そもそもデジタル庁とは何か? なぜマイナカードか。
黒澤明監督『生きる』に志村喬演じる書類の山に囲まれた地方公務員の姿が描かれている。役所というのは昔から、そしていまも非効率の象徴である。
デジタル後進国の日本を、何とか変えないといけない、そのためのプロジェクトがデジタル庁の誕生だった。
デジ庁は自民党のためでも霞ヶ関のためでもなく、いわば国民的プロジェクトなのだ。デジ庁職員は発足時は600人、現在は1000人、最近は地方自治体からの出向者が増えている。全体の1/3が各省庁からの出向者、1/3が地方自治体からの出向者、1/3が民間出身者で構成されている。
これまでない新しさは民間出身者が役所にたくさん集まったところだ。
民間出身者は一般職と専門職に分かれる。また、原籍を残す出向者と退職後に来る人材に分かれる。リボルビングドア(回転ドア:公共と民間を行き来すること)は外資系出身者のほうがやりやすい。例えば、ガバメントクラウド担当にアマゾン出身者がいたりする。
官の給与水準が民間と合わないため、補填するために非常勤の形にしたりして柔軟に対応している。この柔軟さはこれまでの官庁にはなかった。
出向者は渉外や営業、官庁向けシステム開発などを担当している。出向元のビジネスに関連する分野を希望するが直接の窓口担当はまずいので、「ななめ」のあたりに配置する。
辞めてきた人材は人事、管理、広報、プロマネ、デザインなど多様な分野を担当している。特に民間流のプロジェクト管理、すなわちベンダー丸投げではなくプロセスに関与する形を行ったり、技術の選定を行ったりしている。
縦割りで無駄と手間とコストがかかる行政が、国民の側に向けたサービスへと切り変わるための国家プロジェクト、試行を重ねながら前進することに期待したい。
なお幾つかの問題点について原因と対策を理解しておきたい。
◎コンビニ誤交付
自治体が委嘱しているベンダーは10社、うち富士通Japanのみにシステムバグがあり同社は123自治体に納入している。富士通は過去に判明していたバグを全自治体で修正する作業を怠っていた。
◎マイナンバーカードのミス総点検
そもそも、年間1,800万件くらい保険証の再発行は生じている。転職や他県への転勤などで保険証がかわる。協会けんぽや共済組合でのミスが多くなる。保険者側の事務レベルが低く、本来は4情報(氏名、性別、生年月日、住所)のすべてを照合すれば他人との紐づけ間違いは生じ得ないのだが、住所は表記ゆれがあり照合に手間がかかるので省略している現場が多い。それで同姓同名同生年月日の他人を間違えて紐付けてしまうミスが発生する。
保険者が登録受付の際にマイナンバーの提出を義務付けていれば他人への紐付け間違いも起こり得ないのだが、これまでは義務づけしていなかった(書類にマイナンバーの記載がなくても受理していた)。今年6月に政令で義務付けられたので間違いなくなるだろう。
◎家族名義の口座登録
給付金は本人名義の口座以外には振り込まれない。「家」でなく「個」を対象としている。これまで幼児はお年玉などをきっかけに口座をつくったりしていたが、今後は口座は必要になるとの広報が足りなかったのは反省すべきである。
◎マイナンバーは29項目のサービスと紐付いている。マイナカード・マイナポータルにより簡便かつ秘匿性高く諸手続きが可能になる。
これも広報活動が足りなかったと思うので、まだまだデジ庁自身の不断のアップデートが求められるし、メディアの不勉強も課題だ。写真