『ロシアの暮らしと文化を知るための60章』ダーチャ−システムは素晴らしい!(世界の歴史)
政治の話ではなく、ロシアの人たちがどのように生きているかを紹介しているのが本書だ。
「ロシアの人」には、民族としての「ルースキー」とロシアに住んでいてロシア語を話すが、民族を問わない「ロシアニン」の2つの意味がある。ロシアは国土の45%が森だ。その森が西洋とビザンツ帝国との密接なつながりを失わせ、今のロシアになったという。
ロシアと西欧の流刑植民地には大きな違いがあるという。西欧諸国が、海外流刑や海外植民地での黒人奴隷の利用によって、問題を本国の白人社会の外に排除しようとしているのとは異なり、本国と地続きの流刑植民地(シベリア)では、ロシア人流刑者も奴隷的強制労働に従事した。地理的要因は人々の性格や社会の制度にも大きく影響する。
ロシアでもっとも興味があるのはダーチャのシステムだ。ロシア人は5月に入って暖かくなるとダーチャのシーズンとなる。ダーチャが通勤圏にあると、そこから職場に通うこともできる。ダーチャの平均的な敷地面積は600平方メートルで、ログハウス風の家を建て、広い庭で花や野菜を育て、近くに森があればきのこ狩りや釣りを楽しむ。夕方になるとシャシリク(肉の串焼き)を焼き、とれたての野菜を使った家庭料理を食べる生活だ。ロシア人は家の修理やペンキ塗りから電気の配線、水回りの配管まで自分でこなし、ダーチャ小屋を自ら建てる人もいる。
ダーチャとは「ダーチ(与える)」という動詞から「与えられたもの」という意味があり、帝政時代に皇帝が家臣に土地を与えたことからはじまった。第2次大戦後は食料不足を解消するため、希望する労働者に菜園用地を貸し与え、自給自足を促した。新生ロシアになってからは土地所有が認められ、自分で作ることがレジャーとなり達成感につながっている。平時のダーチャは癒やしの場だが、非常時はシェルターになる。
また、ロシア人は散歩が大好きだという。2022年の全ロシア世論調査では次の結果になっている。とにかく、ロシアの人は無目的に散歩をするのが好きだという。
第1位:散歩(87%)
第2位:料理(73%)
第3位:夢想にふける、一人で過ごす(70%)
暑い夏は森林にあるダーチャで過ごし、食物を自分で育て料理をし、散歩をする。首都直下地震、富士山噴火、南海トラフなどの非常時のリダンダンシーには最高だ。この本を読んでますますダーチャが欲しいと思ってしまった。