夢を見ようぜ大人でも【喫茶店日記】
雲を食べたい。
幼き日の憧れを叶えてくれたのが、カフェ・タピロス(六本木)のスコーンだ。
「雲っておいしそう。いつか食べてみたい。」
なんて本気で考えていた幼少期。純粋無垢で泣けてくる。
天然水も嫉妬するほどに透き通った心をもっていたもんだ。
ところが、夢はいとも簡単に打ち砕かれる。
理科の授業によって。
"雲は空気中の水蒸気が集まったもの"
教科書の一文が、わたしを絶望へと導いた。
えっ、じゃあ雲って食べれないってこと...?
人類に発展をもたらす上で欠かせない科学の知識は、時として残酷だ。
物語が大好きなわたしには、到底受け入れがたかったのを覚えている。
まあ今思えば、あれは序章にすぎないのだが。
誕生日がきて、人生を重ねるにつれ、世界のいやーな側面を知る機会は増えていくのだから。
全国大会をめざして入った吹奏楽部では、思春期女子のゴタゴタが頻発。
演奏よりも人間関係に頭を抱えた6年間を送る。
某ウイルスによって志望業界への扉をことごとく閉ざされた就活。
ふてくされて入った希望と違う会社では、嫌味が大好きな先輩に悩まされた。
そのうち出版してやるんだと調子づいて始めたnote。
初コメントに歓喜して開くと、アカウントの宣伝目的であろう中身のない一行で。スマホを床に叩きつけたくなった。
推しの歌詞は、いつも核心を突いてくる。
きっとあいみょんも、雲を食べられない事実に絶望した一人だろう。
大人になるとは、こんなに残酷なことだったのか。
悲しきかな。子どものころ想像していた未来とはまるで似つかない。
単位、面接、税金...。
自立と引き換えに追いかけてくるやつらは、強烈な焦燥感を駆り立てる。
雲を食べたい?
夢ばかり見ていないで、地に足をつけて生きていかなくては。
すっかり卑屈になったわたしは、いつからか「現実」という言葉で自分の本心をごまかすことばかりがうまくなっていた。
子どものころ反面教師にしていた大人に、自分も足を踏み入れてかけていると気づきゾッとする。
タピロスのスコーンについていた付け合わせのクリーム。
幼き日のわたしが、雲を食べたときのイメージとして思い描いてたそれだった。
ふわっと軽くて、なおかつ濃密に詰まっている。
ホイップクリームとはまた違った食感。
胸を躍らせながら味わっていると、いつの間にか口の中で溶けていた。
ほんのひととき、こんな形で、憧れを体感できるなんて。
ああ、やっぱり夢って素敵だ。
描くのも、追いかけるのも、最高におもしれえ。
大人になると、責任ばかりでつまらない。
やさぐれていた自分を恥じて、改心しよう。
いくつになろうが、夢を見続けて楽しく生きていくんだ。
自由に、思い描いた方向へ進んでいけばいいじゃないか。
もうわたしは、宿題も門限もない大人なんだから。
喫茶店を出た帰り道。見上げた空は青く、雲ひとつなかった。
もしかするとマスターは、ほんとうに雲を食べさせてくれたのかもしれない。
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