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不耕起栽培畑では、集中豪雨時に土壌の排水性を保持

不耕起処理で土壌の排水性が良かったのは、ミミズ類などの土壌動物の土壌への継続的な作用と動植物由来の孔隙の維持が土壌の物理性の改善に寄与したと考えられます。


不耕起栽培は、一連の栽培管理のなかから耕耘や整地の行程を省略する栽培法です。したがって、植物残渣をすき込まないため、土壌動物や微生物の餌や生息場所となる有機物の集積層が主に地表面に形成されるという特徴があります。

排水性に優れた不耕起

長野県松本市の耕起法を比較した畑では、2004年10月の台風23号による豪雨時に冠水しました。土壌の排水性は耕起処理に比べて不耕起処理で良く、有機物の集積層では冠水はしませんでした(図1)。

図1 耕起法の違いが豪雨時の排水性に影響
2004年10月。台風23号による豪雨。
9月からのたび重なる豪雨のため、耕起処理ではダイコンの欠株が目立つ。

豪雨後の土壌の気相率(排水性の良さ)に差

台風23号(10月19-20日)による豪雨後の10月22日に測定した条間部分の土壌の三相分布(土壌の固相・液相・気相のそれぞれ占める容積割合)を図2に示しました。
深さ0-5cmと5-10cmの土壌で、耕起処理の固相率と液相率は不耕起処理に比べて高く、気相率は低くなりました。

図2 耕起法の違いが土壌の物理性(三相分布)に影響

なぜ、排水性に違いが見られたのか

耕起栽培では、耕起した時が最も柔らかく(気相率が高く)、その後、緻密ちみつ化が進みます。しかも、作土層の直下に耕盤層こうばんそう(農業機械の重みで土が硬く締まった層)を形成します。

不耕起栽培では、作土層や耕盤層の緻密化が根の伸長を抑制するほど進まず、太い根が下層まで伸長しやすいと言われています。しかも、土壌有機物の増加は土壌団粒構造の改善にも寄与しています。
耕耘をしないことによって毎年蓄積されるミミズ類などの土壌動物があけた孔道や根穴由来の孔隙こうりょうも排水性に関係していると思われます。

栽培時の土壌耕耘によって、団粒構造の破壊と耕盤層が形成されます。
不耕起栽培では、表層の有機物集積層が土壌動物相を豊かにし団粒構造を保持できること、動植物由来の孔隙を破壊しないことが排水性の改善につながったと考えられます。

※不耕起畑の有機物集積層の特徴については、「不耕起・有機農業畑の有機物集積層にみられる複雑な食物網のひみつ」を参照ください。

※緑肥間作の導入によっても、土壌の排水性が改善されます。

参考文献

金沢晋二郎(1995)持続的・環境保全型農業としての不耕起栽培 畑作物の収量と土壌の特性. 日本土壌肥料学会誌, 66(3):286-297.
藤田正雄・伊澤加恵・藤山静雄(2005)不耕起・ライ麦処理による大型土壌動物群集の変化とそれに伴う土壌理化学性と畑作物収量の改善. 有機農業研究年報, 5:182-202.


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