『歴史人口学の世界』「T型集落点検」に似たアプローチ(世界の歴史)
歴史人口学という学問が注目されているとのことなので、さっそく数冊の本を読んでみた。本書は歴史人口学の日本における第一人者である速水融氏の書いた入門書だ。歴史人口学とは、近代の国勢調査がはじまる前の人口動態を対象とする学問だが、発祥の地はフランスになる。フランスのインテリは、第二次大戦でドイツに負けたと認識しているところから話ははじまる。つまり、連合軍としてフランスはドイツには勝ったが、当時のドイツは急速に人口を増加させていたが、フランスは19世紀以来、女性が子供を産む数が減少してしまった。つまり、生産を担う年齢層、戦争で銃を持ち戦う年齢層の人口が減ってしまった。これを歴史の中に遡り解明しようとしたのが、歴史人口学の創始者であるルイ・アンリだ。彼はキリスト教圏で17世紀頃から記録されていた「教区簿冊」に目を付け、そこに出てくる個人個人の名前をつなげる作業を行い、1組の家族ごとに1枚のシートを作成していった。日本では慶應義塾大学の速水融さんが、徳川幕府のキリシタン禁制による生まれた「宗門改帳」に目を付け、家族復元フォーム(FRF)が作られた。それらの収集されたデータからミクロ、マクロで歴史人口学的な考察が行われる。
私が歴史人口学の本を数冊読んで、偶然にも、限界集落における「T型集落点検」とまったく同じだと気がついた。T型集落点検とは、今、その地元に住んでいる住民だけでなく、離れて暮らしている子どもなどの世帯(他出子=たしゅつ し)も加えたものを「家族」としてカウント、それに基づき集落の構成人数を見直す調査を指す。ルイ・アンリの「教区簿冊」も、速水融さんの「宗門改帳」も、徳野貞雄さんの「T型集落点検」も夫婦からの家族をベースに1枚のカードに記入する意味では同じだ。過去を対象とするか、今を対象とするかの違いがあるだけで、人口を総量の数で捉えるのではなく、家族の中にある要素として捉えることで、「静」でなく「動」として動態として考察することが可能になる。
日本はまもなく、若い人を雇いたくても「いない」という事態がやってくることは明々白々だが、日本の歴史は、あるいは世界の歴史はそれをどうやって乗り切ってきたのか、あるいは乗り切れなかったのか、歴史人口学はそれを教えてくれる可能性のある学問だということを知ることができた。