見出し画像

7回地獄で焼かれても炭を得られたなら「少女七竈と七人の可愛そうな大人」【感想・紹介】


紹介とあらすじと

こんにちは、日本の片隅からモノノケです。

今回読んだのは桜庭一樹さんの「少女七竈と七人の可愛そうな大人」という本です。


この物語の舞台は雪の街、旭川。

「たいへん遺憾ながら、美しく生まれてしまった」少女・川村七竈は
鉄道模型と幼なじみの雪風だけを友に
孤高の日々を送っています。

そんな七竈の周りには
それぞれに問題を抱えた「可愛そうな大人たち」が現れては
抱えきれない「何か」を置いて去っていきます。

七竈と雪風を取り巻く世界が、冴えた冬の空気と共に
温かく、鮮やかに描写された物語です。


繊細な心理描写が好きな人。
自分の容姿や生い立ちに悩みを抱えている人。
独特な言い回しやユーモラスな会話を楽しみたい人。


そして、
美しく切ない物語が好きな人に
おすすめです。


以下感想を書きますので、よければお付き合いください。

▽読書が苦手な方は聞く読書Audibleも▽

▼文庫版はこちら▼

▼kindle版はこちら▼



各話の感想

辻斬りのように

物語のエピソード0でこんなにも先が気になるのは
 名作だと確信
しました。

・この人には思春期の衝動が、遅れてやってきたんだな、
という感じ。

・「その人」を見つけたのに何もできずに
 他の7人と寝るところも、夜に泣くところも
 虚ろを埋めたい自暴自棄な危うい時期のよう。

・で、主人公が生まれたってわけ。

一話 遺憾ながら

・一昔前の地方都市の人の距離の近さだと
 どれほど恵まれた資質でも
  目立つ特徴あるのは不幸と同じなんだよな。

・読後もう一度雪風の仮説を読むと切なさが
 マシマシ。

・キレて部の看板ぶん投げる七竈のシーンめっちゃ好きです。

・あの時の…。

二話 犬です

・ニンゲンの都合なんて知らず
 その鼻で本質を知る
 七竈を「むくむく」と呼ぶセンス
 この物語の最推しです。

・あの時の…パート2

・ほんのすこぅし、なら確かに許せそうだし
 許した分手放せて前に進めそう。
 トンチキ野郎と思ってすみませんでした。

三話 朝は戦場

・大人が多くても大変だけど、こどもが多いのはまさに戦場。
 時間が溶ける超えて消える。むしろなかった。

・あなたも分かっているんですね。

・お釈迦様もこの世は地獄とおしゃってるんで
 自分の選んだ地獄を生きるしかないんじゃないすかね。

四話 冬は白く

七竈と雪風の鉄道模型《ワールド》
 外に何も求めていなくて、しんしんと降る雪の日くらい
 静かで窮屈で、押し寄せる変化と対称的

・みすずは「普通」なのにどうして崇めすぎず
 嫉妬や羨望で敵対するわけでもなく
 かわいい後輩でいられるんだろうか。

・みんな気付かないでくれ、頼む…。
 これあと何回いえばいいんだ。

五話 機関銃のように黒々と

・人生最大級のハレの日に
 爆弾と爆心地を連れて来ないでください。

・自分は両親、兄弟、父方母方の祖父母に似てないタイプ
 で近しい誰かと似てるのがうらやましい頃もあったんですが…
 七竈と足して2で割りたい。

幸せな停滞を望む幼い願いが叶うわけもなくてつらい。
 つらいのにその純粋さに心が揺さぶられる。
 そして大人になっていく姿にまた胸を打たれるのは
 自分が大人になったからなんだよな。

六話 死んでもゆるせない

・思った以上にビショップが老け込んでいくのも
 時間の流れ方の違いを感じさせて
 寂しい気持ちに拍車をかけてくる。

・あの時の… パート3

・思った以上にみすずが二人ともを好きになって
 七竈と仲良くなって、嬉しいのに
 待ち受ける別れ(みすずと二人・七竈と雪風)が
 見えてて愛別離苦が増す。
 ずっと2人と1人で一緒にいてくれ(n回目の懇願)

・七竈が夜中に母親と話して泣くシーンで
 特別なのは容貌だけでそれに(心乱された人々に)振り回されて
 今の七竈が構築されたのだというのが強く印象に残る。

五月雨のような

・優菜の地獄は求めるものが手に入らないんじゃなくて
 手の中にあるものを感じない(ようにしている)ことなんだろうか。
 餓鬼道に堕ちたような苦しみを自らに科してるように思える。
 セックスとか愛にすごく内罰的ぽいのは母親がらみなのかな…。

・そしてやっぱり一緒に逃げたり奪いにはいかないんだよなぁ

七話 やたら魑魅魍魎

・やぁっっっっと普通の親子みたいな会話が出ましたよ、奥さん。

・優菜の言葉の選び方が最初からすごく好みなんだけど
 いつ作家デビューしますかね?

・念を入れて七回燃やさなければ、あきらめられない気持ち
 を燃やすのに必要な燃料ってなんなんだろうか。

・時間が経って勝手に大人になっていく部分もあるけど、
 自分より小さいひとの存在で押し上げられて大人になってあげる
 そういうこともあったのを思い出しました。

・七竈からもらったキハ八兆Mは、綺麗な墓標になるんだろうな。

・やっぱり止められなかったし、折り合いをつけざるを得なかった
 失われていくものの美しさはたまらないものがありますね。

・二人の関係は言葉にしてはいけないと思うし、
 言葉にしたら失われてしまう閉塞した儚さにしか存在しないものです。

ゴージャス

・自分の本質をずばり暴かれる解放感って
 誰かの望む何者かになろうとしている人にとっては
 崩壊の劇薬にも心のよりどころにもなるし、
 この有能マネージャーの辿る物語も読みたい。

・消費されるのがアイドルの一面とはいえ
 一瞬交わった時にいたのがこの親衛隊でよかった。
 
・レコードは、昔の某アイドルみたいに
 「普通の男になります」ってオマージュで置いていったんだと思ってる。
 行ったきりなら幸せになるがいい。
 さらば親衛隊長だった男よ。

読み終わって

七竈と雪風に一緒にいてほしかったといいながら、
この終わりにしか収まらないだろうことは分かっていました。

次もし二人が会うとしたら、
年を取って、自分たちのことを知ってる人が少なくなってから
でしょうね。


読了後、祖母を亡くして数年後祖父も見送った頃の気持ちを
思い出しました。

小さな時から続いていた
安心できる場所が欠けた喪失感と
それでも自分はこれから生きて行かねばならぬ
という絶望と共に覚悟した日。

時は止められないのに
成長を待たずにいろんなことが押し寄せて
大人になっていってしまいました。

緒方みすずや、七竈の髪や
乃木坂れなや、親衛隊長のレコード
になったような。

そんな気持ちです。


七竈の物語を味わって
哀しさを求める部分は十分満たされました。


そしていつかまた読み返せば
別の思いも出てくるのでしょう。



それでは今回はこの辺で。

今回読んだ本

少女七竈と七人の可愛そうな大人 桜庭一樹 著
双葉社 双葉文庫 ISBN 978-4-04-428

▼kindle版はこちら▼


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集