山の先人からの贈り物
しばらくぶりの出猟。サラリーマン猟師の夫は土日が休みのため、今期は土曜日に仕掛け、日曜日に解体するという日程でやっている。
前日の金曜日、私は仕事帰りに自宅へと向かっていたのだが、初めて道端で猪と遭遇した。最初は、猫か犬またはタヌキが通ったのだと思ったが、尻がぷりぷりしていた。猪だ!と気づき、飛んで火にいる夏の虫!と興奮したのだが、なんの道具もない。どうするか迷ったが、ノーガードで闘える相手ではないと悟り帰宅。
翌日、猟に出る予定でいた夫に伝えると、「確率論で言うと下がったな」と、まるで事故を見たら事故を起こす確率が減るみたいな理論で返された。私のやる気を損なわせる事に長けている夫だが、猪を見た事により、私の朝の目覚めは良かった。ウダウダと寝てる夫を叩き起こし山へ。
久々に来ると、やはり今年は荒れている。あちらこちらに痕跡があり、期待できる。
前回仕掛けたポイントに罠を2個。新たな場所に1個設置した。ポイント散策中、フィールドチェックのため、少し山の奥へ向かった。
前期のシーズンは、よく痕跡があった場所なのだが、今期はあまりなかった。標高が少しだけ上がる所なので、昨日の遭遇といい、痕跡といい、やはりアーバン化、山から降りてきた場所に猪たちはいるのだなと思った。
しかしながら、その場所は気持ちが良く、日差しがポカポカと体を温めてくれる。風が抜けて見晴らしも良い。
山の先人たちが開拓した場所で、山の斜面にはレモンが実をつけていた。輝く実の美しさに惹かれ、私は急斜面を登りレモンの木に近づいた。早く戻れという顔をしている夫を見下ろしながら、私は3つほど拝借。
今まで見たレモンの中で、一番綺麗なレモンだった。もいだばかりの実から清涼感のある香りが漂よう。
こんな立派なレモンが放置されていることに、先人への感謝でいっぱいになる。燦々と注ぐ日差しを浴びながら、レモンの木も気持ちが良さそうだ。
はて、よく見るとレモンの足元に丸い糞。ウサギの糞のようなものが落ちている。鹿?キョン?自宅に帰ってから、その糞を調べあげると猪だった。
つまり、私が歩いたルートと猪は同じだった。気持ちが良いその場所で、猪は糞をした。さぞ、気持ちが良かっただろう。糞を栄養にしたレモンの木。まさに自然の循環である。
その夜、私たちは猪の糞の木で育ったレモンと猪肉でパスタを作って食べた。芳醇なレモンの香りがした。夫は、トイレの味がすると表現するほど。あながち間違いではないが、私の頭の中には、猪の糞が浮かぶ。