『「人間とは何か」はすべて脳が教えてくれる: 思考、記憶、知能、パーソナリティの謎に迫る最新の脳科学』レイモンド・キャッテルの「パーソナリティの心理学」を無性に読んでみたくなった(人間学)
本書は世界的なベストセラーとのことだが、ここに紹介されている脳の働きはどこかで聞いたことのあることも多く、気軽に読める。特に印象に残ったのは、IQテストの結果は、どんな教育を選択しようが、お金持ちになろうが、貧乏になろうが関係なく、変わらない。つまり、生まれか育ちかというと、IQに影響するのは主に遺伝が原因で、性別も生育環境にも関係ないという。
著者の専門外の内容だが、心理学に知能を「流動性知能」と「結晶性知能」の二つに分類する考え方がある。
「流動性知能」は、論理的に考える、計算する、関係を把握する、抽象化するなど、初めて見た問題を解決したり、ひらめきを利用したり、新しいものを創造したりする知能。これは老化と共にだんだん衰えていくとされている。そして、この能力は30代にピークに達したあと60歳ごろまでは 維持され、以降は急速に低下する。
「結晶性知能」は、知識、経験、手順、メンタルモデルなどの能力で、知識がある人のほうが問題解決や創造のときもパフォーマンスが高い理由だ。「結晶性知能」は、60歳ごろまで徐々に上昇し、 その後は緩やかに低下する。しかし、「結晶性知能」は、70歳、80歳になればなだらかに低下するものの、そのレベルは20代に近い能力が維持されるという。 つまり、高齢になっても何かを学び習得することが十分可能であることを示している。
実際の問題解決場面において、「結晶性知能」は「流動性知能」によって使われるため、「流動性知能」が衰えてしまうと、せっかく増えている「結晶性知能」を有効活用できなくなってしまうのだ。
要するに、IQ(知能指数)が環境に影響しないのであれば、「流動性知能」はなるべく30代になる前に身につける必要がある。例えば、「何を学ぶか」を示されてそれをキャッチアップする受験勉強などではなく、「どのように学ぶか」の経験を積むことが重要だ。私の場合、20代から10年間、システム工学を「流動性知能」としてビルトインした。「結晶性知能」は、仕事を10年毎に変化させることで知識と経験となり、イスラエルのビジネスや、マーケティングや、グローバルビジネスや、日々の読書などで蓄積されたことになる。
大切なことは二つ。
ひとつは、30代までに与えられた「何を学ぶか」に時間を費やすだけでなく、「どのように学ぶか」を体得すること。もうひとつは、知識や経験を蓄積させることを一生の習慣として身につけることなのだろう。
本書のおかげで、「流動性知能」と「結晶性知能」を提唱した、レイモンド・キャッテルのパーソナリティの心理学を無性に読んでみたくなった。