『10のストーリー・タイプから学ぶ脚本術 SAVE THE CATの法則を使いたおす! 』世阿弥のイノベーションと似ている(業界の歴史)
映画を楽しみにしているものとしては、脚本がどうやって創造されるのかは興味津々だ。そこで、その秘伝をまとめた本(第2弾)を読んでみた。著者のブレイク・スナイダーは、ハリウッドの脚本家だ。彼によると、どんな映画であれその成功は以下の2つのファクターに集約されるという。
1)なじみのある「ジャンル」に対する期待を上回るストーリー
2)もっとも重要な要素「構成」
ブレイク・スナイダーの脚本理論を読んでいて、「オヤッ」と思ったのは、世阿弥の考えた能のシステムにそっくりだということだ。世阿弥の考えた複式夢幻能というイノベーションは、ストーリーが前半と後半に分かれる構成になっていて、後半は前半に登場した人物の見る夢が演じられる形式だ。この構成パターンにより、能の量産体制が確立したと言われている。(もっとも重要な要素「構成」)
この複式夢幻能のシステムに『源氏物語』や『平家物語』などの文学作品のストーリーの中で、当時あった物語のダイジャスト版(物語そのものではなく)から面白いと言われているところを組み合わせて能を作っていた。つまり、観客を意識するために、『源氏物語』そのものではなく、その解説書から観客の感覚をイメージしたものに仕立て上げたのだ。(なじみのある「ジャンル」に対する期待を上回るストーリー)
ブレイク・スナイダーの示すパターンは以下の10ストーリーで、それぞれに構成がある。
1)家の中のモンスター:『エイリアン』『ジューズ』などのモンスターが違うだけの物語。
2)金の羊毛:『ロード・オブ・リング』『パピヨン』などの報酬を得る旅物語だ。
3)魔法のランプ:『コクーン』『バタフライ・エフェクト』などの魔法を中心にした物語。
4)難題に直面した凡人:『ダイ・ハード』『ハドソン川の奇跡』などの普通の男が異常な状況に立ち向かう映画。
5)人生の帰路:『クレーマー、クレーマー』『普通の人々』などの中年の危機、思春期、家族の死、離婚などの厄介なことを乗り越える物語。
6)相棒愛:『リーサル・ウェポン』『タイタニック』などの恋愛結婚、警察官二人などの物語。
7)なぜやったのか:『大統領の憂鬱』『ファーゴ』などの秘密のある奥へ奥へ進んでいく物語。
8)おバカさんの勝利:『フォレスト・ガンプ』『トッツィー』などのシステムの一部にならないバカの物語。
9)組織のなかで:『リストラ・マン』『トレーニング・デイ』などの家族、組織、特殊な仕事の物語。
10)スーパーヒーロー:『スパイダーマン』『ライオン・キング』などの抵抗の物語。
これらはハリウッド映画のパターンだが、フランス映画、イラン映画、日本映画になると、このストーリーにハマらないものもあるだろう。しかし、世阿弥が示したように、「構成」というシステムをイノベーションしておくと、そこに物語をあてはめるだけで、無限にコンテンツを量産できるということに変わりはない。