ひとくちに多言語といっても翻訳会社によって取り扱う言語の数や範囲は当然異なりますが、数十の言語を取り扱う会社も少なくありません。そして、ひとつの翻訳会社が数十もの言語の翻訳に対応することができるのは、それらの言語の翻訳を生業としているフリーランスの翻訳者がそういった多言語を取り扱う翻訳会社に登録しているからであり、おそらく多くの翻訳者はかなりの数の翻訳会社に登録していると思います。
例えば私自身を例にとっても、登録している翻訳会社の数だけなら50社を下りません。ただし、その中にはコンスタントに依頼がある会社もあれば、めったに依頼のない会社もあります。なぜ、そんなに登録している翻訳会社が多いのかと言うと、単純に翻訳会社から私に問い合わせが来るからです。そして、翻訳会社から私に問い合わせがある時に一番多いパターンが、その会社にタイ語翻訳の依頼が入ったという場合です。また、お客さんからタイ語の翻訳の問い合わせが増えてきたため、タイ語翻訳者である私に連絡してくる会社も少なからずあります。
ということはつまり、その翻訳会社にはタイ語の翻訳に対応できる翻訳者がいないか、あるいは、タイ語の翻訳者はいるけれども、その時はちょうど他のタイ語翻訳者の手が空いていないということが考えられます。これは単なる私の予想ですが、タイ語のようなマイナー言語の場合は、ある翻訳会社において、その言語に対応できる翻訳者がいないか、いても数が少ないということは実際に少なからずあるのではないかと思います。ここで言う翻訳者とはもちろん、その会社に登録しているフリーランスの翻訳者のことです。
ですから、多言語を取り扱う翻訳会社において、タイ語のようなマイナー言語を解する社員というのは当然ながらほとんどいないと思います。私の今までの経験でも、翻訳会社の中にタイ語を解する社員がいるという会社はほとんどありません。おそらく、多言語を取り扱っている翻訳会社は大なり小なりそんな状況なのではないかと推測します。
そして、タイ語を解する社員が会社内にいないとなった時に特に問題となるのが、日本語からタイ語への翻訳です。もちろん、複数のタイ語翻訳者が登録している会社もたくさんあり、きちんとしている会社では、ある翻訳者が翻訳した文書を別の翻訳者がチェックしますので、社員がタイ語を解する必要はないように見えますが、実際にはやはり問題があると思います。
というのも、納品した翻訳文書についてお客さんから質問などがあった際に、当然ながら社員ではお客さんからの質問に対応できないからです。もちろん、翻訳者の翻訳に不備がある場合は、お客さんの質問には翻訳者が対応すべきですが、中にはそうではない場合もあります。
今回たまたまそういうケースがありました。納品したタイ語訳の文書の内容をお客さんが自動翻訳で確認し、その自動翻訳した日本語が元の日本語の内容と異なるので、正しく訳せているか確認してほしいというものでした。ちなみに、お客さんからの質問の箇所を確認したところ、タイ語訳には一つも問題はありませんでした。要は、自動翻訳の日本語がおかしいわけです。
翻訳者の訳に問題があるのならともかく、そんな質問にまで翻訳者が対応しないといけないというのはやはりおかしいことであり、そういう意味では、数十もの言語を取り扱う多言語対応翻訳というビジネスにはやはり無理があるのではないかと感じました。
はっきり言って、それだったら翻訳者である私にお客さんから直接依頼してもらったほうがいいです。