大地のプランクトン―トビムシ
土壌中に多数棲息し、しかも体が小さく軟らかいトビムシは、多くの捕食性土壌動物の餌となり、畑地の複雑な食物網の形成に重要なはたらきをしています。
トビムシとは
ハクサイなど葉物の収穫残渣と土壌との間に白い小さな虫が多数いるのを見られた方もおられるでしょう。これが、トビムシ(図1)。森林や畑地の節足動物のなかで、ササラダニ類とともに最も多くみられるグループです。
トビムシ類は、翅をもつようになる前の原始的な昆虫で、「飛ぶ」ことはできません。しかし、跳躍器を持ち、ジャンプをして危機から逃れることができるので、「跳び虫」と命名されました。
体長は0.3mmから7mm以上に達することもありますが、通常は1~2mmです。多くは土壌の表面、落ち葉、あるいは地中深くに生息していますが、樹上、洞穴、雪上、海岸など広範囲で見られます。
生息場所によって体の形態が異なることが知られています(図2)。地表性のものは体が大きく、眼や跳躍器が発達していますが、地中性のものは体が小さく、眼や跳躍器が退化し、無いかあっても機能しません。
腐植、菌類、花粉などを食べるほか、肉食も知られています。寿命は数10日のものから1年を超えるものまでいます。一般に繁殖力が高く、種によっては好適環境で急増することもあります。
多くの種が有機物の分解に関与
トビムシ類の餌の種類は比較的広範囲ですが、主なものは植物遺体と菌類の菌糸と胞子です。顕微鏡下で、トビムシ類を見ていると、これらの餌の破片が透けて見えることがたびたびあります。すなわち、餌を咀嚼して食べるのに適した口器をもつものが多くいるのです。
わずか厚さ数mmの有機物層であっても、トビムシ類のような小さな生きものにとっては水平的にも垂直的にも異なる環境の生息場所となります。たとえば、アカマツ林のトビムシ群集では、落ち葉の分解過程に伴って種組成が変化し、初期には地表性の、後期には地中性の種が多くみられます。たとえ1枚の落ち葉であっても、さまざまな種が入れ替わりながら分解されていくのです。
捕食性動物(天敵)の餌になる
土壌中に多数棲息し、しかも体が小さく軟らかく、多くの土壌動物の餌となるため、トビムシ類は「大地のプランクトン」とも例えられています。地表近くではクモ類や甲虫類の餌となり、地中にあっては甲虫類の幼虫や捕食性ダニ類の餌となります。このほか、ハネカクシ類、カニムシ類、ムカデ類など、捕食性土壌動物の重要な餌と考えられています。
個々の生きものにとって、生きている(活動している)場所や時間はそれぞれ異なります。多数の生きものが生活しているところでは、それぞれの相互の関わりも多様となり、さらに複雑な環境が形成されます。したがって、トビムシ類のような体が小さく、種数、生息数の多い動物が持続的、安定的にみられる畑では、より複雑な食物網が形成されます。そしてこのことは、特定の害虫によって作物が大きな被害を受ける危険性を少なくし、健全な生育の足がかりになります。
参考文献
青木淳一(1973)『土壌動物学―分類・生態・環境との関係を中心に』北隆館.
藤川徳子(1979)『自然農法研究シリーズ第3集 土壌生物を考える』, 環境科学総合研究所.
藤田正雄(2006)土を育てる生きものたち(6)大地のプランクトン-トビムシ-.ながの「農業と生活」, 43(5):9.